第7話 遭遇
最初に自分が出会う者、もしくは出会う者たちは一体どんな人物で、どういう超能力を持っているのか。
未知の能力を持つ相手との戦闘は危険に満ちている。一瞬の判断ミスで敗北を喫することになるかもしれない。
だからといって能力が不明の相手とは戦わないことにしたら、誰とも戦えない。
戦闘が起きているところに通りがかり、能力を使用する場面を目撃でもしない限り、自分が戦う前に他者の能力を知ることはできない。そんなたまたまを期待していても仕方がない。
人数にもよるが、出会った相手には戦いを挑む。
未知の能力に対処できず敗北するなら、自分はそれまでの人間だったと思うより他あるまい。自分の鍛錬が足りなかった、そう思うしかない。
シドウは、そんなことを考えながら黙々と歩いていた。
戦うべき相手を求めて動き回るにしても、どのように進行方向を決めるのが良いかは悩ましいところだった。
なるべくまっすぐ進むのが良いか、それとも勘を頼みにうろつくか。
結局、基本出来るだけまっすぐ進みつつも、直感に従って時々道を変えることにしていた。
思案しながらも周囲への警戒を怠ることはしない。
油断は禁物。単独行動を選んだ時点で、一瞬の油断でも命取りになりかねない。
……すでに死んでいるから命取りというのは違うだろうか?
命取りは本当に命を落とす、生命を失うことだけではなく比喩的な意味でも使うから問題ないか? 少々ややこしい。
爆音が聞こえた。
シドウは立ち止まり、音のした方向を見る。
煙が上がっている。かなり離れた場所だ。
空のカウントを確認する。24。人数は減っていない。
爆音の発生源は間違いなく何者かの能力だ。爆発を引き起こせる能力を与えられた者がいる。
距離が開いている割に音が大きかった。相当大きな爆発が起きたということ。凄まじい破壊力と推定できる。直撃すれば一発で決着がつく威力はあるのではないか。
にも関わらず、敗退者は出ていない。
爆発に巻き込まれた者はいなかったのか。少なくとも直撃は避けられたのだろう。
爆破の能力の持ち主が狙いを外したか、相手が避けたか。
命中率が低いのか。それとも攻撃のスピードがそう速くないのか。
どのような攻撃なのか、想定してみる。
とはいえ、シドウは超能力だの魔法だのといった超常的な力に大して詳しいわけではない。せいぜい、そういう類のものが出てくる映画をいくらか観たことがあるくらいだ。
それらを参考にすると、手のひらや杖の先から火の玉が飛び出し、着弾すると爆発を起こすイメージが受かぶ。
手のひらから何か飛ばしてくるなら、回避は十分可能だ。
だが先入観を強く持つことは禁物だ。実際はどんな過程を経て爆発する攻撃なのかわからない。
爆音が続かないことからして、襲われた側が逃走に成功したか。
それとも襲った側が退いたか。
あるいは、奇襲ならばいざ知らず、まともに戦えば不利と判断したか。
さて、どうするか。
爆音が聞こえた結果、そちらに向かう選択肢が生まれた。
しかし、襲った側が撤退したか襲われた側が逃走したかなら、今から向かったところで爆音の発生場所にたどり着いた時には誰もいないだろう。
しかし、あれだけの爆音、聞きつけた者たちが様子見に向かう可能性は低くない。
爆源の方に向かえば、爆破攻撃を仕掛けて撤退した者か、爆発から逃げ出した者と出くわす可能性もある。
ならば、戦いを避けるつもりがない以上、爆源に向かうのが得策だろう。
チームを組んだ者たちと遭遇してしまう危険性はある。それはどうしたって避けられないことだ。
シドウは再び歩き出した。
そして。
シドウは1人の少女と遭遇した。
髪を三つ編みにした活発そうな印象を受ける少女。
ブロンドの髪に緑の瞳。顔立ちからしてハーフだろうか。
爆音が聞こえてきた方向から走ってきたようだ。
爆破攻撃を受けて逃げ出した側だろうか。何かから逃れたいと願いながら走っている顔に見えた。
シドウを見て少女は足を止めた。
息を切らしているというほどの様子ではない。
走ってきたとはいえ、さほど速いペースではなかった。現在進行形で何者かから全力疾走で逃げていたわけではない。
爆音が聞こえてからの経過時間を考えれば、敵に追跡されていないと判断して走るペースを落とした、途中休憩を挟んだとは考えられる。
1人なのはシドウ同様、単独行動を選んだからか。
そうでないなら敵襲を受けて逃げ出す際に仲間から逸れたか、仲間を置いて我先にと駆け出したか。
たとえ仲間を置き去りにしてきたのだとしてもシドウは責める気は無い。あの爆音から想像する爆発の規模からすれば、やむなしだろう。
逆に逃げ遅れて、仲間に置き去りにされる形だったやもしれない。
なんにせよ、金髪三つ編みの彼女に事の経緯を問いただすつもりもない。
出会ったからには、ただ戦うのみ。
少女は狼狽している。
シドウのことを知っているがゆえか。たとえ知らなくても敵襲から逃げてきた先で、また別の敵と出会えば、そういう反応にもなるだろう。
少女が口を開いた。
「ええと、シドウくんやんな? 空手家の?」




