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25分の1の——シドウ  作者: シンサク


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第4話 決意

 自身のつま先を刃に変える。

 生前に使ったことがあるかのように、その様が頭に浮かぶ。つま先が履いている靴ごと変化する様を。

 鉈のように分厚く、巨大で、重量感のある刃。鉈と違って両刃で、先は尖っている。

 実際に使用せずとも脳裏のイメージだけで、その刃が凄まじい殺傷能力を秘めていると感じ取れた。

 殺傷能力——他者を傷つけるための力。

 おそらく、ここにいる4人も、他の場所にいるはずの20人も、そういう能力を与えられている。

 つまり、やはり、これからシドウたちがやるべきことは戦いなのだ。

 天の声は、生き返りたいなら争えと暗に言っている。

 場の空気が重くなる。

 闘争が示唆されていることを皆理解しているのだ。

 いや、なぜだか金髪男子だけ、あいも変わらず困り顔だ。未だに現状を飲み込めていないのか。

 現状認識できていても、人と戦闘できる性分でないのかもしれない。

 帽子女子はビクつきながら、シドウたちを警戒している。急に襲いかかってくるのではないかと疑心暗鬼に駆られているようだ。

 残り2人は険しいを通り越して、怖い顔をしている。

 だが他の者が早計なことをするとは考えていないのか。天の話に集中しているようだ。

 能力は誰が生き返るか決めるために自由に使っていいとのこと。

 自由にと言われても、暴力、攻撃以外の使い道などなさそうだが。

 そこで閃く。

 25人が25人とも、直接相手を攻撃するための能力を与えられたとは限らないのだ。

 これから始まるのはバトルロイヤルでありサバイバルでもあるのだ。

 生き残るのがサバイバルなのだから生き返りの場合は正確な表現ではないと思うが。リバイバルだろうか。それでは古い映画の再上映か。

 それはとにかく。

 最終的に5人になるまで残ってさえいればいいなら、戦わずして生還の権利を獲得できる可能性があるのだ。自分以外の者たちが争い合い、潰し合ってくれればいい。

 戦わずして勝つ。天の声が生き返る5人を決める方法を自由としている以上、それも認められていることになる。

 それなら、攻撃向きではないが潜伏や逃走に適した能力を与えられている者がいてもおかしくない。

 さらに考えると、非攻撃的であっても連携を取れば活躍できる能力というのもありうる。

 生還の枠は5人なのだ。なにも24人全員を敵に回すことはない。協力し合う余地がある。チームを作れる。

 ルールがないのだから、チームの人数は何人にしてもいいと言えばいい。しかし、後々内輪揉めになることを見越せば5人まで。

 5人までなら手を取りあえる。

 他の者たちがチームを組むとすれば、どうするのが得策か。

 悩むほどの設問ではない。シドウもチームを作るのだ。

 ここにいるのは5人。頭数は揃っている。

 これは意図的なものだろう。

 他の20人も5人ずつのグループに分けられているのでは? という仮説はもはや的中していると考えていいだろう。

 この灰色の地に25人がランダムで配置されていたら、仲間を作れるかどうかは運の要素が強くなってしまう。

 25人全員に5人チームを結成する機会が公平に与えてくれているのだろう。

 とはいえ、天の声は別にチームを組めとは言ってない。あくまでもチームを組む組まないは各人次第。

 チーム結成は部外者と争い合うのが前提。

 漁夫の利を狙うために戦いたくない者。争い傷つけ合うことを恐れる者。そういう者たちは単身で身を隠すことを選ぶはず。

 チームを組むべきだと考えても、その場にいる4人がまさしく命を賭けた戦いに挑む仲間として、信頼に足るかという問題がある。足を引っ張られる結果になるのではないかという危惧もある。

 五組が五組とも、その場にいる5人全員でチームを創設できるとは限らない。

 少なくともシドウのいるこのグループで5人チームが作られることはないと言い切れる。

 天からの声の説明は続く。

 生還者を決めるために行われる暴力行為や破壊行為が罪になることはないので気にしなくていいとのこと。

 もはや闘争の奨励を隠す気がないとも思える言葉だ。死んでしまって犯罪も違法もないだろうに。思う存分争い合えということだろう。

 そういえば、戦いの敗退者、生き返りのチャンスを失った者がどうなるのかについては話してくれていない。

 ここでの戦いで敗れ去っても、もう死んでるいるのだから死ぬわけではない。死んだままということになるわけだが。

 この灰色の世界は生と死の中間地点のような場所であって、天国や地獄のような所に行くことになるのか。

 だとしたら先ほどの言葉は生前に犯した罪は裁かれるが、ここでのことは不問に処すという意味だったのか。

 こればかりは考えても仕方がない。教えてくれないなら知りようがない。

 死んだらどうなるのか生前知りようがなかったのと同じことだ。

 死んだ後、まさかこんな場所で生き返りの機会を与えられるなんてことは想像もしていなかったが。

 ただ言えることは。

 シドウマモルは自身に与えられチャンスには全力で挑むことを信条にしている。

 他のものが到底与えられないごく稀なチャンスならば尚更。

 多くの死者がどれだけ望んでもまず与えられることがないであろう生き返りの権利を得られる機会。

 それを放棄する真似はシドウにはできない。

 生還権利者を決めるやり方そのものは自由であっても、大枠と言える取り決めはあった。

 時間制限がある。

 生還の権利者5人が決まらない、つまりは残り5人になる前にタイムリミットを迎えてしまった場合、生き返りの権利そのものが剥奪される。1人足りとも、生き返ることができなくなる。

 残り5人になった時点で生き返りを望む者は速やかに生き返らせてもらえる。

 残り時間と残り人数のカウントは空に表示される。

 残り人数という言い方は、これから他者を蹴落としていく争いが始まることを暗示している。ここまでいくと明示と言ったほうが妥当か。

 生き返った者は、死ぬ際に負った負傷は全て修復されており、安全を確保した状態で目覚められる。

 この世界で意識を取り戻してから起きたことの記憶は、生き返れば全て忘れる。

 どちらも重要事項だ。一方的に語りかける形ではなくて、質疑応答形式だったならば、確かめて置きたいことだ。

 もう一つ重要事項。川に落ちたら即生還の権利を得るチャンスを失う。

 落ちるという言い方からして、水が流れる川のことで間違っていないだろう。

 この灰色の街のどこかに、川が流れているということか。

 川——

 なにか連想するものがあるような気がしたが、思い浮かばなかった。

 別に大したことじゃないと直感したので、気にしないことにした。

 

 残り5人になったか、制限時間が来た時点でお知らせします。それでは、皆さま頑張ってください。

 

 その言葉を最後に天からの声は途絶えた。

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