七草
「せり、なずな、ごぎょう、はこべら、ほとけのざ、すずな、すずしろ。これぞ七草」
今年の4月には高校3年になる井野嶽幌が、私服でスーパーに買い物に来ていた。
すぐ横には、双子の姉である桜がいる。
「なにそれ、呪文?」
「いや、春の七草の覚え方だよ。全部昔の呼び名だから、今に直すと、セリ、ナズナ、ハハコグサ、ハコベ、コオニタビラコ、カブ、ダイコンになるな。平安時代にはすでに行われていたとされているんだけど、室町時代が発祥だという人もいるんだ。ま、今行われているから、遠慮なく食べさせてもらうけどね」
「七草粥ね」
桜が、買い物かごの中に七草がまとめられた袋を入れている幌に言った。
「まさしくその通り。七草粥は、体にいいんだ。冬場不足がちな青草についても摂れるからな」
「じゃあ、明日の朝ごはんは…」
桜は幌をじっと、何かを待っている子犬のように見つめる。
「七草粥な。7日に学校は始まるけども、最初の日だからすぐに終わるだろうし。昼ご飯にでもしようかと考えていたんだがな」
「それでもいいよ。幌の好きなように」
桜は、希望に満ちた声で幌に答えた。