退魔武器
「ところで、まだ面接は終わりそうに無いのか? 今どんなことを話しているか分かるか?」
ハヤテは弓にそういわれると、窓に耳を当てて面接の会話内容を聞き取ろうとする。
「―――で、この後実技テストがありますが、自身はありますか? 意気込みをお願いし――――」
窓の向こうからは、会話の途中であったが、ハヤテは何とか聞き取ることが出来た。
「えーと、実技テストについての意気込みを聞いているみたいですね」
「おっ! じゃあもうすぐ終わりだな。お前もそろそろ準備に……」
「わかりまし……」
「「あっ!」」
二人はそろって声を出す。あることに気づいてしまったのだ。
「……ハヤテ君。退魔植物は持っているかな?」
「逮捕されたときに家に置きっぱなしで、今は持っていません……」
2人は実技テストで使用する退魔植物の準備のことを忘れていたのだ。
肝の据わった風格を持つ弓であったが、今は少しあせりを見せている
ハヤテが逮捕されてから、退魔植物を退魔局で回収する予定だったのだが、取扱の方法が分からず、ハヤテに取扱方法を聞いてから、回収する手はずなのであった。
ところが、それを忘れていたため、刑務所から直通で退魔局に来てしまっていた。
「取りに行っていたら間に合わないから……、予備の退魔武器でも使うか?」
「でもそれですと、食魔種のデータが取れないんじゃないですか?」
「いや今回の実技テストは退魔士本人の身体能力、判断力、精神力などをデータ取りするだけだ。退魔方法は特にデータはとらないから問題は無い……はず…だ……」
自信が無いのか、弓の声が徐々に小さくなってくる。
「わかりました。基本的にはどんな武器でも問題ないですよ。食魔種に比べれば簡単です」
ここに来て初めて、強気になるハヤテ。
「よ、よし。では、武器をいくつか持ってくるから待っていろ」
ソファーから立ち上がり、あわただしく部屋を出る弓。
「あっ……。そっちは……」
ハヤテが止めようとしたが聞こえていなかったようだ。
弓は準備室から廊下につながるドアから出ずに、隣の面接中の会議室につながるドアから出てしまった。
面接官からは細い目で見られ、受験者からは何事かという驚きの目で見られている。
弓はそんなことは気にも留めず、急いで会議室から廊下へ出た。全力で走る音が廊下に響き渡る。
弓は予期せぬ出来事には弱い人なんだなと、ハヤテは思う。
さすがに、戻ってくるときは廊下を走っている音は無く、廊下側の準備室のドアから弓が入ってきた。
「とりあえず、この中から選んでくれ。別に全部でも良いが」
弓は持ってきた武器を机に並べ、乱れた黒髪を整えながら言った。
弓が持ってきたのは3種類。
1つ目が、退魔刀「火乃鬼」。退魔植物の樹木種で、見た目はただの木刀である。樹木種は攻魔性は低めだが、防魔性には優れており、悪魔の攻撃を防ぐのに使われる。
2つ目が、退魔槍「王太気」。退魔植物の草木種で、見た目はただの竹やりである。草木種は攻魔性には優れているが、防魔性は劣る。
3つ目が、退魔槌「粉滅頭」。退魔植物の草木種で、頭蓋骨サイズの米粒に鎖をつないだ、メイスである。
退魔武器には数多くの種類が存在するのだが、大きく分けて2種類ある。
1つが、退魔植物を原材料として作成された、退魔植器。
もう一つが、退魔動物の角や爪などといった体の一部を採取して作成する、退魔動器。
今回弓が持ってきたのは全て、自身の植部隊から持ってきた退魔植器である。
退魔植物には種類分けすると、樹木種、草木種、草花種の3種に分けることができ、ハヤテの栽培していた食魔種は草木種の中の1種であり、退魔植物の中でも最高の退魔性を誇る。
そもそも退魔植物は、使用方法がいくつかあり、一部分を材料として、武器にする方法がある。
武器にする場合は、材料にする部分によって、元の退魔植物の退魔性が若干異なってくる。
ハヤテは腕を組み、並べられた武器を観察し、その後、丁寧に手で感触を味わっていく。
(う~ん。やはりこいつが一番しっくり来るな。)
「では、これにします」
ガチャ!
ちょうどハヤテが武器を決定したと同時に、会議室側の扉が開く。
「おい、字! お待ちかねの実技テストだ。監視官役頼むぞ。」
開いた扉から、金色に染められた短髪の男性が顔を出す。
そして、ハヤテに視線を向けて、さらに続ける。
「根城君! 君も準備が出来たら、10分後に退魔局玄関口に集合してくれ」
「はっ、はい!」
見た目のチャラそうな金髪とは真逆で、とても誠実そうな口調ではっきりとした大きな声に反応し、ハヤテはピンッと立ち上がる。
「了解です。隊長!」
ハヤテよりも遅れて、弓も立ち上がり、敬礼する。
金髪の男性が顔を引っ込めた後、ハヤテはもう1つ気になることがあり、弓に尋ねる。
「僕、退魔士資格持ってないんですけど、そのところはどうなるのでしょうか?」
「ふっ・・・。それは安心しろ。退魔士資格というのは別に専門学校を卒業するという方法でしか取得できないわけではない。」
「そうでしたっけ?」
先ほどのあわてた様子が嘘のように、自身ありげに話し出す弓。
ハヤテは独学で退魔について学んでいたため、退魔士のことはあまり知らない。
それが分かっているため、弓は優越感に浸りながら話を続ける。
「ああ、退魔士の能力が十分にあると退魔局が判断した場合は、資格を与えることがある」
「今回君は不可能といわれた食魔種の人工栽培を成し遂げ、しかも使役法で危険度Sの悪魔を倒したのだ。その能力が認められて、君は先日、退魔士資格を取得している。」
ハヤテは初めて聞いたという顔をしており、弓もそれを見て満足そうだ。
そして、それをさらに煽るかのように無知のハヤテは片手を挙げて、博識の弓に質問する。
「すみません。その話の中に出てきた“使役法”というのは何ですか?」
「使役法とは退魔生物をどうやって退魔に用いるかの分類の一つだ。使役法は君のように退魔生物をそのまま、使用して退魔生物自体に悪魔を攻撃させる。もう一つは練成法があって、退魔生物の一部を用いた武器などで、悪魔を攻撃する方法だ。退魔植物は意思を持つ種類が少ないため、後者の方法が多いのだが……」
そう言いつつ、弓はコートのポケットから懐中時計を取り出し時間を確認する。
「もうそろそろ、行こうか。さすがに、監視官役が遅れるわけには行かないからな」
「先に玄関に行っていろ。私は武器を片付けてくる」
そういうと、弓は再び急いで廊下側のドアから出て行く。先ほどの慌てていた時とは違い、急いでいるにもかかわらず、余裕が感じられた。
その後、ハヤテは5分前に玄関に到着し、弓は少し遅れて、ぎりぎりの1分前に到着した。
ハヤテと同時刻に到着していた金髪の隊長はそんな弓を見てため息をついている。