第77話
ミカは砂の槍を六本飛ばしてきた。
内二本を避け、三本を十字架で払う、最後の一本を飛び越えてミカに近づいた。
すると、これまでの攻撃ではダメだと気付いたのか、ミカが動いた。
「これが、私の新たなる力です!」
ミカの周囲に、砂の刃が現れた。
あれは恐らく空間を薄く止め、砂を詰めた物だ。
まるで紙のように薄く、まるで砂の粒のような刃、それがミカの周囲を囲ったことにより、触れただけで切り刻まれてしまうだろう。
しかしこの突進は止めない、これで決めるのだ。
グラビティア・クロス。これは一方向に対しての強力な攻撃だが、全方向や広範囲には攻撃が当たらないという欠点があった。
その為に考えたのがあの回転十字架だが、あれは時間がかかり、しかも操れない。
そこで、その二つを混ぜたような、あるいはその欠点を補うために考えた技が一つある。
私は実行に移すことにした。
意識を集中し……十字架を握る手に力を込める。
そして、
スパッ
音が聞こえた時、私はミカの後ろにいた。
そして振り返り、
スパッ
今度は右側にいた。
再び振り返って、
スパッ
左側にたどり着いた。
この技、名付けるならば、高速十字斬。
重力による移動と、十字架による斬り技を合わせたものだ。
グラビティア・クロスとの違いは速さと範囲、回転十字架との違いは起動の速さと操作性だ。
左肩にまいた鎖と十字架そのものから重力を最大量体に移す。
鎖と十字架により、二倍、普通ではかからない重力に従い私はその方向へと落ちる。
その速さは今までよりも何倍も速く。そこから繰り出される十字架による一瞬の斬り技。
速さと私の腕前のせいで一移動で一攻撃だが、重力の方向を変えれば再びの高速斬りが可能だ。
しかし、欠点が一つ。回数が限られている事だ。
それは体が重力の変化に耐えられるまでで、その為に意識を集中する。今の私では、七回が限界だ。
既に三回を放ち、ミカの周囲を囲う砂の刃を約半分蹴散らした。
後四回で砂の刃を全て消しつつ、ミカに一撃を与える必要がある。
もしも砂の刃が残っていたら、ミカに触れた瞬間刃は私へと迫り、私を切り裂くだろう。
これが決着の一手となる。
ミカの新たな力か、
私の新たな技、
どちらかが、勝ちを掴むだけだ。
スパッ
四発目を放ち、砂の刃を削る。
スパッ
続けて五発目、ミカは私の速さについて来れていない。
スパッ
六発目を放った時、砂の刃は全て蹴散らした。
後はミカに当てるだけだ。
意識を集中し、ミカ目掛けて、落ちた。
ガキィィィン!
ミカが防いだ。
私の突撃に合わせて砂の剣を作り、十字架を防いだのだ。
「危なかった、です……」
まさか守られるとは……
高速十字斬の後は体が少し動きづらくなる。
三半規管は無い筈だが、体に負荷を掛けすぎたから当然か。
今攻撃されたら対処が出来ない、再び砂の刃を出されたら終わり。
つまりは、敗けだ。
その時だった。
トクンッ
まただ、触れたことにより、ミカの記憶が―――――――
トクンッ…
トクンッ…
トクンッ…
トクンッ…
……いや、何かがおかしい。
これは――――
――――――私の記憶だ。