第5話
あれから、色々考えた。
男に触れてみたら、動かなかった。意識が無いようにも見える。
考えた結果、まぁ…別に待つ義理は無いのだが、取り敢えず男の回復を待っていた。
ある1つの疑問を説く為に。
「……ん」
起きたか。
「大丈夫ですか?」
「お? まだそこにいたんだな?」
「えぇ、立てますか?」
「おう」
男は立ち上がった。帽子に付いた土を手で払いながら、
「いや~負けた、負けた。アンタ強いね、一撃必殺とか俺は出来ないからさ、羨ましい限りだよ」
「いえ、あなたのも工夫次第ではかなり強いくなりますよ」
「工夫次第て……さらりと言うねぇ、まぁそうなんだけどさ」
男は帽子を被った。そのまま落としていた小石の回収を始めたので、
「ところで、1つお聞きしたいのですが?」
「何だ?」
聞いてみよう、疑問は残したくないから。
「あなたが倒れていた時、意識が無かったようですけど……?」
「あぁ、あん時か」
男は回収した小石をポケットに戻して、言った。
「確かに、意識は体の外にあったのかもな」
「どういうことです?」
「あの声を聞いてた」
「!!」
「そして教えてくれたんだ。あなたは負けましたってな、それと1つの伝言を、多分アンタ当てだ」
「私にですか?」
あの声が……私に?
「黒い扉の先にいる奴に会って、助言を貰えってさ」
「黒い、扉?」
「それは自分で探せとさ」
「……」
何だろう……扉を探して、助言を受けろ? 私は何かしたのか? 唯勝っただけだのに。
その時、
「なぁ」
男が話しかけてきた。
「はい?」
「俺も行って良いか? なんならさ、扉探すのも手伝うから…な?」
「……」
……まぁ、いいか。
「はい、いいですよ」
「サンキューな、早速行こうぜ」
男は歩き出した。私は後に続きながら、考え事をしていた。
私が男に十字架を突き刺した時だ。確かに刺さった、刺さった筈だ。
感触があったのだ。感触はあったのに…なのに、なのにだ。
血が付いてなかった。
そう言ったらあの時もそうだ、首を断ったのに、血が付くどころか、血は流れていなかった。
十字架にも血は付いていないし、私達には血は流れていないのか?
私は、私達は……何者、何だ……?
今となっては昔の話だが……私は研究者だった。
名前ぐらいなら聞いた事があるだろう、平凡な病院の研究者だった。
そこで行っていた研究内容の違い以外は、どこの研究所にもいそうな研究者だった。
だった……のだ。
扉を抜けて、何も無い空間に戻ってきた。
空間に変わりは全くない、私が扉に入った前と同じで何も変わってはいない。
なのに私はといえば、色々変わったな。
まずは、一勝した。そして、
「ここはやっぱりわからない場所だよな~」
その元対戦相手と行動を共にしている。
更には次の目的地さえも決まっているのだが……
「黒い扉だろ?」
「こんな所で黒い物を探すとは…」
「だよな…」
ここは回りが、言ってしまえば全体が暗い。故に全体が黒い。
こんな所で黒い扉を探すなんて、無茶にも程がある。
「はぁ……大変じゃね?」
「確かに……ですが」
私は前に進み、探しだしてみせる。もう逃げる事はしたくない。
あの時のようなことはもう絶対にしたくない。
「私は探しますよ」
なぜならこれが、今唯一の道なのだから。
「そう言うと思ったよ、俺も手伝うぜ」
私達は歩き出した。
簡単には見つからない、そう思っていた。
何かしらの壁が立ちふさがる。そうも思っていた。
それは、どちらも当たった。
「アナタ達、敵ね?」
私達の前に、恐らく同じ者が現れて前に立ち塞がった。
多分私より年上の女性、手には武器であろうナイフを持っている。
「なら、なんですか?」
男が挑発的に尋ねた。
「フフッ…言わずもがな」
ヒュッ ピッ
女性の投げたナイフが私の横を通り抜けた、頬が少し切れたようだ。
いや、切れてはいないな、唯、ダメージになるだけだ。それでも少しマズイか…。
女性は投げた筈のナイフを、指の間全てに持っていた。
「勝負よ! 私の二勝目になりなさい!」
彼女も既に誰かと一戦交えた後のようだ。しかも勝ったらしい。
さて、どうするか…
取り敢えず前に進むにはあの女性を倒さないといけない。
扉を探す為には、あの女性を倒さないといけない。
なら仕方ない、戦うか。
十字架に手を掛けた。
その時だった。
「ちょい待った。俺に戦わせくれよ」
男が私と女性の間に入った。
「頼むよ、俺も一勝目がかかってるからさ」
「……わかりました」
十字架から手を離した。
「サンキューな……よし! 俺が相手だ!」
「フフ、あなたはまだ一勝してないようね?」
「だからなんだ?」
「フフ……力の差を教えてあげるわ」
「別にいいよ、オバサン」
「オ、オバ!?」
女性の顔に青筋が入ったように見える。いや、入ってるな。
「くらいなさい!」
女性は男にナイフを投げつけてきた。
「種類が似てると、対策が簡単だな」
男は小石をポケットから取り出し、投げつけた。
カキンッ カキンッ カキンッ カキンッ カキンッ
小石とナイフは全男と女性の中間で相殺した。
そして戦いが始まった。