第8話 対話
金髪で緑の瞳の少女の口から関西弁が飛び出して、いささか面食らう。
ハーフで関西圏育ちというだけの話だろうに、それでも予想外のことに僅かながら心乱された。
いかん。修行が足りない。
他人を見た目で判断しているということでもある。改めねば。
シドウは自省した。
金髪三つ編み関西弁女子に話しかけられたが、会話する気はなかった。
開始地点では、心の準備ができていない帽子女子たちに対して忠言じみたことを告げた上で、その場を離れはした。
だが戦いが始まってから、相応に時間が経った。皆すでに戦いの心構えを終えていると見なす。
無言で歩み進む。
「シドウくんも1人やったら、うちと組まへん? うちの能力、結構使えると思うんやけど」
遭遇した敵と、協力関係を結ぼうとする。
なるほど。それもありだ。
会話するつもりはなかったが、断りくらいは入れる気になった。
「俺は誰とも組まない。1人で戦う」
宣言して、さらに歩み寄る。
「そんなこと言わんと。1人で戦うなんて無茶やで。5人まで生き返られるんやから協力し合えるんやで? うち、チームを組んだ人たちと逸れてしまって、心細いんよ」
じりじりと後退しながら同情を誘うようなことを言う少女。
シドウは足を止めた。眉間に皺が寄っしまっているのが自分でもわかる。
誰とも組む気がないと告げて、それ以上話すことなどないと思っていたが、言いたいことができてしまった。
「逸れた仲間を放って、俺と組んでいいのか?」
少女はびくりと肩を震わせて、気まずそうな、後ろめたそうな顔になる。
「それは——」
逸れたという彼女の仲間が3人以下なら、シドウ1人と同盟を結んでも問題はないと言える。
しかし反応からして、彼女はシドウと手を結ぶことに問題があると考えている。つまり仲間は4人。
今ここでシドウと組んだら、後々仲間たちと無事に合流できても、生還枠の5人からあぶれる者が出ることになってしまう。彼女の独断のせいで仲間の内の1人が切り捨てられなくてはならない状況を生み出すことになるのだ。
不用意な発言をする少女に若干の苛立ちのようなものを覚える。
「見逃してくれへん?」
シドウと組むのは諦めたらしい。
「5人生き返れるんやから、1人くらい見逃してくれてもいいんちゃう? 1人きりのか弱い女の子やで」
口八丁でこの場を乗り切ろうとしている。
だが、彼女が1人だからと見逃せば、あとで仲間と合流してしまう可能性がある。
女子であることも見逃す理由にはならない。この戦いには他にも幾人も女子が参加しているはず。ここに来る前の記憶からすると10人以上はいるはず。
勝ち残るのが5人である以上、女子だからといって見逃せない。それくらい彼女とてわかっていないはずがない。
格闘技を習っているわけもなさそうな少女と一戦交えることに、空手家として躊躇がないかと問われれば、ない。
これは空手の試合ではない。各々の生死をかけた真剣勝負だ。
そして、この少女にも戦う為の力が与えられているのだ。
あまり強い能力ではないから、必死になって戦いから逃れようとしているとも考えられるが。先ほど「使える能力」と自分で評していた。
虫のいい話をする彼女の言葉なので本当とも言えないが、シドウと組んだら具体的に能力を教えることになるのだ。流石にまったくのデタラメを言ったわけでもないだろう。
能力を使えば、たとえか弱い少女だろうとシドウに対抗しうる。
不必要な話をする気などなかったが、正直あれこれ言ってやりたいことが出てきた。
だが、多くを語る気にもなれなかった。
もともと口数の多い方ではないシドウだが、関西弁女子のその場しのぎを聞かされていると、なおさら口を利くが失せてくる。
だから、本当に己が伝えるべきだと考えることだけを言葉にした。
「チームを組んだということは、戦うと決めたということだろう」
戦う気がないのならば、チームを組む必要はない。1人で隠れる選択肢だってあった。
チームを組んだということは、積極的に戦う道を選んだということだ。仲間とともに。
4人の仲間と5人チームを作ったなら、その時点で残る20人とは敵対することを選んだことになる。
無論、その中にはシドウも含まれている。
関西弁女子はとっくの昔に、シドウと敵対する道を選んでいたのだ。
仲間と逸れたからといって、今更シドウとの戦いを逃れられると思うべきではない。
戦うことを決めた以上は戦え。
俺と戦うことを選んだのはお前自身だ。
と、まあこのように、短い発言にシドウが込めた思いを詳しく説明すると長くなってしまうのだが。
自分の言葉の意味を理解してもらえるとは期待していなかった。さすがに端的すぎる。
だが、関西弁女子はハッとした表情になった。
そして、フッと自嘲的にも見える笑みを浮かべたかと思うと、その目に熱く燃える闘志をみなぎらせた。
どうやらシドウの言いたかったことは通じたらしい。
「そやな。自分で決めたことや。今更ムシのいいことを言ってしまったわ。たとえ1人でもやったるわ」
来るか。
使える——つまり有用性が高いという彼女の能力でシドウに何か仕掛けてくる。
シドウは身構えた。少女は目を見開き、緑の瞳でシドウを睨み——にわかに振り返り、背を向けて駆け出した。




