第34話
私は飛べる訳ではない。重力を操って浮くだけだ。だから空を自由に動ける訳ではない。
しかし、こんな事は出来たりする。
高度を下げて、地面に足がつかない程度の距離に降り、再び無重力に、十字架を前に構えて……
と、その時リアとロマが向かって来た。だが慌てない、意外にも重力変化は集中しなくてはならない。
そして十字架に、前へと重力をかける。目一杯にだ。
結果、私は前へと落ちた。
リアが後ろを向きこちらに向かって来た。
重力を上にかけて上へ、そこにロマがジャンプして飛びかかる。
下へと重力をかけ下へ、足が地面に付く前に重力を減少し無重力にする。
この技はつまり、高速移動に近い移動方法だ。
私の体に重力をかけ、上か下に変換すると上昇と降下が、十字架に重力をかけ重力の方向を変えれば、その方向へと急発進・急カーブ・急停止が可能だ。
鎖に巻かれた体はともかく、十字架に方向を変えるのは制御に苦労したが、その際に十字架の四辺が役に立った。
例えば直進なら正面に、後退なら持ち手の部分に、右や左でもそれは同じだ。かなり役に立つ。
リアが左から、ロマが前から迫る。
右にカーブだな。
しかしカーブは簡単ではない。
まずは右に重力をかける。十字架に導かれ右へと正面が向いてくる。そこで右から正面に重力をかけなおす。すると正面へと落ち、正面へと進む、先より右斜め上へとだ。
……これはカーブか? と使うたびに思う。
右斜め直進だよな……
仕方ないさ、曲がった重力なんて無いのだから。
暫くそうして人形の動きを避けていた。
チャンスを伺う為に……
そして、チャンスは来た。
正面に落ちている私の、向かう先にはマイがいる。
リアとロマは遥か後ろ、そこからでは間に合わない。
私は重力を目一杯前へとかけて
ドスッ
「あ……」
マイに十字架が刺さった。
十字架の重力を無くし、マイに重力を移す。
下向きの重力をかけたマイは後ろに少し飛び、地面を転がる事無く地面に落ちた。
無重力をやめて足を地面に付ける。
勝った……のか?
ふと後ろを見ると、リアとロマが倒れていた。まるで人形のように……いや、元よりあの2人は人形だ。
あれが普通なんだ。
動かす人が居なければ、動く事はない人形なんだ。
……勝ったようだな。
互いに1敗だった私達。2敗目を手にしたのは、マイだった。
その後分かった事だが、マイとは、ミナトが付けた名前らしい。
理由を聞くと、妹の名前だったそうだ。
「ちなみに四女で、年齢が同じだったから……つい」
マイは一人っ子で、独りぼっちだったから。まるでお姉さんができたような、そんな気持ちだったのだろうな……