第24話
床に足がついていない。
私は――――浮いていた。
「ほぉ、面白いね」
ハカセも気付いたようだ。
「だが、それだけじゃあ何の約にも立たないよ?」
分かっている。
ただ浮いただけでは何もできない、移動だってままならない状態だ。
けどこれを工夫すると、こうなるんだ。
私は一度床に足を着けた。そしてハカセに向かって十字架を縦に、突くように構える。
そして右足に体重を乗せ、床を蹴った。
瞬間、私は宙を跳んだ。
私が行ったのはこうだ。
まず私が浮いた時、重力変化を足に巻いた鎖に起こした。
ただしそれは重力付加ではなく、重力減少。
つまりは無重力にした。
それを足に巻いた鎖から体全体へと伝え、私の周囲数ミリを無重力に変えたことにより宇宙船の中のような状態になったのだ。
次にこの跳躍、これは重力付加だが、かける方向を変えたものだ。
重力とは基本的に人を地に抑えるために下にかかるものだが。私の重力変化はその方向さえも変えてしまうらしい。
現に私は今、重力により横に落ちている
「なるほどね、重力を自分にかけたのか……発想は面白いけど……」
コン
重力をかけた突進による渾身の一突きさえも、本に守られてしまった。
「元を正せば十字架による攻撃、この本には効かないよ」
もちろん。分かっていた。
重力を元に戻す。
この突進は、ただハカセに近づく為だけのもの。
ここで私が新たな実験を行う為だけのものなのだから。
これは少し前、丁度ミナトと戦っていた時、自ら鎖を十字架で断った事があった。
あの時は十字架にどれだけ重力をかければ鎖を断つ事ができるか分からなかったので、思える分大量にかけていた。
それにより、鎖は断てた。
だが実はあの時、十字架を操作しきれていなかったのだ。
十字架の導くままに、十字架にかけた大量の重力が導くままに鎖を断ったんだ。
運よく鎖の上に落ちて良かったと、今になって思う。
そして……感謝する。
あれが私の新たな力を生むヒントだったのだから。
だが、それを試すのはまだもう少し先だ。
本にぶつかったままの十字架をすっ、と下へと下げ、ハカセを突き刺しにかかる。
その瞬間を見たハカセは数歩後ろに下がりながら自らの体と十字架の間に本を入れた。
コン
これで威力が無いのは分かっている。
だが、これでいい。
既に十字架には前に重力をかけてある。
そう、ハカセがいる方向にだ。
そのままその重力を―――――――――――ハカセに移した。
そこで再び重力の方向を変える。
上に。
「おぉ?」
ハカセが予備動作もなく、上へと落ちた。
成功した。それと同時に、理解した。
私の重力変化は、付加・減少・方向の他、かける対象さえも変化する事ができた。
これは色々と使える。
そして、これが私の考えた、新たな力の必殺技だ。
足に巻いた鎖に重力をかけ、上に落ち、ハカセと同じ高さに行き着いた。
「ふむ……これは面白いね、いいよ……抵抗しないから、何でもやってみな」
ハカセは手から本とペンを落とした。防御の術を無くし、私の攻撃を受けてくれるつまりだ。
「……ありがとうございます……行きます!」
まずは十字架をハカセに一撃、下から上へ切り上げる。
これと同時に、ハカセと私にかけた重力を減少、無重力状態でハカセと向き合う。
その場に浮くハカセに、私は手に振り上げた状態の十字架に下へと重力をかける。
重力に従い十字架が下がる。
ザスッ
通りがけに上から下へハカセを切りつける
続いて上に重力をかける
ザスッ
下から上へと切りつけた
今度は右下へ
ザスッ
左上へ
ザスッ
右へ
ザスッ
左下へ
ザスッ
右上へ
ザスッ
そして再び
右下 左上 右 左下 右上
ザスッ ザスッ ザスッ ザスッ ザスッ
最後に、十字架を上に振り上げ重力を下にかける。
ゴッ
頭に直撃を受けたハカセに十字架にかけていた重力を全て移し、下へと、ハカセを落した。