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第10話

そして私と長袖の男は堤防に腰掛けた。

そこでふと、男が話しかけてきた。

「あなたは、自分の名前を覚えていますか?」

この男も気付いたのか。

「いいえ、あなたは?」

「それが……思い出そうとしても、どうしても名前だけは出てこないの」

「……それはですね」

「何か、知ってるの?」

「はい、一応」

私はハカセに聞いた事、名前は忘れてしまい、自ら新たに名前を考えて名乗っていることを教えた。

そして名乗っておいた。

「私のことはツバサって呼んで下さい」

「ツバサ……良い名前だね、私は、どうしようかなー」

ん? 今、なんて……?

「そうだ!」

男? は正面を、海を見た。

そしてハンチングに手を掛けて、

「私の名前は……ミナト」

ハンチングを取った。



同時に潮風が吹き、私は驚いた。

ハンチングから出た。私よりも長い黒髪が風に流されていたのに。

「それ……」

「気付かなかった? 私、女だよ?」

気付かなかった。私よりも全然女っぽい。黒髪もハンチングのせいで気付かなかったし、

「……全く」

「いいよ、分かっててこれ被ってるんだから」

「年齢は?」

「15だよ」

年下か。

「私は17」

「年上か~やっぱ目上には敬語とか使わなきゃいけないかな?」

「別に、気にしてないよ」

「良かった~敬語って大変だよね」

「そうだよね」

私も敬語をやめた。

「しかし、これには驚いたよね?」

「この大会のこと?」

「そう! 死んだ人に話は聞けないって言うけど、まさかだよね!」

顔をずいっと近づけてきて驚きを表したミナトに私が驚いた。

「そう、だね…」

「しかも、私達には痛みが無い、でもお腹は減る。そして戦う、何か分からないけど……何かこう…………とにかく凄いよね!?」

「う、うん」

何だ? 最初に会った時と全然性格が違うじゃないか。

こんなに明るい子が、何故自殺なんて……


聞いてみるか? 答えてくれないかもしれないけど。聞いてみて損は無いはずだ。

「…ねぇ」

「はい?」

あなたは、何でここに来たの?

「……何でって、死んだからだよ?」

「それよ、あなたみたいな人が、何で自殺なんて」

「え、よく私が自殺したって分かったね?」

そこからだったか。

「……あのね、実は…」

私はこの大会の参加者は自殺した人だけだということを話した。

「へぇ……じゃああの男の人も、最初に戦ったあの人も、そしてツバサも、私も皆、自殺した人なんだ」

堤防に寝転がり、ミナトは空を見上げた。

「そうなんだよ」

「でもさ、何でツバサはそんなに詳しいの?」

「それは、詳しい人がいて、その人に聞いた話なの」

「へぇ~私も会いたいな」

「それで、ミナトの…」

「うん。私の死に方だよね? そんなに聞いたし、私も教えてあげるね」

そう言って空を見上げたまま、ミナトは語り始めた。



園に1人は居る。

ませた保育園児


クラスに1人は居る。

絵の上手い一年生

病弱な二年生

頭が良い三年生

ピアノが弾ける四年生

眼鏡で読書家な五年生

リーダー格な六年生


学校に1人は居る。

静かで暗い中一

運動神経抜群な中二

近くて遠い傍観者な中三


それが私だった。

ある時から、自分が分からなくなった。

だから、色々と試してみた。

時に明るく、時には暗く、皆と接してきた。結果はどれも上手くいった。だから、

もっと分からなくなった。

自分は何なんだろう?


そんな時に、こう思った。

自分は、別に居なくても変わりない。どんな自分でも、変わりはいる。

どの自分でも、似たような人が他に一人はいた。

だから、居ても居なくても同じだった。


と、思ったから




居なくなってみる事にした。





「それでね、その時の私は使えない物を作ってたんだ。書けない鉛筆とか、消せない消しゴムとか……この」

ミナトは両腕を前に上げ、

「浮かないブイ、とかね」

「それで……水死を?」

「うん」

「……大変じゃなかった?」

「……」

ミナトは両腕を下げて、起き上った。

「大変だったよ、死ぬ事に抵抗は無かったけどさ……息苦しくなって……そして……死んだの。ツバサは?」

「私は、飛び降りで」

「飛び降り!? そっちの方が大変じゃない!?」

「そうでもないんだよ? 実は…」

……あれ?

こんな話、どこかで…


あぁ、レインとだ。

やっぱり同年代とは話が合って、話が続くな。

つまりはそれだけ、同年代の自殺者がいるって事なんだけど……

悲しいような、助かったような…

「さてと…」

ミナトは堤防から降り、砂浜に足を付けた。振り向きながら、

「そろそろ……勝負しよっか?」

「…うん。そうだね」

「場所はどうする? この辺りは人目無いし、どこでも行けるよ?」

「なら……ここで良いんじゃないかな」

「うん。じゃあ、始めようか」

私は堤防を降りた。ミナトは数歩海岸へ歩いて私の方を向き、

「行くよ……ツバサ」

構えた。

私も十字架を右手に持った前に構える。

「いつでも……ミナト」

海岸に風が吹いた。

互いの髪を流し、風は去っていった。


今回(前回?)から登場したミナト。彼女が演じた人達、クラスに一人はいますよね?

もしくは自分がそうだったとか、ありますよね?

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