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侯爵家の婚約者(リライト版)  作者: やまだ ごんた


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57/90

56.

お読みいただきありがとうございます

完結まで30話です

 カインは順調に大きくなっていた。

 多くの貴族の例に漏れず、カインも日常の世話は乳母が行っていたが、アルティシアも時折カインに自分の乳を含ませていた。

 ふわふわと綿毛のような金色の髪と、自分によく似た青い瞳を持つカインは、アルティシアが抱くと、それが母親である事を理解しているのか、その青い目をきょろきょろとさせて、アルティシアを見つめた。

 その仕草の全てがアルティシアには愛しく、ひと時たりともカインを手放したくないと言っては、オレリオがカインに焼きもちを妬いてアルティシアを笑わせていた。

 アルティシアもオレリオも、子供はカイン一人しか持てない事をよく理解していた。

 アバルト侯爵家から戻ったあの日、アルティシアはオレリオに全てを告白した。

 最初は動揺し、混乱したオレリオだが、アルティシアがそれだけ追い詰められて決断した結果だと受け入れ、アルティシアの献身に感謝した。


 秋の月に差し掛かる頃、カインの様子がおかしくなった。

 アルティシアと触れ合った日は決まって熱を出すようになったのだ。

 同時に、アルティシアも体調を崩しがちで床に臥せる事が多くなった。

 アルティシアは自分の魔力がかなり弱まっている事に気付いていた。

 医師や魔導士たちの診察を受けなくてもわかった。術の反動が来たのだろうと。

 あの術を受けた時、アルティシアの魔力は一時的に増えた。生命力が溢れるような感覚に陥った。

 だが、術の効果が失われた時、アルティシアの体に残る魔力がほとんど消えてしまっていることを感じていたからだ。

 しかし、夫を守りあまつさえ愛すべき我が子さえ授かる事ができたのだ。後悔はなった。

 ――ただ、夫に伝えて彼が悲しみに沈む事が何よりも怖かった。

 

 秋の月に入ってしばらくした頃、リオンに男の子が誕生したと報せが届いた。

 アルティシアとオレリオはカインの従兄弟の誕生を喜び、溢れんばかりの贈り物を用意した。

 リオンがエスクード侯爵領を訪ねてきたのは、その10日後だった。

 アルティシアに行った術の魔法陣を再度解析したところ、恐ろしい事実が判明したと言う。

 あの魔法陣は、単に魔力を増幅するものではなく、魂を媒介に、生命力を魔力に変えるというものだった。

「つまり、命と引き換えに魔力を増幅すると言うのか」

 オレリオの静かな声が部屋に響いた。血が出そうなほど握り絞められた拳が小さく震えていた。

 リオンは手をついて謝ろうとしたが、アルティシアはそれを止めた。

「私が望んだことです。命を失ってでもあなたを守りたかった。あなたとの子供が欲しかったの」

 オレリオは震える手でアルティシアを抱きしめ、リオンに尋ねた。「あと――どのくらいなんだ。残された時間は」


 魔導士たちの解析によると、アルティシアの元々の魔力量から、本来の寿命自体がもって20年程度だったと推察された。

 その寿命の半分以上を、魔力増幅に使ったのだ。

 医師や魔導士たちがアルティシアの魔力を入念に調べた結果、アルティシアに残された寿命は5年から6年と診断された。

 オレリオは茫然とアルティシアを抱き締め、何か助かる術はないかとリオンや魔導士たちに言ったが、アルティシアはそれをやんわりと拒否した。

「そんなことよりも、残された時間をあなたとカインを愛する事に使いたいのです。あなたと二人でカインを愛していきたい。私がいなくなっても、あの子が私を覚えてくれるよう、幸せに育ててあげたいのです」

 オレリオは、アルティシアの言葉に頷く以外許されない自分を悔やんだ。

 アルティシアにこのような選択をさせる前に、もっと自分ができる事があったのではないか。

 どこか他人事と思っていなかっただろうか。

 子供ができなくても傍系に継がせればいい、養子でも取ればいいなど、軽く考えてはいなかっただろうか。実際にそう考えていた自分がいた。

 反逆と疑いをかけられても、うまく躱せるよう手回しもしていたし、自信もあった。

 だから余裕の態度でアルティシアに接してたが、それが逆にアルティシアを追い詰めていたのだろう。

 アルティシアがこの選択をしてしまったのは、自分のせいでもあったのだ。自分がもっとアルティシアにちゃんと話していれば……

 いや、そもそもあの日アバルト侯爵家に行かなければ――彼女と出会っていなければ――

 その考えは無理だった。

 あの日出会っていなくとも、二人は必ずどこかで出会う運命だった。

 そして、出会ってしまえば惹かれ合う――オレリオはそう確信していた。

 全ての出会いを無にしても、きっと自分はアルティシア以外を選ぶことはない。彼女もそうに違いない。

 二人の愛はそれほどまでに深いのだ。であれば、どう接していたとしても、アルティシアはカインを身ごもるために同じ決断をするのだろう。

 オレリオは自分の無力さを嘆くのは、全てが終わってからにしようと決めた。

 アルティシアの言う通り、アルティシアを愛し、二人でカインを最後まで愛し守って行くのだと――

 しかし、現実はもっと残酷だった。


 アルティシアの体には、まだ術の名残が残っており、防御を知らないカインはその影響を直に受けてしまうのだと魔導士は告げた。

 オレリオやリオンのように大人で魔力が安定している者には影響はしないが、赤子のように無垢な存在は術が発動したのと同じ状態になってしまい、アルティシアがカインに触れれば触れるほどカインの寿命が削られているのだと魔導士が告げた。

 アルティシアは、その時初めて自分が間違えていたと思った。

 オレリオを守りたいという思いでやったことが、生まれてきた我が子の命を脅かす結果になっていただなんて――

 唯一の救いは、術は非常に弱く、アルティシアのように大きく寿命を左右するものではないこと。

 カインの魔力が思いの外強く、術が歪められていること――おそらく、生命の危機を察知して生存本能が行ったのだろう――命は削られているが、それによって本来一時的に増幅するはずの魔力ををそのままカインの魔力そのものに転換し、カインが持つ本来の魔力自体を底上げしているようだと、魔導士は伝えた。

 しかし、アルティシアがこれまで通りカインに触れ続けることで、カインの魔力は増幅を続け、カイン自身が制御できる限界を超えてしまう可能性がある為、結果的に危険であることには変わりはない。

 できる事ならばアルティシアはカインに触れる事の無いよう過ごした方がいいと魔導士が言い終わる頃には、アルティシアはその場に立っていられなかった。

やっと伏線回収回です

お待たせしました

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