第31話
ガキィン!
「くっ……誰よ!?」
ナイフは刺さらず、私の後ろから来た何かによって弾き落とされた。
「大丈夫!? ツバサ!」
声に聞き覚えがあった。
動けなかったが、声の主から横に来てくれた。
「ありがとう、ミナト」
声は出せた。
「いやいや、どういたしましてだよ」
今この場所に居るのは、動けない私と、私の鎖に縛られて動けない男と、ミナトと、ナイフ使いの女性。
そして、
「……大丈夫? ツバサ」
マイが横に現れた。
「うん、動けないけど……私は大丈夫だよ」
「……待っててね」
「うん」
「よ~し、勝負だ! 2人組の参加者!」
「……待って、ミナトちゃん」
「え?」
マイが数歩前に出た。
「……相手は1人……だから私が1人で戦う」
「えぇ!? でもマイちゃん」
「……大丈夫……私は負けない……から」
「でも……」
「ミナト、もう1人はこうして動けないから一対一に変わりはないよ」
「……でも」
「……それに……あの人に2人で挑むと……私達があの人達と同じ」
「あ……」
「……だから……待ってて」
マイは私達の前に立った。
「話は終わった? まずはあなたからなのね、お嬢ちゃん」
「……負けない」
「こっちの台詞よ!」
女性はナイフを投げた。
私達が話している間に何故か動かなかった。
理由は、分かった。
影がこちらを向く方向、私達が日を背負う方向は、彼女が能力を発揮できる方向だからだ。
トスッ トスッ トスッ
マイの影にナイフが刺さった。
「……」
「さぁ! これであなたはもう動けないわよ!」
「……分かってる」
「何? その余裕、あなた今の状況分かってるの!」
「……分かってる」
「武器も動かせないあなたがどうするというねよ!」
ナイフを振り上げた。
「マイ!」
私は声を上げた。だが、
「大丈夫だよ」
ミナトは冷静だった。
それは、マイも同じだった。
「……大丈夫……私の武器はあなたの後ろ」
「え?」
ドカッ
「かっ…」
後頭部を殴られた女性は、ナイフを地面に落とした。
「なっ……何よコイツ!」
女性が振り向いて見たのは、あの人形だった。
リボンが右に巻かれている。最初に見た時から大きかった方だ。
「……私の武器」
「ふぅん、でも残念ね……なぜならそこからこれは守れないわよ!」
女性はナイフをマイに向けて投げた。
しかし人形は動かない、間に合わないのは分かる。
でも少しも動かない理由は、私にも分かった。