第30話
そんな時だった、
「そこの人」
声の聞こえた方を向くと、男が立っていた。恐らく参加者だろう、手には注射器を持っている。
「……勝負ですか?」
「そうさ……行くぞ!」
こちらの返事も待たずに男は注射器の針を向けて突っ込んできた。
見た限り注射器に中身は無いようだだが、油断はしない。
空気注射というものがある。空の注射器を血管に刺して空気を入れると、死に至るらしい。あれはそういう物だろう。
刺さればアウト、空気を入れられれば一撃に死に至る。至近距離一撃必殺タイプか。
私は十字架を構えた。
ガキィン
「くっ……!」
正面からきた相手の注射器を十字架で弾いた。この男、あまり強くないな、動きが単調すぎる。
注射器が手から離れた男は、そのまま殴りかかってきた。
……何かおかしい、参加者と知っていて肉弾戦を仕掛けてくるなんてありえない、それに一撃型の思い形見手放すことも……もしかして……
繰り出された右ストレートを十字架で防ぐ、そのまま鎖を伸ばして相手を縛りつけた。
これで後は首でも断てば私の勝ちだ。
だが、そうはいかない。なぜかそうなるだろうと私は分かっていた。
カキン! カキン!
気配を感じた方向に十字架を向けると何かが当たった。
地面に落ちたそれには、見覚えがあった。
「これは…」
「チッ、上手くかわしたようね」
声の聞こえた方向を向くと、そこにはやはり見覚えのある姿がいた。
「あなたでしたか、2人組の参加者とは」
「そうよ、久しぶりじゃない?」
やはり予想通りの反応。
彼女とは大分前に会い、レインが勝った後に戦った、ナイフ使いの女性だ。
「言っときますけど、あなたはもう私と戦いましたよ?」
「分かってるわ」
「二度戦う意味は無い筈ですよ」
「分かってるわ、でもね」
女性は鎖で縛りつけた男を指差す。
「彼はまだなのよ」
「では」
「えぇ、彼の為に私は戦うの、私達は2人組の参加者だからね」
「……」
とりあえず、彼女の武器はナイフ。能力は分からないから用心するとして、あちらが動き出した瞬間に男を巻いている鎖をキツく絞めて殺してしまおう。
これで一対一になって鎖も使えるようになる。
考えがまとまった瞬間、相手が動いた。
ナイフを投げてきたので、鎖に力を込めながら十字架を前に構えて防御に……
何かがおかしかった。
トスッ トスッ トスッ
ナイフが刺さったのは、私の少し手前の地面、もっと言えば、私の影に刺さった。
すると、
「……!?」
影に刺さった時から予想はしていたが、まさか本当にそうだとは思わなかった。
「あなた、前に聞いたわよね? 私がどうしてここに来たか、教えてあげるわ、私はね、ナイフで自分の首を切ったのよ。そして手が触れたものは床、そして影」
―――――影縫い、それが彼女の能力だった。
恐らくあの空間では気付いてなかったか、元より暗くて影が分からなかったからか、私達が早く倒してしまったからか、彼女は能力を使わなかった。だから私は油断してしまった。
「フフ、これであなたは動けないわよ」
女性がナイフを持ったまま近付いてくる。
「後はあなたを殺してから彼の鎖をほどいて、もう一回殺してあげるわ」
ナイフを振り上げた。狙いは頭のようだ。
「じゃあね…」
ナイフをが降り下ろされた。
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