第33話
まず分かった事は、マイの持つ人形。思い形見の人形には名前があった。
右にリボンをしているのがリア
左にリボンをしているのがロマ
マイ本人が言ったので本当だと思う。
「……行くよ……リア……ロマ」
2つの人形、リアとロマが動き出した。
2つとも正面から突っ込んで来る。
私は鎖を飛ばし、人形の片方、リアの足を縛り引っ張る。
バタン! とリアが転けた。
その間にも攻めてくるロマに対して十字架をぶつける。
ギィン!
金属と金属が当たったような音がした。
「固いね」
「……2人の材料は布と綿だけど、中に入れた毒は固くできる」
そういう事か、綿に毒を染み込ませ、布を通して相手の皮膚へ、それが毒投与の方法か。大きくなる原理は分からないけど。
考えていた隙に、ロマが抱き抱ってくる体制になっていた。
私は十字架を前に突きだしロマの手が触れる前に十字架を当てた。
そのまま重力をかける。後ろへと。
ロマは重力に従いマイの方向へと落ちていった。
「……ロマ!」
ガシッ!
マイが落ちてきたロマを受け止めた。
「……大丈夫?」
ロマへと語りかける。
だが相手は人形、もちろん返事など無い。
しかしマイは、
「……うん……分かった……重力なんだね?」
答えたように語りかけている。
しかも、私の能力に気付いたようだ。
まさか、本当に意思疎通ができるのかもしれない。
「……うん……大丈夫だよ……直ぐに治してあげるから」
マイはロマを抱き締めた。
その時、何かが聞こえた。
音は2つ、
コポポポポ
片方は何かを注ぐ音。
もう片方は、
ドクン ドクン ドクン
何かが脈動するような、何かを透いとるような音。
音が止んだその時、
「……はい……おしまい」
ロマを抱いていたマイの手が離れた。
その途端、ロマが何事も無かったかのように動き出しこちらに向かって来た。重力をかけた筈なのにだ。
「……毒は使い方次第で……薬にもなる」
意味はよく分からないが、音からするに体内の毒を入れ換えたのだろう。
それだけで動ける筈は無いのだが……今は戦いだ。考えるのは後にしよう。
動き出したロマと、起き上がったリアが私に向かって来た。
あれが駄目なら、作戦変更だ。
リアの足の鎖を外し、私の左肩に巻いた。
あれから8連戦したおかげで使い方を知った。別に両足でなくても良かったのだ。
ようは鎖を通して重力を私の体内に通すだけなら、鎖が体のどこかに触れてさえすれば良かった。
その簡単かつ最速の部位が左肩だっただけだ。
これにより私は鎖を使えなくなったが、代わりに変化可能な重力を得た。
私は重力の方向を変え、上へと落ちた。
私が数秒前居た場所にリアとロマが飛びかかった。
その後重力を無くし、無重力となりその場に浮いた。
「……すごい」
マイがこちらを見ている。
「……さぁ、仕切り直しだよ」