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実技テスト

 ――醜木山しゅうきやま


 現在、ハヤテたち受験生は退魔局から移動し、テスト実施地である、醜木山の入り口前に集合している。

 退魔局から約2キロメートルは離れているが、それでも悪魔生息地としては近場にあたる。

 

 山は昼であるにもかかわらず、森の中には日光が差し込まず、まるで夜よのうだ……。

 

 ……ということはなく、樹木自体は3メートルほどの高さがあっても、地面に所々日光が当たる程度には木々が離れているため、少し薄暗い程度だ。

 

 夜でないからといって、決して悪魔の動きが鈍るなんてことはなく、むしろ日光に当たることで活発になる悪魔なんてのもいる。太陽光発電の機能を備えた電子機器系の悪魔たちだ。

 そして今回の実技テストはそんな悪魔を相手にすることになっている。


 悪魔の危険ランクは『E』。

 専門学校卒業レベル……いやそれよりも少しレベルが高いくらいだ。


 対象の悪魔の名前は『ソル・ヴァンプ』。別名『吸光蚊きゅうこうか』。

 ソーラーパネルに意志が宿った悪魔である。

 通常の蚊と似ており、ソーラーパネルのような長方形の4枚の羽根を持ち、そこから針金が伸びたように、鋭利な口と足が付いている。ただ、サイズが定まっておらず、日光の吸収量によって大きさが変化する。夜は最も小さくなるが、蚊とまではいかず、大きめのカブトムシくらいのサイズである。大きくなると、最低でも犬や猫といった小動物レベルまでは大きくなる。

 その小動物レベルのサイズのものが、ちょうど危険度Eに当たる。

 鋭利で、長く伸びた口は刺されたらひとたまりもない。

 しかし、体は脆く、こん棒などで殴ってしまえば、一撃で倒せるレベルなのだが、それだけの話なら危険度Gくらいで済むだろう。


 危険度Eと判別されるのには、もう一つ大きな特徴がある。


 電撃を放出できるというところだ。


 直接触れなくても、鋭利な針金のような口や足から電撃を飛ばし、離れている対象へも当てることができる。

 死ぬほどの威力はないが気絶する威力はあり、気絶してしまうと鋭利な口でハチの巣にされる。

 それを含めて、危険度Eだと判別されている。


 だが、羽音がうるさいから近づいてきたらすぐに察知できる。

 音で居場所を探り、先制で一撃で倒すのがコツである。

 基本的には日光のよく当たる場所にいるから、森の開けた場所などは要注意だ。


 当然ながら、ソル・ヴァンプ以外にも悪魔は存在しており、それらも気に掛ける必要がある。


「各自、羽根を一枚持って帰ってこい」

「それが、合格条件だ」

 

「死にそうになったり、ギブアップする場合、先程玄関口で渡した、信号弾を使用しろ。われわれ、監視官役が駆けつける」

「その場合は、失格だがな」


「テスト内容は以上だ。各自、武運を祈る。死ぬなよ」

 

 そういって、退魔局第2支部“植部隊”副隊長の字弓あざなゆみは説明を終えた。


「はあ~」


 なぜか、弓の隣にいる金髪の男――弓と同じく植部隊であり隊長である男は、弓が集合時刻ぎりぎりに到着した時と同じく、深くため息をついた。


「おい、副隊長さん。実技テストの制限時間はどこにいったんですかね? こちらも暇ではないので、ずっと受験者を待っているわけにはいかないのだが?」


 少し困った顔で、冗談交じりに弓に尋ねる隊長。


「いや、あ、あの……。日、日が落ちるまでだ!」

「正確には、午後7時だ」

「う……」


 弓があわてて補足説明を入れるが、隊長にさらに補足されたせいで、弓は恥ずかしそうにうつむいている。

 さっきの堂々とした態度は全く無く、失敗して上司に怒られる新人のように見える。


(やはり、不意を突かれると本当にパニックになる人だな。でも、そんなところもかわいく見えてしまう。俺が上司ならすぐに許してしまいそうだ。)


 と、ハヤテは思っていた。気づけば顔がにやけていた。


「あの~」


 そんな微妙な空気の中、たじろぎながら、自信なく挙手する者がいた。

 当然、声のした方へ視線が集まる。

 受験生の一人が挙手していたのだが、挙手と言っても肘までは伸ばさず、顔の真横に掌を並べている。

 少しふっくらとした頬、みんなの視線を浴び少し赤く染まっており、目も泳いでいる。

 ボリューム感のある茶髪だが、ショートヘアーのため清潔感も感じられる。

 黒の制服からはみ出る、美白と言える潤った肌が自然と印象に入ってくる。

 弓を美人というのに対して、この女性には可愛いという言葉があてはまるだろう。

 女性用の制服は、スカートか男性用と同じ長ズボンを選択できるのだが、この女性は残念ながら長ズボンを履いているため、美白であろう足を確認することができない。

 しかし、制服の上からでもわかる胸のふくらみは、確認する必要がないくらい大きなものであった。

 背中には何やら筒状のものを背負っており、布で包まれているが、おそらく退魔武器なのだろう。


 男性群はその女性の美貌に何度も目をやっている。

 当然ハヤテも、今は弓からそちらへ目を向けている。


 皆が視線を向けるものだから、その女性もおどおどしい表情を続けるだけで、なかなか言葉を発することができない。


 痺れを切らした弓が代わりに言葉を発する。


「どうした、何かわからないことがあったか?」

「えと、わからないことというか、気になったことなんですけど」


 少女は弓の言葉の流れに乗ってやっとしゃべりだした。しかし、目がやはり泳いでいる。

 うるっとした瞳が弓と地面を何度も往復している。


「言ってみろ!」

「えと、先ほど合格条件として羽根一枚を持って帰ってきたら合格だといいましたが、それじゃあ一人一体討伐がノルマではないんですよね?」


「よく気付いたな! 確かに、各自一枚羽根を持って帰れと言っただけで、一人で一体討伐しろとは言っていない」

「もちろん討伐しなければ羽根は手に入らないのだがな」


 すっかり弱気な少女に対して、弓は先の自信の失態を無かったことにするかのような勢いで、堂々と返答している。


「吸光蚊には羽根が四枚生えている。だから、羽根の数と同じ人数のチームを組んで一体討伐すれば、チーム全員が合格できるということですよね?」


 先の少女とは別のところから自信ありげな声が聞こえる。


「いくら危険度Eとはいえ、数人で相手すれば難易度は下がりますよね?」


 さらに続ける。


 ハヤテはその声の方に顔を向ける。

 しかし、当人の顔は見ることができなかった。

 女性は顔全体を覆い隠せるほど大きな図鑑のように分厚い本を持っていた。

 その本を両手で広げて、顔の前に突き出しているのだから、顔を確認できるはずもない。

 本の上からひょっこり赤髪が出ている。

 本の下や左右からは、ウェーブのかかった肩までかかる赤髪がはみ出ている。


「なかなか、察しがいいやつがいるな。皆も今聞いた通り、この実技テストはチームでの討伐も許可する。ソロで討伐したい奴は別にそれでもかまわんが……」


 弓の言葉を受けて、実技テストの難易度に若干不安を感じていた者達は、安堵の声を上げる。

 少しの間ざわざわとしていたが、隊長の「注目!!」という声に再び静まりを取り戻す。


「それでは現時刻を開始時刻として、終了時刻は午後七時とする。」


「では……、始め!!」

 

 隊長の掛け声で、皆一斉に森の中へ向かう……という流れにはならず、多くの受験者は森の入り口で滞っていた。


 さっそくチームを組もうと他の受験生に話しかけるもの。

 他の者に声をかける勇気がなく、ただ立ち尽くすもの。

 躊躇なく森に踏み込み、ソロで討伐しようとするもの。


 ハヤテはとりあえず、全体の様子を見て頃合いを図り、森に入るつもりだ。もちろん、ソロ討伐できる実力は十分すぎるほど、持ち合わせているが、ハヤテはすでに合格は確定している。無駄に危険を冒す必要はなく、チームに誘ってくるやつがいれば誘いに乗り、誰も誘ってこなければ、自分から誘うつもりであった。

 

 20分ほど待っていたが、誰も誘ってこない。こちらから誘うことにしたのだが、なぜかすべて断られてしまう。

 すでに、受験生の4分の3は森に入っていった。残った人数も数十名だ。受験生は全部で60人はいたであろう。

 ハヤテは諦めてソロで討伐しようと決め、森に入ろうとする。


「あなたは真面目に試験を受ける気があるのかしら?」


 ハヤテの森へ踏み込む足をその一言が止める。

 ハヤテは、そのしゃべり方からして、弓だと思いながら後ろを振り返るが弓ではなかった。


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