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侯爵家の婚約者(リライト版)  作者: やまだ ごんた


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35/90

35.

お読みいただきありがとうございます

33話〜35話まで、リライト版で大きく変更した部分になります

違いをお楽しみいただけると嬉しいです

 ぱちぱちと薪が爆ぜる音を聞きながら、イレリアは暖炉の炎を見つめていた。

 初めて暖炉に火が入った日、イレリアはひどく驚いた。

 焚火なら遠くで見た事があったが、暖炉の中で炎が燃えるのを見るのは初めてだったからだ。

 

 本格的な冬が来る前に、イレリアの部屋の冬支度をする為に女中達が、なにやら重たそうなものを運び込んできた。

 鉄でできた籠に、透かし彫りが美しい真鍮の小さな衝立、白いふかふかとした毛皮だった。

 イレリアがソファに座っていると、女中たちは手慣れた様子で暖炉の中に籠を設置した。

 そして、暖炉の前に毛皮を敷くと、その上に真鍮の小さな衝立を置いていった。

「これは火の粉が飛ばないようにする衝立だ。薪が爆ぜると火の粉が舞うからね」

 夜に来たカインが教えてくれた。

 暖炉など薬師のところにもなかった。小さな窯があり、冬はその周りで暖を取っていた程度だ。

 イレリアが暖炉を初めて見ることを察したカインは、ゆっくりと立ち上がり、暖炉の脇に積み上げられた薪をいくつか火籠に放り込んだ。

 そして、暖炉の上に置かれた小箱から小さな紙きれを取り出すと、魔力を流し込んだ。

「これは火のスクロールだよ。使用人達は着火のスクロールって呼んでいる」

 カインの魔力を得たスクロールは、勢いよく燃えて薪の中に投げ込まれた。

 よく乾燥した薪は勢いよく燃え始めた。

「カイン!そこは窯じゃないのよ!」

 イレリアが驚くのを、カインは素直に可愛いと思った。

「よく見てごらん。薪は籠の中で燃えてるから家には燃え移らないさ」

 ソファに戻ると、イレリアの肩を抱き締めた。

 完全に薪に火がつくと、透かし彫りの衝立が炎で赤く照らされて美しかった。

 ぱちんと音を立てて薪が爆ぜると、イレリアは驚いたが、次第にカインの肩に頭をもたげ、安全で温かい炎に魅入られるように眺めていた。


 冬支度は暖炉だけではなかった。

 イレリアの元には、カインと侯爵から山のように贈り物が届けられた。

 温かい綿の部屋着、毛皮の室内履き、毛皮の寝具に柔らかくて暖かい毛布。それに毛皮で縁取られた手袋と上掛け――

「素晴らしいものばかりですわ。お嬢様は本当に侯爵さまとお坊ちゃまから愛されておいでですわ」

 贈り物を整理しながら、女中が感嘆の溜息漏らした。

 イレリアは贈り物をひとつひとつ手に取ると、これまで見た事もないほど上等で高価なものだと噛み締めた。

 カインだけでなく、侯爵もこうして気にかけてくれていることが、イレリアにとってとても幸せに思えた。


 イレリアはさっそく贈られた綿の部屋着に着替えてみた。

 厚みのある生地なのに、とても洗練されたドレスに見える。これだけで外に出ても寒くないのではないかと思えるほど暖かい。

 用意された毛皮の靴を履いて、上掛けを羽織って庭に出ると、寒さなどどこかへ消えてしまったのではないかと勘違いするようだった。

 庭に植えられた木々も、葉を落として冬の仕度を始めている。

 イレリアは風のない心地の良い冷たさを満喫するように、庭を歩いていた。

 教師に教えられた通り、背筋を伸ばして優雅に軽やかに足を進める。

 物語によく出てくるお姫さまって、きっとこんな感じなのね。

 そして王子さまはカイン以外に考えられない。

 美しいだけでなく、逞しい体に情熱的な愛。そして王室に次ぐ地位を持つ完璧な男性。

 その全てが自分のものなのだ。

 貧民街でいつもお腹を空かせて、擦り切れるまで働いていた自分はもういない。

 そっと自分の手を見ると、あれほど荒れてひび割れていた手が、嘘のように柔らかく美しい肌へと変わっている。

 鍬を持つ手は、今はカインを包み込むためだけに存在する。

 イレリアは、今この世界で一番幸せなのは、自分に違いないと確信していた。

 新しい服と靴はイレリアの気分を高揚させて、気が付くと車寄せの方まで歩いていたようだ。

「お寒うございませんか」

 聞き覚えのある声が聞こえてきたので、イレリアは思わず柱の陰に隠れた。

 散歩は禁止されていないが、未だに玄関に近付くとイレリアが逃げ出すのではと、使用人が血相を変えて寄ってくるのだ。

 せっかくの気分を台無しにされたくなかったから、イレリアは少し隠れてやり過ごすことにした。

「ありがとう。アレッツォ。平気よ」

 女性の声だった。

 イレリアは柱の陰からそっと覗き込んだ。

 顔はよく見えないが、小柄な体をらかそうな白い毛皮が守るように包み込んでいる。

 アレッツォが見送っているという事は、彼女がシトロン公女なのだろう。

「フェリスの毛はとても暖かいのよ」

「それはようございました。カイン様がお選びになった甲斐があるというものです」

 イレリアは自分が着ている上掛けを握りしめた。

 羽のように軽いのに温かい毛織物で毛皮で縁取られている。とてつもなく高価な代物だという事はイレリアにも分かる。

 だが、シトロン公女が着ていた毛皮は、遠目からでも非常に高価だというのが分かるほどだった。

 おそらく、あの毛皮の中に着ているドレスも、イレリアの着ているものとは比べ物にならないほど最上級のものに違いない。

 そして、それらはカインや侯爵から贈られているのだ。

 イレリアは、さっきまで自分が世界で一番幸せだと思っていた。

 だが、今はとても惨めで恥ずかしかった。

 

ほのぼのシーンのつもりだったんですよ…

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