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第7話

彼女たちに無かったもの、それは…

さて、改めて目的を探そう、黒い扉……黒い扉か……

前にも言ったが、この黒の多い空間で黒いものを探すなんて無茶にも程が……



……あった。

黒い扉だ。この暗い空間、真っ黒に近い空間に、光っている訳でもないのにその黒い扉は周りの黒にまぎれずに目に見えて浮かんでいた。

「……あったな」

「はい」

「……どうする?」

「それはもちろん…」

ドアノブに手を掛け、回した。

回った。

前に押して開けて中に入った。

男もその後に続いた。

中に入って見た第一印象、例えるならそこは…書斎だった。

左右に身長よりも高い本棚が3つずつ、全ての棚に間隔無しに本が収まっている。

「はぁ…すげぇな」

男の感嘆の声は取り敢えずスルーして辺りを見回した。

本棚が並ぶ左右、その中央には机がある。机の上には、羽ペン・紙・本が数冊…

その置き方を見るに、読みかけの本を棚に戻さずに置いてあるという感じだ。

誰か居るのか? 机奥の椅子には誰もいない、その更に奥はカーテンのように波打つ先の見えない闇だ。

「何か用かな?」

「!!」

その暗闇の奥から、本を持った人が現れた。

肩より下の長髪で眼鏡をかけている。服装は白衣だ。

闇に反するような白衣を身に付けた二十代後半の…男、だろう。

だが違和感がある……まさか。

「あなたが…」

「私に用か? 客は久しぶりだな、まあ座りなさい」


パタンッ   ガタッ ガタッ

眼鏡の人が本を閉じた瞬間。闇から椅子が2つ現れた。

「おぉ! すげぇな!」

「……」

「掛けたまえ、そうしたら話を聞こうじゃないか」

「…はい」

私は椅子に座った。男も隣に座る。

眼鏡の人は机挟んだ椅子に腰掛けた。

本を机の上に置き、話し出す。

「さて…まずは自己紹介といこうか。私の事は、ハカセとでも呼んでくれ。生前は少しは有名な会社で唯一の女性研究員をしていた」

女の人だったのか…そこに驚いていたら、

「君達の、名前は何だい?」

名前を尋ねられた。

「私は…………」

…………あれ?

私の……名前は……?

思い出せない。どうしてだ…………。

「あれ……俺の名前って……なんだっけ?」

男も忘れているようだ。

そういえば、男に初めて会った時、自己紹介をしてなかった。

名前を聞かず、名前を言ってない、でもそれでもどうにかなってる。

それも気になるが、まずは自分の名前が思い出せないのが妙だ。

「はぁ…仕方ないな」

ハカセが溜め息を吐いた。

「まあ無理もないさ、何故なら我等は名前を無くしているからな」

「!!」

「なっ…何だよそれ!」

「うむ、いい反応だ」

ハカセは腕を組みにやりと笑った。喜んでいるようだ。

「我等は死者と人間の間みたいな存在だ。人間の頃の記憶はあるが、ただ一つ、名前は置いてきてしまっているんだよ、それが今の所一番の研究対象なんだ」

「研究対象?」

「私はね、ここで研究をしているんだ」

「何故こんな場所で?」

「理由は2つ、1つは私が研究員だったからだ。研究の対象がこんなにあって、放っておく事が許せなくてね」

「…2つ目は?」

「ここに来たからだ」

「……」

「嫌になったあの場所を抜けて、新たに付いた所がこんなにも研究対象に溢れている。いいことづくめさ」

「それってさ…死んだって事だろ?」

「そのとおりさ、君もだろ、少年?」

「むっ…その言い方は何か嫌だな」

「なら自らの呼び名を考えたまえ、それで呼んであげよう」

「呼び名か……」

「……」

確かにこの先、自分を名示すものがあった方が良いだろう。

丁度いいから、考えることにする。

「頑張って考えろよ…………若き選手達」




Hotel Aile

エルはフランス語で「翼」。何故こんな名かは知らない。何をしていた場所かもだ。

ここについて私が唯一知っているのは、


私が、


飛び降りたビルの名だ。


呼び名を考えている時、何か縁のある物から取ろう。そう考えていて一番に思い出したのが、そのビルの名前だった。

ここから取るとすれば……。

「……」

「決まったか?」

「…………ツバサ」

「ん?」

「私はこれから……ツバサ」

「決まったようだね、ではこれからはツバサと呼ばせてもらうよ」

私―――――ツバサは、頷いた。

「改めてヨロシクな、ツバサ、そしてレイン」

「おぅ、ヨロシクなハカセ」

帽子の男は、レインに決めたようだ。

電車→トレインかららしいが、安易だな。

「無理に名乗る必要はない、ここに来た時に私がそう呼ぶだけだからな」

「いやいや、せっかく手に入れた名前だし、使わせてもらうぜ」

「ふふ…さて、君達は何用でここに来たんだい?」

「あ……」

忘れてた。

「何も無しには、ここには来れない筈だよ?」

「あの声から……あなたに助言をもらえと」

「私にか?」

「俺が聞いたんだぜ」

「ふむ…とは言われても、私は何も聞かされていないのだが?」

「あの声と…話せるんですか?」

「いや、昔からの縁というものだ。私も昔はそうだったのだよ、君達と同じ自殺者だった」

「え……」

「じゃあ、ハカセも大会に出てるのか?」

「だから、昔はと言っただろ? 私は参加者だったんだ」

「もしかして…勝てなかったのか?」

「いや、決勝まで残ったさ、そこで棄権したんだよ」

「何故です?」

「先も言ったが、こんなに研究対象に溢れているのにそれを研究する者が誰1人として居ないんだ。ならば私がやる、と思ってな、棄権したらこの場所を提供してくれた」

「……では、ここについてはとても詳しいと?」

「当たり前だ。かれこれ年単位で研究していると、私は思うよ」

「……では、聞かせて頂けますか?」

「いいだろう、聞かせてあげよう、私の研究途中を」



そうです、名前でした。

人の数が少ないから名前で区別する必要が無かったんですよね

ですが今回で彼女たちの名前が決まりました。

それでは、これからもお楽しみください。

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