哲学ラジオ
ふとした瞬間に思う。
私はなぜ生きているのだろうか、と。
それは誰にも答えられない問いだろう。
私がわかっていないのに、私でない他人がわかるはずもない。
それでも私は問い続けている。
私はなぜ生きているのだろう、と。
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《―――ハローハローハロー!! 聞こえてるかい? これは俺の独断と偏見に満ちた、俺のための海賊放送ってやつだ。興味がないなら聞かないことをお勧めするぜぇ?》
なんとなくつけていたラジオからノイズが聞こえた後、ハイテンションな男の声でそんな言葉が吐き出されてきた。
(海賊放送? ついさっきまで正規のラジオ番組が放送されてたのに?)
そんな私の疑問に応えるようにラジオから声が聞こえてくる。
《今、『おかしくね?』って思ったやつに教えてやるぜ。同じ周波数ならより強い方が聞こえてくんのさ!! まぁ、俗に言う電波ジャックってやつだな。ちなみにこれが聞こえてるやつぁあご近所だと思うぜぇ? あんまし強い電波じゃねぇからな!》
わざわざそんなことをするぐらいなら、使われていない周波数を使った方が早い気がする。
というか、そんなことができること自体が疑わしく思える。
そんなことをつらつらと考えている間にも番組は進んでいく。
《まぁ、あいてる周波数使ってもよかったんだけどさ。やっぱラジオやるなら誰かに聞いてほしいわけよ。だからジャックなんて真似してんだけど、これって犯罪になっちゃったりするのかねぇ? ま、細かいことはスルーしてくれな!》
(いやいやいや、細かくないだろ?! 犯罪になるかどうかくらい確かめとけよ! 私も知らないけど…)
《な~んかバカにされたような気がしないでもないけどスルーしとくぜ? さて、ラジオやってみようと思って始めたはいいけど、何していいのかよくわかんないな。ん~、そうだな。こないだダチに聞かれたことについて話してみるかな?》
そんなことを聞かされて、私たちにどうしろというのだろうか?
あまりな選択に思わず苦笑いがこぼれていた。
《まぁ、その内容ってのが『自分は何のために生きてんのか?』ってことだったんだけどよ。そんなの俺にわかるかってなぁ? まぁ、でも俺はこう言ってやったわけだ。『そりゃぁ生きてくために生きてんだろ』ってな。意味がわからないかい? 要するに『生きてるのに理由なんかいらねぇ』ってことだよ。》
それで納得できないから聞いてるんじゃないか。
《だったらこう言ってやろう。お前はこのラジオを聞くために生きてんだ!! 他の誰でもねぇ。俺のラジオを聞くために、な!!》
私の考えが聞こえているような言葉に驚いた。
ラジオの『彼』は急に落ち着いた声音で続けた。
《いいかい? このラジオを聞いてるあんたがどんな考えを持ってるかなんか知ったこっちゃねぇ。死のうが生きようが俺には無関係だ。けど、それでも俺はあんたに死んで欲しくねぇ。》
ドキリとした。明確な理由のないその言葉が、どうしようもなく心に響いた。
《誰かが死ぬってのは、何かが欠けるってことだ。欠けた後には穴が残る。何したって埋まんねぇ穴が。あんたはそいつを考えたことはあるかい? いわゆる遺される痛みってやつを、よ?》
考えたことはある。遺されたことなんてないから、それがどんな感覚かはわからないけれど。
《だろうなぁ。そいつはわかるわけがない。諦めてる奴には特にな?》
なら、あなたはわかってるのだろうか?
《俺にもわかんねぇよ。死なれたことなんかねぇからな。親父もおふくろも会ったことすらないからな。ダチもあんま多くねぇ。それでも毎日楽しくやってるさ。
あんたはどうだい? 楽しんでるかい? それともただ死んでるかい?》
私は…どうなのだろう? 楽しくはあると思う。でも、生きていることは怖い。
《そんなもんじゃね? 誰でも怖ぇんだ。明日がどうなるかなんてわかりゃしねぇ。だからってそれに怯えてるだけじゃ何もできなくなっちまうだろ。怖くたって前向いて歩くしかねぇんさ。そうだろ?》
そうかもしれない。でも、私は歩くことを諦めてしまった。ずっとずっと前に。
《それはよくねぇなぁ。うつ向いてないで顔上げな。後ろ見てないで前向きな。うじうじしてるくらいなら上見て歩けや。躓いたって気にすんな。こけちまったらまた立ちゃぁいい。ほれほれ、そんなとこで膝抱えてんなよ? あんたはこれからも生きてかなきゃなんねぇんだからよ。》
私は生きるべきなんだろうか? また、歩きだせるのだろうか?
《やってみなけりゃわかんねぇ。それこそ俺の知ったこっちゃねぇわな。あんた次第でどうとでもなるだろうよ。》
私次第…?
《死ぬのは怖ぇぜ? 痛ぇし苦しいしめちゃくちゃ怖ぇ。どんなに死にてぇって思ってても、躊躇っちまうくらいにな。あんたはそれでも死にてぇかい? 生きる理由を見つけてみないかい?》
生きる理由……。
《何でもいいさ。何でもいいんだ。あんたが思った通りでさ。
さぁ!! 聞かせてくれよ、あんたの理由を!!》
私の理由は………!!
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――…あれ? 私いつ寝たっけ?
昨日はラジオ持って屋上にいたのに……
なんで部屋にいるんだろう?
まぁ、いっか。
うん、今日からまた頑張ってみよう。
だって私は生きてるんだから!
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《グッバイシーユーサヨウナラ!! 聞こえてたかい? これは俺の独断と偏見に満ちた、俺のための海賊放送ってやつだ。答えは全部あんた次第。生きるも死ぬもあんたの自由だ!
さぁ、あんたはどんな答えをきかせてくれる?
ここまで聞いてくれてありがとな!! んじゃぁ以上!! またいつか―――――》
実際に正規の放送をジャックするとかできるのかはしりません^^;
法律関係もわかりません
なんとなくの思いつきで書き上げましたからツッコミは不可でお願いします(笑