第65話
「助手になりますです」
「そうかい、歓迎するよ。えっと…」
「? どうかしました?」
「名前を聞いてないからね、何て呼ぼうか考えていたんだよ」
「あ、すみませんです。まだ私、名乗っていませんでしたね、私の名前は…」
……あれ? 私の名前って……
「無理してはいけないよ、私達は生前の名前を忘れているからね」
「そうなんですか?」
「そうなんですよ。だから自分で新しいの考えてたまえ、それで呼んであげるからさ」
「私の……新しい名前……」
……何故だろう。新しい以前に、私にはちゃんとした名前が無かった気がする。
そんな筈は無い、忘れているだけ、その筈だ。
そうだ、
そうに違いない、
そうだとしよう、
そうしよう。
さてと、名前だ。
私の、名前だ。
どうしようかな……
ゼロは生前、空気を読むのに長けていたらしい。
誰がどうしたら怒る、誰がこうしたら泣く、それらが手に取るように分かってしまい、まるで空気に触れて会話していたと言ってもよかったとか。
しかし彼は一人だった。その不思議のせいで、彼に近寄る者はいなくなり、彼は一人になった。
ここではない何処かならば、私を受け入れてくれる。私を仲間に入れてくれる。
そんな場所に行けるさ、今の私の周りは何も無い。
私は……ゼロだ。
悲しい話だとは思わない。
それ以前に、話を聞いた限りでは、対策が取れなかった。
空気と舌切り、どうやっても合わさらない。何をどうやって攻撃してくるのかが全く分からなかった。
まずはゼロの出方を見るしかない。
シアイ カイシ!
カーン
「……行くよ」
ガキン!
それは形のある上に、見る事のできる空気だった。まさか空気を物理的に防げるとは思わなかった。
空気が作っている形は逆三角形、それがただ一つ上から降ってきた。
「やるね、でもこれだけな訳ないよ」
ガキン!
続いて、下から三角形が現れた。
三角形の色は白、これが空気の色なのか? いや、これは空気であって思い形見だ。本物の空気の色ではない。空気から作っているのは確かだった。三角形が現れる直前にその場に空気が渦を巻いていた、だからそれだけは確実だ。
これが思い形見だとしたら、能力はいったい……
「油断は禁物だよ」
その瞬間、
ゴゥ!
三角形と逆三角形の間から、赤色の光線が飛び出した。ゼロの言葉のおかげで気づき、掠める程度で済んだ。
しかし、謎がさらに深まった。
三角形と逆三角形は攻撃の手段でありながら、あの光線を飛ばす土台の役目をも持つ。
光線は赤色。三角形は共に光線を放つと消えた。光線一発につき土台を二つ使用するらしい。
恐らく、同じ形ではなく、逆三角形と三角形のような二種類必要なんだな。
……うん。
ますます分からなくなった。