第16話
改めて思う
自ら自らを殺し
悲しき事から生まれ
誰かに思われ
血は流れず
涙も流せない
そんな私達はいったい、何者なんだ……?
今になって考えると、あの時のハカセは本当に怒っていたのだろう。
彼女にも彼女なりの死の理由がある、何にしても、死を簡単に語るな。
ハカセはそう言いたかった。過去に何人もの同族を見てきての言葉、それを改めて知った。
「ハカセってスゴい人だね……私のお母さんもあんな人だったら良かったのにな」
居ずらい空気になったため、私達は扉の外で話していた。
「でも、今さら仕方ないよね……よ~し、絶対優勝するぞ!」
「私も、負けないよ」
「次に会う時は、決勝の舞台だよ!」
そう言って、ミナトと別れた。
互いに逆方向に向かって歩いていると、扉を見つけた。
今までに見たことのない扉だ。せっかくなので入ろう。
ノブに手をかけた、その時だった。
「そこの人」
後ろから声をかけられた。
振り返って見ると、そこには一人の人がいた。
身長は私より上、メガネをかけていて、男……だと思う。
最近は見た目で性別が判断できない人にばかり会っていたからか、少し疑ってしまうな、
「……何か?」
とりあえず尋ねる。
「いや、あなたもその扉に入るのか?」
「そのつもりでしたが?」
「ならいい、俺も入る」
俺も、って事は男か。
「どうぞ、ご自由に」
私は扉を開け、中に入った。
そこは言うなれば、田舎の風景だった。
前に入った海の時も田舎風な感じはあったが、ここはその山バージョンと言ってもいいだろう。
正面に見えるのは見渡す限りの畑、右には林、左にも林、後ろは左右に木のある道、ここは森の出口らしい。
「……ここは自然に溢れているな」
あの男が後ろにいた。一応聞いておこう、
「あなたも参加者、ですよね?」
「あぁ」
だろうな、他の人があの空間にはいない筈だからな。
……そういえばあの空間で参加者以外に会った事は無いな。扉を抜けた先の場所には色々な、つまりは参加者以外の人を見た事がある。
そう考えれば、この扉を抜けた先のこの空間についても訳がわからないな。
確か、私達が戦う障害物のあるステージとか前は考えて終わった気がする。
様々な風景で
様々な地形で
様々な場所なここは、あの闇のような空間に浮いている扉を抜けた先。
ただそれだけ、知っているのはそれだけだ。
「ここは、似ているな」
男が呟いている……まだ居たのか。
むしろ尋ねろというように呟いているよな?
「どこにですか?」
仕方なく尋ねると、
「俺の死んだ場所にだ」
「……」
もはや驚く事もない、もう何回自殺者を見たか、何回死んだ話を聞いたか、さすがに慣れた。
「俺は、首吊りでな……手頃な木を探して縄と椅子を持って山を歩き回ったんだ」
……もしかしてこの人、
「あの、もしかして…」
「あぁ、戦う前の相手とはなるべく会話をしておこうと思っていてな、別に無理にとは言わない、今直ぐにでも武器を出して戦っても構わないが?」
やはり、私のような変わり者か。
「……いえ、少し話しましょう」
「そうか、なら、歩きながら話そうか」
私達は歩き出した。