第56話
予想は当たった。
あれだけ重力をかけた棒を、何もなかったように持ち上げ、そのままは間合いを詰めて横に払って一撃。
ガキン!
十字架で防いだ。
燃えている部分がこちらを向いているので、線香の香りが分かる。よくあるスタンダードな香りだ。
続けて二撃目、
ガキン!
三撃目、
ガキン!
4・5・6・7・8・9
ガキン! ガキン! ガキン! ガキン! ガキン! ガキン!
十撃目、
ガキンッ!
先ほどの倍の連続撃。
彼女は本気で、恐らく必死だ。
なぜなら、棒の長さが四分の一になっているから。
故に軽くなって振りやすく更なる連続攻撃が可能に、しかしリーチが短くなってこちらの十字架に当たる
可能性もまた高まる。
そして線香が燃え尽きた時、どうなっているだろうか。
何故なら香りは、毒だからだ。
マイの人形であるロマ、彼女もそうだ。
毒を気体化して相手に吸わせる技がある。線香の香りもまさにそれだ。
あまり吸いすぎはよくない、しかしそれは彼女も同じだ。
ロマのように所持者から離れていれば問題は無いが、彼女の香りは自ら持つ線香からだ。
一番近いのは彼女だ。それは線香が燃える程に近づいてきて、武器も短くなる。
まさに諸刃の剣だ。彼女が望んでそれを選んだ訳ではないだろうが、それで勝ってきたのだ。全ては知らないが、この決勝まできたのだ。
戦いの度にいなくなったのは、恐らく本当に休んでいたのだろう。
吸い込んだ毒を、浄化してたのだろうな……
そうまでして彼女は、勝ちたいんだ。
先に逝ってしまった夫に、会いたいんだ……
……しかし、ふとハカセの言葉を思い出してみた。
その間にもアロマは攻撃を仕掛けてくる。
ガキン!
この大会は自殺者だけで行われている。
ガキン!
何故病気や殺された人ではないか、
ガキン!
それは私達が死ぬ直前に生き返るからだ。
ガキン!
もしも病死の場合は病気中、
ガキン!
殺された人なら殺される寸前に戻るんだよ。
ガキン!
思いだしながら、すごい事を思いついた。
これは言っていいものか、ダメか否か……
もし知っているなら、関係は無い。
しかし知らなかったら、彼女は、どうなってしまうだろうか……
よし、言ってみよう。
ガキン!
既に片手で持てる程の長さとなった線香で戦っているアロマの隙をつき、私は言った。
あなたが生き返る時、それは死ぬ直前なんです。
だからあなたが生き返った場合でも、既に旦那さんは亡くなっています。
それはあなたが生き返っても変わりません。
何故ならば既に死んでいますから、もしも勝って、あなたが生き返った場合、旦那さんを追えません。
「!!」
……知らなかったか、アロマのショックは相当のもののようだ。
「ウソよ……嘘……うそよね? ……嘘……ウソでしょ? ……ウソうそ……嘘だと言って……」
おそらく、この大会に勝つと生き返る、ということを知らず。願いを叶えてくれる、ということを信じていたようだ。
「本当です、あなたが生き返る時は……あなたが死んだ寸前です。追う為にここへ来た寸前なのですよ」
愛する者の為に死を選んだのに、その後を追うためにここに来たのに、それができないと知ったことでここまで取り乱す。
自分のしたことが意味のないと分かった時、たとえどんな大人だろうと、こうなってしまうのか……
「嘘よ……うそよウソよ!」
アロマは飛びかかってきた。既に棒は手に収まる程だ。
それを彼女は投げつけてきた。
カキン
十字架で下に払い落とす。
決着はついたな、彼女の手にもう武器は無い。
正直、悪い事をしたと思う。
しかし彼女程の年齢なら、この真実を受け止めて欲しかった……
後は私が、止めを……
「嘘よ!」
チャキ
え……?
拳銃型ライターを、
ボッ
私の目の前でつけた。