第79話
「……」
そうか、知らなかったな……
私の中に、もう一つ人格があったとは。出てこれなかったのだから知らないのは当たり前だが。
「……ツバサ」
ミカも思い出したらしい。
ミカは砂の剣を消した。
私も十字架を下げると、
ミカは私に抱きついてきた。
「私は……あなたの中にいたもう一つの人格。あなたがいたから……私は、ここにこうして存在していられる。あなたは私……そして、私はあなたです」
「……うん……私はあなた……あなたは私……」
「……体があるって、いいですね。色んな物を見て、色んな人と話ができる」
「そして誰かを思い……誰かに思われる」
「……はい。そうと分かった以上、私は降参しますです。どちらが勝っても、生き返るのは私ですから」
「そうだね……どちらが勝っても、生き返るのは私」
ミカも私も、どちらも私なのだから。
「普通ならこんな会い方は出来ない私達……こうして出会えて、とても嬉しかったです。少しだけでも、こうして会えた事が」
「私もだよ。近くに居るのに普通は会えない、そんな私達が、今こうして会っている」
一つの体を共有するゆえに、鏡を見ても会えない私達が、こうして出会えた。鏡など使わずに。
「……では、名残惜しいですが。私は……もう……」
ミカが離れた。
「こうして触れたことにより、私が何者か完全に分かりました。だから、私は私の中に戻ります。」
「……そうなんだ」
「はい……では……サヨナラ。もう1人の、ワタシ……」
そう言い残して、ミカは消えてしまった。
まるで風に舞う砂のように……
「……ミカ」
涙は出ない。ミカも泣いていなかった。
泣けないのもあるが、私は絶対に泣かない。
何故なら……サヨナラではないから。
ミカはただ。私に帰っただけだから。
ミカが消えた事、
それは、今までの戦いの終わり。
そして、
新たな戦いの始まりだった。