第55話
「……本気ですか?」
私がアロマさんに尋ねると、
「もちろんです」
間髪入れずに答えた。
「私は生き返りたいのです。これはその為の……言わば近道、進める可能性があるのならば、私は、是が非でも進みます!」
そう言って彼女が取り出した物は―――――――線香だった。火を付けると煙と共に香りが出る普通の……なるほど。香りの棒術使い。納得した。
しかし、あれでは棒が小さすぎるだろう。
と思った瞬間。
その線香はまるで、如意棒だった。
手に収まる程の小さな線香、それが一瞬の間に伸びて、両手で持つ程の棒になった。丁度、棒術に便利そうな長さに。
「さぁ、いきますよ!」
……やはり、アロマさんも参加者だ。
景品の為に戦う参加者。
自ら死を選んで、運命を変える為に戦う。
そんな私達にとって、当たり前な事を決心している参加者だ。
私達は、決心していないから、戦う事を拒んでいるんだな。
そういう意味も含め、この4人の中で、一番大人だと思った。
しかし、私は違う。
戦いの決心はすでにしていた。
最初にした筈だ。あの鉄パイプの男と戦い、あの十字架を使って男の首を断った時に。
戦いは仕方ない、決して避けては通れない。
何にせよ、アロマさんとはいずれ戦う事になるのだから。
それがただ、今になっただけ……ただ、それだけだ。
ガキン!
ミカに向けて降り下ろされた線香の棒を、私は間に入って十字架で受け止めた。
固い音がしたが、硬度も上がってるんだな。
「ツ、ツバサ!?」
ミカがそれを見て驚く、
「ミカ! これは決まった事なんだよ、いずれにしてもあなたはあの2人と……そして私とも戦わなくちゃいけない。それが今になっただけで、これを避けては前に進めないんだ!」
「前に……進めない……?」
「だから戦おう、私とミカが、前に進む為に」
「は……はいです!」
ミカは力強く頷いた。
「じゃあ悪いけど、ミカはレインと戦って、アロマは私がなんとかするから」
「了解です!」
ミカはレインへと近づいて行った。
「……お待たせしました。戦いましょう、アロマ」
「はい、お互いの避けては通れない道の為に」
アロマさんは間合いをとった。
棒術については理解したから、とりあえずは香りに注意だ。どうやってかは分からないのだが、それを除けばアロマさん……いや、アロマは私と同じ近距離タイプだ。
ガキン!
再びの交差。
しかしそれで終りではなく、一度の離しての二撃目、
ガキン!
続けて三撃目、
ガキン!
四撃目
ガキン!
連続攻撃を十字架で守る。だがそれだけではない。
守る度、十字架に触れる度に、重力を棒へとかけた。ただ純粋に下へと。
「くっ……?」
その棒はもはや、持ち上げるのが精一杯な程重いようだ。
「私は……負けませんよ……」
だが、それで戦う気力は無くならないようだ。
「……私もですよ」
「……仕方ありません。あまり使いたくはないのですが、本気でいかなくては、負けてしまうようなので……これからは本気でいきますよ」
そう言ってアロマは、ある物を取り出した。
それの見た目は、拳銃。
しかし次のアロマの行動がそれは違う事を示した。
銃口を棒の先端に向け、引き金を引いた。
ボッ
それは、拳銃型のライターだった。
銃口の先から出た火は近づけた、線香の先端に火を付け――――――
そうか、大きさが変われどあれは線香。火を付ければ香りが出る。
現に今あの棒の先端は火が付いて白い煙が昇っている。あの周りには線香の香りがあるのだろう。
アロマはライターをしまった。
「さぁ、続けましょうか」
恐らく彼女は更に攻撃してくるだろう。
何故なら線香が燃えている。
自らの武器が煙を上げて短くなっているからだ。