24.
「君は――ジルダが好きなのか」
カインの問いかけに、ロメオは怒りで一瞬頭が真っ白になるのが分かった。
こいつは何を言っているんだと、ロメオは胸倉を掴んだままカイン顔を覗き込んだ。
「君が怒るのはジルダに関係した時だけだ。子供の時もそうだ。覚えているか?」
口の端に笑みを浮かべながら、カインは懐かしむように昔話を始めた。
侯爵邸の日当たりのいい一部屋を改造して作られた、子供たちのための遊び部屋は、専用の庭に面していて、庭には木の上に作られた小さな小屋や、枝にぶら下げられたブランコなどの遊具が配置されていて、3日に1度ジルダが来る日を狙って、ロメオとティン=クエンもやってきてはここで過ごしていた。
ジルダと婚約した2年目の夏、庭の木の下に座り、いつものようにジルダがカインの手を握って魔力を吸収していた。
そこにロメオとティン=クエンがやってきて、手に持っていた木の筒をカインに向けると、勢いよく水が吹き出した。
「うわっ!何するんだよ!」
「水鉄砲さ!うちの使用人に作ってもらったんだ!」
ティン=クエンが転がるように笑いながら水鉄砲を抱えてカインに狙いを定めると、ロメオも同じようにカインに狙いを定めて攻撃をしだした。
弾かれるようにジルダの手を離して、カインはティン=クェンの攻撃から逃げ回った。
魔力吸収はほぼ終わっていたし、問題はないだろう。
ジルダはいつものように庇の下に据え置かれたカウチに避難しようと立ち上がったその時。
「隙あり!」
ジルダの顔をめがけてティン=クエンが水鉄砲を発射した。
「きゃっ!」
ジルダは小さく悲鳴を上げて、ティン=クエンから逃げようと体を翻したが、ジルダの反射神経で逃げられるわけがなかった。
水鉄砲で濡らされたスカートは足に纏わりつき、体勢を崩したジルダは、つんのめるように倒れた。その拍子に目指していたカウチに腕を酷くぶつけてしまった。
激痛がジルダの腕から全身に広がり、ジルダは思いっきり唇を噛み締めて、声を上げずに涙を流した。
「ティン!お前女の子になんてことをするんだ!」
ロメオは、驚いて固まっているティン=クエンを突き飛ばし、ジルダを助け起こすと、庭の隅に控えていた使用人を呼びつけた。
「ジルダに治癒師を呼んで。ひどくぶつけたんだ。折れているかも知れない」
テキパキと使用人に指示を出すロメオを、カインは手伝いもせずにただ見ていただけだった。
ティン=クェンは泣きそうな顔で、使用人に連れて行かれるジルダを見送っていた。
「ぼ……僕はジルダも一緒に遊ぼうと思って……」
「だからって不意打ちは驚くに決まっているだろ!」
「カインは大丈夫だったじゃないか」
「ジルダは女の子だ!今日だってドレスを着てたのを見ただろ?前みたいに一緒に走り回ったりはできないんだ」
案の定、ジルダの腕はブランコにぶつけた際に折れていて、治癒師による治療が行われていた。
念のためシトロン伯爵家にも使いを出したのだが、2刻経った今も、伯爵家からは何の沙汰もなかった。
カインはなぜロメオがこんなに怒っているのかわからなかった。
怪我をしたのは可哀想だが、アレッツォがすぐに治癒師を呼び、今まさに治療を受けている。
ティン=クエンはふざけただけで、大袈裟に驚いて怪我をしたジルダが悪いんじゃないか。
「カイン――君はジルダがどれだけ大事な存在かわかってるのか?もし――」
この後ロメオは何と言ったか。
だが、元々僕たちはジルダを大事にしていたし、カインがジルダに冷たくなってからも、遊ぶ時は4人だった。
空気を読まないお調子者のティン=クエンも、活発で聡明なロメオもジルダと遊ぶことを好んで、ジルダが来ている時を狙って来ることが多かったほどだ。
だが、次第にジルダは自分たちと走りまわることをしなくなっていった。
自分たちが庭で走り回っていると、庇の下のカウチに腰掛けて皆が遊ぶのを眺めて過ごすようになっていた。
そんなジルダをいつも気遣い、傍にいたのはロメオだった。
暑い日に冷たい飲み物を差し出したり、風が冷たい日に柔らかく暖かな毛皮をかけてあげたり……
まるで自分こそがジルダの婚約者だと言わんばかりに。
「君は――ジルダが君に……僕たちにとってどれほど大切な人か理解できていないのか?」
ロメオは掴んでいた手を離すと、ため息をつきながらソファに腰掛けた。
カインはわずかに眉を顰めたが、苛立ちとも冷静ともわからない目でロメオを見ていた。
「僕はジルダに命を救われたと思っている。彼女は僕の――いや、僕たちの命の恩人だ。大切にするのは当然だろ?」
あの魔力暴走の時、ジルダがいなければ自分達は死んでいたかもしれない。
いや、少なくともカインは間違いなく死んでいた。
父であるエスクード侯爵の手によって。
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