チーム組み
ウェーブのかかった赤い髪の少女。少しつり目気味ではあるが、大きな瞳のため不細工ということはなく、むしろ強気の美少女といった印象を感じる。
「髪から察するにさっきの博識な人だよね?」
「はくしきぃ~?」
なぜか、ばかばかしいといった顔でふざけ口調である。
おかしい、褒めたつもりだったのに、と思うハヤテ。
「吸光蚊の情報なんて私にとっては基礎中の基礎よ!」
「そ、そうなんだ……。」
(じゃあ、さっきは図鑑を見ながら言っていたわけじゃないのか?)
ハヤテはそう思うと、留美が大事そうに持っている――小柄な彼女には不釣り合いな特大サイズの図鑑のような本がやはり気になっていたので、それについてふれる。
「その手に持っている図鑑は、いつも持ち歩いているのかな?」
「何が図鑑よ! ……はあ~、あなたはほんとに何も知らないわね……。」
ハヤテの無知さに呆れて、溜息が漏れる留美であったが、仕方ないわねと言って続けた。
「これも退魔武器の一つで“封花放本”(ふうかほうほん)。退魔植物の花草種の花びらを本の間にペッタンコに挟み込んで、退魔力を封印しているの。押し花みたいなものよ。それで、意志を込めることで、一瞬だけ退魔力を放出できるの。」
先程、留美が吸光蚊の説明をしたときに本を広げていたのは、そのページを読み上げていたわけではなく、ただ単に自身の武器の確認をしていたに過ぎない。
わかったかしら?と留美は偉そうに付け加える。
ハヤテはうなずく。独自に食魔種の栽培を重視してきたハヤテには、それ以外の知識方面は当然ながら手薄であった。こういった情報はありがたいと思う。
しかしながら、こう何度も残念そうな顔をされるとさすがにハヤテも精神的にくるもがある。
とりあえず、この話をこれ以上続けても、何度も残念そうな顔を拝むことになるので、ハヤテは話を他へ振る。
「ところで、さっきのセリフはどういう意味なのかな?」
「だから、真面目に試験受ける気があるのか聞いてるのよ!」
声を荒げる様子の女性。
ハヤテはすぐ目の前に近づいてくる顔にのけぞる。
(ちょっ! 近い……)
美人な女性との接触が苦手なハヤテは、女性の体に触れないように両手で抑制する素振りを見せる。
「就職試験で自分の退魔武器を忘れるなんてありえないでしょうが!」
留美はハヤテが手にしている武器を指さして言う。
ハヤテの手に握られている武器――大太気。
弓に渡された予備武器の一つで、意志の込め方によって、長さが変化する槍。見た目は竹槍である。
長さとしては1メートル弱だが、意志によって長さを調節できるため、中距離武器としても使用はできる。武器自体のランクはかなり低いが、使用者の意志の力によって能力が決定されるため、上級者が使用するとランクが跳ね上がる。
「ああ……。でも、なんで知っているの?」
「退魔武器忘れた受験者のために、副隊長が走り回っていたって、面接官の人が話していたわよ」
「その大太気も低ランクの武器だし、退魔局の予備武器の一つみたいだし。」
「他の受験者にも結構知れ渡ってるわよ」
ハヤテはその言葉を聞き、一つ思い当たることがあった。
「そういえば、他の受験生が結構僕の方を見ていたな……」
ハヤテは、実技テスト説明中に、視線を感じてはいた……。
それが理由で、ハヤテはチームの誘いを断られ続けていたわけであった。
予備武器なんかを持った者などをチームに入れても、戦力にならず足手まといになるだけなのだから。
「でも武器を忘れたのは、俺の所為じゃ……」
「ふんっ。言い訳するなんて腹立たしいわね。……ならいいわ。」
「葉本留美よ!」
ハヤテに弁解の余地も与えず、人差し指を突き立ててくる。
そして、女性は当然何かを思いついたらしく、いきなり人名を発した。
「え? それは誰の名前かな?」
「何言ってんのよ! 私の名前に決まっているでしょう!」
「……?」
ハヤテはなぜ女性が自分の名前をいきなり言い出したのか不思議に思った。
「えと、じゃあ葉本さん。なぜ、僕に名前を言ったのかな?」
「これからチーム組むのだから、自己紹介くらい当然でしょうが! ほら、あなたも!」
「……え?」
(なんでそんな流れになっているんだ?)
腰に手を当てて仁王立ちしている留美が早くと言わんばかりにハヤテの自己紹介を待っているので、とりあえずハヤテは自身の名前をつたえる。
「根城ハヤテだけど。」
「ありがたく思いなさい。この私と組むのだから、合格は確実ね」
ハヤテはさっきの流れからなぜチームを組むことになっているのか分からず質問する。
「今までの話の流れからすると、僕と組んでも全くのメリットがないのは立証されたはずなのだけど、どうして僕と組もうと思ったの?」
「なっ!? べ、別に気まぐれよ。あなたが誰とも組めずに、一人で森に入って悪魔にやられるのがかわいそうだと思っただけよ!」
ハヤテのもっともな質問に対して、一瞬だけ顔が引きつるが、すぐに上から目線で偉そうに返答する。
どうやら、ハヤテの実力を見抜いたうえでの選定ではないらしい。
「へえ、優しいんだね」
と、ハヤテは留美の行為を素直に受け入れる。
そんな純粋なハヤテの言葉に対して、少し顔を赤く染める留美。
「じゃあ、あの子ともチームを組んで上げてほしいのだけど……」
そう言ってハヤテは、ある女性を指す。
その女性は先程、おどおどしながら弓に質問していた女性であった。
特に何をするわけでもなく、ずっと立ったままで、もぞもぞしながら目線を落としている。
ハヤテは一度、彼女にチームを組まないかと声をかけていたのだが、下を向いたままで何も返事が返ってこなかったため、無視されたのかと思い誘うのをあきらめていた。しかし、それからもずっと一人のままで、他の受験者の誘いも無視しているみたいであった。そんな彼女をハヤテは気にかけていた。
「きっと、僕の大太気を見て戦力にならないから無視したのだと思うけど、君と一緒なら、チームになってくれるんじゃないかな? あの子、さっきからずっとあの様子で……」
「え!? あの子は……」
なぜか、留美は困った顔をするが、先程のハヤテに対する同情心を見せた矢先に、嫌だとは言えない。
「あれ? やっぱりだめ?」
「何言ってるの! い、良いに決まってるじゃない!」
と、気が進まないが、強気に言ってみる留美。
「ほんとに! やっぱり、葉本さんは良い人だね」
(良い人か……。そんなこと言われたのは久しぶりだわ)
ハヤテの言葉に再び頬を赤く染め、嬉しさのあまり顔がほころびかけるが何とか耐える留美。
留美はその女性とは組みたくない理由があったのだが、それはハヤテには言わないことにした。
なぜ自分が、残り物のハヤテたちと組もうとしたのかという真の理由も。
「あの~」
ハヤテは、気まずさを感じながらも、落ち着きのない女性に話しかける。
「……」
女性は、一瞬ハヤテに驚いて、両目を大きく見開いたが、すぐに目線をそらす。何度かハヤテの方をちらちら見てくるが、返事はない。
「僕たちとチームを組まないかな?」
「……」
先程とは違い、ハヤテだけでなく留美もいるため、横に並ぶ留美を手で示す。しかし、女性はちらちら見てくるだけで、何も返事がない。
「仕方ないわね……!」
痺れを切らした留美は、いきなりその女性の手をつかんだかと思うと、そのまま引っ張って、森の中へ入ろうとする。
「えっ!? ちょっと……」
女性は驚きの声を漏らす。
「はやくいくわよ!」
間髪入れさせず留美はハヤテの手をもう一方の手でつかみ、そのまま森の中へ踏み込むのであった。
普段の留美ならこの女性は無視して、ハヤテだけ引っ張って森の中へ入っていったのだが、良い人と言われ気分が良かったため、今だけでも良い人のふりをしようと可愛そうな2人?を連れて森の中へ入ったのであった。
4人まではチームを組めたが、留美の強行により、ハヤテはそれを諦めることにした。
これから数多くの種類の武器を出していく予定です。