第86話
暗い闇の先は、同じように暗い空間。常に歩いてた場所も暗くはあったが、ここは更に暗かった。
前に進んでいるのかも分かりにくい場所だが、互いの姿はまるで発光しているかのようによく見えた。
「この先にアイツはいるぞ」
ハカセを先頭に、私達は進んでいた。
「さてと、話を聞こうか?」
「……アイツとはいったい、何者なんですか? 私とミカみたいなものだと言っていましたが…」
一番気になっていたことだ。今も隣を歩いている少年。そのもう一人だというが。
「うむ、まさにその通りだ。そしてアイツは、闇の少年」
「闇の……少年?」
「人には光サイドと闇サイドがある。私の自論だ。それの強い方が人の性格として現れるのだが、ツバサや少年のように、稀に光サイドと闇サイドの両方に人格がある場合がある。だが普通なら片方が強いので現れる事は無いのだが、何かしらを引き金に現れる事がある。人はそれを、二重人格と呼んだりもするのさ」
「……」
「よく、AB型は二重人格が多いとか言うが、そんなもの関係ない。ただその人の両サイドの力関係が現れたものなのだよ」
「……なら、私は闇サイドですね」
「ふむ……確かにミカの方が光っぽいな、というか、闇の訳が無いだろうあの性格で」
「はい、あの性格で」
私とハカセは笑った。
こんな時だからこそ、私達は笑おうと思った。
しかし、
少年はそうもいかないのか。先ほどから下を向いたまま私達の後について来ていた。
「……あなたは、光サイドですよね?」
ふと、尋ねてみた。
「……タブン」
少年は下を向いたまま答えた。
「……ゴメンナサイ ボクガガンバラナイカラ コンナコトニ ナッテシマッタ……」
「それは違うぞ、少年」
ハカセは歩き続けたまま、こちらを見ずに言った。
「世の中ってのは、例外があるから楽しいんだ、だから少年がした事は、決して謝る事ではない」
「……デモ」
「別に私達は謝ってほしいなど言っていない、むしろ少年は手伝っているのだ、そんな少年が謝る理由などどこにあるんだ?」
「……」
「それに、少年はかなり初めの方から彼女のイレギュラーに気づいていたのだろ? そうでなければ、ツバサ達が初めて私のところを訪れた理由が見つからない。一片でも見つければ後は私の役目だ。その一片を渡した君は、十分すぎる活躍をしているんだよ」
そうか、私がレインに勝った後、起き上がったレインが黒い扉を探せとあの少年から聞いたと言っていた。
それは、本当に私宛のメッセージだったのか。
ミカと私の事を、ハカセに伝えるための。
「それでも謝りたいと言うのならば……言葉ではなく、態度で示したまえ。私に、そうしたようにな」
「……」
「なに、今さら例外は怖くもないだろう? なんなら、アイツがもう現れないように、私達がボコボコにしてやるから、少年は気にせず例外を続けたまえよ」
「……アリガトウ」
「それは終わった時に、出来れば態度で示してほしいね」
「……ヤクソク スル」
「決まりだね。ツバサ、私が前に言った事を覚えているかな?」
「はい、迷路の事ですね」
「うむ、このままいけば、私が言った通りになるかもしれないぞ」
「……ハカセは、闇サイドが強く出ているようですね」
「ははは、闇と光は対なもの。光があるから、闇がある、光が見えるのは、闇があるから、闇の中には、光があるものだよ」
「……そんなもの、ですか?」
「そんなものだよ」
ハカセの言葉は妙に難しいようで、子供じみている気がする。
それでも、私には理解できないようだけど。
私達は、暗闇を歩き続ける。
暗闇の中を、
声も出さずに歩き続ける。
皆の為に、
自分の為に、
私達は先を急いだ。
そして、たどり着いた。