第9話
いつでも来な、鍵は開けておくからさ。まあ居ない時も、気づかない時もあるけど。
そう言い残したハカセは椅子の向こう、闇の中へと消えていった。
なので私達は部屋を出た。
「しかし、色々分かったけど……色々謎が残ったな」
「そうですね……」
自殺者だけの大会。生き返る景品。心残りを晴らさせる為。
分かった量と同じの分からない事が、天秤のもう片側に乗ったような感覚。
つまりはプラスマイナスゼロだ。
「まぁ……その謎も、いずれは解けるでしょう」
「そうだよな……うん。そういう事にしておこう」
そして私達は、扉の前で別れることにした。
「また何処かでな」
そう言い残して、帽子の男、レインは歩き去って行った。
さてと…これからどうしよう。
とか思いながら歩き続けていると、扉にぶつかった。
コツン、という軽い音で気付き、目の前の扉を見た。
前に入ったものとも、あの黒い扉とも違う、始めて見る扉だ。
…入ってみるか、
ノブに手をかけ、扉を開き、中に入った。
そこは海岸だった。
扉を出た目の前に広がる海と砂浜、そして向かい合う者が2人、今まさに戦っていた。
多分同じ自殺者だ。普通の人が出来ない事を簡単にやっているからなおさらだ。
私は少しだけ近づき、隠れて見ていた。
どうせ戦うのだから、少しでも相手の手を見ておくのは悪くない。
今戦っているのは、
右には私より年上だろう大柄な男、手には鋏。
左にも……男、だが年上ではなさそうだ。同い年かもしれない。頭にはハンチングをかぶっている。
長袖の服に包まれた両腕には何かを巻いているが、手には何も持っていない。
その時だった、
「そろそろ終わりにするかな」
大柄な男が言うと、
「そうだね」
長袖の男は返した。
そして大柄の男は、
「はぁ!!」
ジャキン!!
鋏を一回開けて、閉じた。
それだけで鋏が、剣になった。刃の先端に新な赤い刃が付いている。
あれは…血か?
何か久々に見た気がする。私達には血が流れていない筈だから、あれは武器の能力だろう。
つまりあの男はあの鋏でどこかを切って死んだのだろう。
「くらえ!」
大柄な男が近づき、鋏の剣を振り上げ、降り下ろした。
「甘いよ」
キンッ
男は右腕に巻かれた何かで刃を守った。
「くっ、またか……」
「これがイヤ? なら……外してあげるよ」
そう言って男は左手で、右腕に巻かれている何かを外した。
そして、
「ほら」
その何かを大柄な男目掛け投げつけた。
「舐めるな!」
ガキィン
大柄な男はそれを鋏ではらった。
その時の音と、さっきの音とで、その何かは金属製だと分かった。
その瞬間。
「じゃあ、終わりだよ」
シパッ
スパンッ!
「かはっ……」
大柄な男はその場に倒れた。
今、何をしたのか…? 見えたのは、何かの外れた右腕をただ前に付き出したハンチングの男。
そこから水みたいな何かが現れて、大柄な男の首に命中して、大柄な男がその場に倒れた。
ただ何かがあって、大柄の男が負けて、ハンチングの男が勝った。それだけは分かった。
「……そこのアナタ」
気付かれた。
バレているなら仕方ない、私は隠れていた所から出てきて、男に近づいた。
改めて男を見る。長袖の上着に長ズボン、腕にはその何か、頭にはハンチング、帽子が流行ってるのだろうか?
男は外した右腕の何かをまた巻き直している。
「これは、ブイですよ」
長袖の男は教えてくれた。
ブイって事は……浮き? でも、キィンって金属どうしがぶつかる音がしたが、
「ちなみに金属製です」
そうか、なら納得……ん?
「それって、浮きますか?」
「いや、沈むね」
「……意味、無いですよね?」
浮くためのブイが金属製で沈んだら役立たずにもほどがある。
「まぁそうだね。もしよかったら少しお話しませんか? 戦ってもいいですが、ダメージが無くなってからにしてください」
「……はい、いいですよ」