第88話
「ナ……?」
十字架が、闇の少年を切り裂いた。まるで蜃気楼に手を加えたように歪んでいる。
「キマリハ…カナラズ…オコナワ…ナケレバ…」
「そんな考えいらないよ」
ハカセは闇の少年に近づき、その頭に先ほどちぎった紙を置いた。
「戻って勉強しな、世の中とは臨機応変が必要だと、ルルは時として破るものだとね」
「ルールハ……リン…キ…オウ…ヘン…ヤブル……モノ」
「そうさ、さぁ、少年の中に帰りな」
「……」
闇の少年は消え去った。
しかし、どこに行ったのかは分かる。
少年の中だ。
「……終わったん、ですか?」
もっと恐ろしい攻撃を予想していた。
「まさか、少年が襲いかかってくるとでも思ったか?」
「違うんですか?」
「少年には思い形見はおろか、戦闘力など欠片も無いんだよ」
「では……何故私が一撃を入れる必要が? それに、先ほどの防御は」
「それさ、戦闘力が全く無い少年は、守りが強いんだ。だから隙をついた一撃を入れて、私が紙に書いた事を実行するだけ、それで終わりさ」
「では……」
「うむ、ツバサの優勝だ」
私の、優勝……
これで私は、生き返るのか……
なんだか、変な気持ちだ。
元より死んだ心地が無いからだろうけど。
「オメデトウ アラタメテ アナタガ ユウショウシャデス」
光の少年にも祝福された。
「ありがとう」
「さてと、光の少年よ。お礼ならば態度で示してくれるよね?」
「……ウン ヤクソクシタ ヤクソクハ マモル」
そう言うと少年、は語りかけた。
私達にではなく、空へと、特定の人物達に語りかける。
ユウショウシャガ キマリマシタ
タイカイハ コレデ シュウリョウデス
シカシ
イマ コノコエガ キコエテイル ミナサンハ
レイガイヲ ミトメマス
イキカエリタイ カタハ ノゾンデクダサイ
コチラヘ テンソウシマス
「……光の少年は、ルールは破っても、約束は守るんですね」
「そんなもんさ、光にしろ闇にしろ、それは自分だ。どこかが違っても、どこかは同じなのさ」