第53話
「うく……へぇ……こんな事も、出来るんですね……」
「……」
ミカの能力は砂を空間で閉じ込めて扱うというもの。しかしそれは砂だけとは限らなかった。
「……2人を離して」
リアとロマ、2つの人形を空間で固めて動きを封じていた。
人形が抵抗して動く分、ミカはそれに集中して攻撃に移れなかったが、マイもまた自身で攻撃するよりも2人の救出を考えていた。
「すみませんが、それは無理です……これを……外した瞬間に……襲ってきますよね?」
「……うん……負けたくない」
「ならば……無理です」
かと言って今の状態では、どちらも攻撃できない。マイ自身は毒をミカに触れれば倒せるが、そこまで考えられなかった。
「……じゃあそのままで」
「え?」
マイは目を閉じて、唱えた。
「……夢を見る人形ロマ……相手に夢を、与えよ」
瞬間、閉じ込められているはずのロマの口が開いた。
シュー
何かが漏れる音が聞こえる。
「な……何ですか? この音」
「……秘密」
その時だった。
ズバシュ!
「あ……」
「……ミナトちゃん……」
ツバサがミナトを倒した。
「……ロマ……もういいよ」
そう言った途端、ロマは口を閉じた。
「どうしたんですか?」
「……私は降参する……だから2人を離して」
マイが両手を挙げて降参の意を示した。
「は、はいです」
ミカは空間を無くして2人の拘束を解いた。リアとロマはマイの元へと歩いて行く。
「……どうして、降参するんですか?」
ミカが尋ねると、
「……2人同時は……大変だから……かな?」
ミナトが負けた今、マイはツバサとミカを相手にすることになる。リアとロマがいることを考えれば3対2ではあるが、2人をミカに止められていたら、ツバサを無手で相手にすることになる。それは避けたかったようだ。
「……」
「……折角だから……教えてあげる」
「え?」
「……ロマは体内の毒を気体化できる」
「気体化……ですか?」
「……ロマはお父さんがくれた、夢を持つ人形」
「え?」
「……リアはお母さんがくれた、実を知る人形」
「ご両親のくださった、大切なお人形なんですね」
マイは頷いた
「……夢を持つ人形ロマは、毒を気体化して相手に吸わせて夢を見させる。実を知る人形リアは、毒を個体化して相手に直接飲ませて実を知らせる」
「……さらりと、怖い事言いますですね」
「……これが私の戦い方。あのままほおっておいたら……あなたは毒で倒れてた」
「ひぃ! さらりと凄い事を言いますですね!」
知らされた真実にミカはびくびくとおびえた。
「……だってこれが、私の戦い方だもん」
そう言ってマイは、ほんの少し、笑った。
まるでいたずらっ子のように。
その後、
ツバサが2人に近づいた時マイが再び降参を宣言し、ツバサ達の勝利が確定した。
さぁ!
準決勝第二試合だ!
彼方番組十一番
石と棒術の男女コンビ
レイン選手とアロマ選手!
此方番号三番…
「いや~強いねツバサ、私じゃもう勝てないよ」
「……おめでとう」
ミナトが目覚め、私達は集まっていた。
「でも驚いたよ、2人共に新な力を持ってたんだね」
「あれから色々考えたらね、私もマイちゃんも新な力に気づいたんだ」
「……ミカは無いの?」
「え? 私ですか……私はまだ皆さん程の力は持っていませんです」
「え? そうだったの? それでマイちゃんに勝ったんなら凄いじゃん!」
「いえ……あれはマイさんが降参してくださったからで、実際に戦ったら恐らく……あわわ」
何かを思い出したのか、びくびくと震えていた。マイの毒は外相がないからな、普通に聞いたら怖いかもしれない。
「……そうでもない、多分わからなかった」
ミカは新な力をまだ持っていない。しかし彼女は強い。
ならば別に必要はないかもしれないな。
さぁ!
数分の休憩の後に
いよいよ決勝を始めるぜ!
いよいよ最後の試合。相手はレインとアロマさん。2人共強いだろう。
……正直言えば、私はこの大会で優勝しなくても構わないと思っている。
大事なのは今のではなく、本当の大会だ。
今ここで負けても、ただの一敗として残るだけで、その分勝てばいい。
これは架け橋、ただのショートカットだ。無理に勝つ必要は、無い。ただいい勝負をすればいい。
そう思いながら、私達はレインと対峙した。
周りには、戦いなど見る必要は無いのだろう。私達とレイン達、そしてミナト達と、何故かキキ達が残っている。それだけの人数しかこの空間には残っていなかった。
それと、あの司会だけだ。
さぁ!
いよいよ決勝戦だ!
しかし、まだ疑問に思っている人がいると思うから
ここで言ってしまうぜ!
疑問……確かにある。
2回戦突破の席は、後一つ。
しかし、私達は2人組だ。
つまり――――
この勝負の景品は一つだけ
だけど君達は2人組だ!
よって決勝で勝ったペアには
その場で景品をかけて戦ってもらうぜ!