第85話
皆が防衛に向かっている中、私達三人はハカセの黒い扉の近くへとたどり着いた。
防衛のおかげか、ここに来るまで参加者にはあまり会わず、出会った際は私やハカセが戦って蹴散らしていた。
そして、たどり着いた。残り50メートルと行ったところ、そこにあったのは見慣れた黒い扉と、見慣れない参加者の集団だった。
彼らが自分たち戦っており、私達、そして黒い扉にも気づいていないみたいだ。
「ふむ、あの人数はきっと元からこの空間にいた奴らだな。念のために扉を気づかれないようにしておいてよかった」
「どうしますか?」
「中に入れてしまえば、扉を消す事はできるから」
「ナカニ ハイレバイイ」
「分かりました。私が道を開きますので、2人はその内に…」
「その必要はありません」
聞いた事のある声を聞いた。
振り返ったそこにいたのは、
「アロマさん……」
「私が道を開きます。その内に中に入って、扉を閉めてください」
「頼めるかい?」
「えぇ、ただし一つ、約束してください」
「約束?」
「私も、例外の人物にしてください」
「……ヤクソクスル」
「アロマさん……なぜ」
「大丈夫です。私の戦い方は、あれだけではありませんから」
そう言い残して、アロマは参加者に向かって走り出した。
その姿に数人の参加者が気づく、その瞬間、ポケットから線香の束と拳銃型のライターを取り出して、線香の束に火をつけ、
ビシュ!
参加者へと投げつけた。
カカ カカ カカ カカ カカ
投げられた線香は参加者にの体や頭に当たり、数人が倒れた。その倒れた人達の間に、僅かながら黒い扉へ直進する道が出来た。
「今の内に!」
「恩にきる!」
「アリガトウ」
「死なないで下さい!」
それを見た私達は、扉へと駆け込んだ。
三人が中に入り、黒い扉が消えた。
それを見たアロマは、
「さて……守る物は無いので逃げても構わないのでしょうが……何となく、ここで戦いたくなりました」
線香を構え、戦い始めた。
「さぁ……ここからが本番だ。私から離れてはダメだよ」
「……はい」
ハカセの部屋、書斎の奥にたどり着いた私達。
あまり時間を使うのは良くないとわかっているけど、そこで私は、
「あの……ハカセ」
ある事を聞いてみようと思った。
その時、
「……ツバサ、ミカは、君の中に帰ったんだね?」
逆に尋ねられた。
「え? は、はい」
「そうかい……」
「……ハカセ?」
ハカセの声は、どことなく沈んでいるように聞こえた。
「……ツバサ。ミカは誰に思われて存在していたのだと思う?」
「……私、ですか?」
「うむ、そう考えるべきだ。あの兄妹みたいなもので、2人で一つだったんだ」
「……でも、私は居ます」
スノウとマチのような存在なら、ミカが消えた瞬間、私も消えている筈だ。
「それは、ツバサを思う人物が別に居るという事だ」
「……はい」
それは分かっていた。ミカを知らなかった私を、思ってくれる人なんて、一人しかいない。
「ふむ……思い、思われて、思われず、思って、思う……やはり、ここは研究のしがいがあるな」
「ハカセ?」
「……あのフレイとか言った少年。私は、あいつがいた場所で働いていた」
「え?」
急に話題が変わった。
「……自殺になるような研究はしていなかった筈だが、今のあちらは分からない。故に自殺が出るような実験を行っているのか……」
「……ハカセ?」
ハカセにしては珍しく饒舌だ。しかも、自らのことばかり。
「……すまない、今は急ぐ時なのにおかしな事を言ってしまって」
「いえ……始めてハカセが自分の事を話して、驚いています」
「ふ……さぁ行こうか、話ならば、歩いている途中に聞こうじゃないか」
「はい」
書斎の奥、そこは先の見えない黒。この先に、もう一人の少年がいる。
更なる闇の奥へと、私達は進んだ。