第26話
私達は書斎へと戻ってきた。そして、知る事になる。
それはハカセの言葉から、
「あの空間にはダメージの概念が無い。確かにそうなのだが、ちょっとしたリスクがついているのさ」
「リスクですか?」
「うむ、浦島太郎の竜宮城を思い浮かべれば良いが、あちらの1分は、こちらの1日に匹敵するんだよ」
「……という事は」
「ツバサは何日も修行していた事になるんだ」
私で考えるとたったの62分。
だがこの世界で考えると62日間、私は修行していたことになるらしい。
今知り合いに会ったら、久しぶりと言われるだろう。
私としてはまだ大したことの無い別れが、皆には60日以上ぶりの出会いだから。
そんな訳で、私はハカセの部屋を出て空間を歩いていた。
とりあえずは、扉を探しいるのだが―――――
見つけた。
初めて見る扉だ。
迷う事もなく、私は中に入った。
そこには見覚えがあった。
周りを見渡して、思い出した。
私が初めて入った、扉の先にあった都会だ。
初めて見る扉に入った先が見た事のある場所だとは、ハカセの言葉は本当だったのか。
「あの扉はね、この空間内に全部で黒い扉を除いて七枚しかないんだ。だがあの扉もまた特殊でね、引いて入るのと、押して入るのとで行ける空間が変わるんだよ」
ハカセが研究した結果、七枚の内五枚は別々の空間に飛ばし、それで十ヵ所。残り二枚の片方は別の空間だが、もう片方は十ヵ所の内の二ヵ所に飛ばす。つまり計十二ヵ所のステージが用意されているらしい。
確か私は、今引いて入った。ならあの扉を押して入れば別の空間に行くのだろう。
とりあえず今は、またここを探索するとしよう。
しばらく歩いていると、知った姿を見た。
ハンチングを被り、長袖の両腕に巻かれたブイ、見違えるはずがない。ブイなんて巻いているのはこんな場所でも1人で充分だ。
「おーい、ミナト」
私は彼女の名を呼びながら近くに駆け寄った。
「あっ! ツバサだ!」
「久しぶり……だよね?」
一応聞いてみる。
「うん! 何だかとっても懐かしい気がするよ!?」
あぁ、予想していた反応だ。
「無理もないよ、だって私は62日間ハカセの下で修行していた事になっているからね」
「へ? どういう事?」
私はモクと出会ってから、今に至るまでを語った。
「ふ~ん、新たなる力ね~、私はまだそんなの無いな」
「ミナトはどうだった?」
「私はね、色々あったよ」
ミナトは私と別れてからの事を語ってくれた。
今ミナトは、21勝8敗らしい。
凄いな……勝利数もあるが、その試合数がだ。
私はまだ、二桁も戦っていない。これが62日間の差という事なんだろう。
だが大丈夫、私が全員と、全員が全員と戦うまでこの一回戦は終わらないのだから平気だ。安心しろ……
と、ハカセは言っていた。
「ところで、ミナトはどうしてここに?」
「それはねmここで会ったマイちゃんと……あー!」
ミナトが急に声を上げた。
「何? どうかしたの?」
「あのね、ツバサに会ってもらいたい子がいるの」
「私に?」
子、という事は私やミナトよりも年下という事か?
「うん。いいよ、その子はどこに居るの?」
「こっちだよ」
ミナトに連れられ、私はその場を後にした。