第3話 予想と実際
自分は今、どんな顔をしているのだろうか。
普段から動揺が顔に出ないように心がけている。
だが3つ目の知らせは、その心がけを一瞬シドウの中から吹き飛ばすものであった。
「え?」と声を上げたのは、帽子の女子だ。
どういうこと? とでも聴きたげな顔で、シドウたちの顔を見回す。
同じく訳がわからないという表情の金髪男子と顔を見合すことになった。
茶髪男子とポニーテール女子は一瞬たりとも周囲の反応を伺うことはせず空を仰いだまま、次なる天からの言葉を聴き逃すまいとしている。両者とも、睨みつけるような目で。この2人は3つ目の知らせの意味するところを察したのだろう。
天からの声はこちらの反応を見るためか、話を理解し受け入れる時間を作るためか、いちいちたっぷりと間を置く。
その間、シドウは考える。
試練を与えられるという予想自体は間違っていないはず。
しかし、シドウが漠然とイメージしていたクリアした者はもれなく生き返ることができるというものではなかった。
人数制限が設けられていた。25人の中から5人、生き返られる者が決められる。
どうやって。
競争か、闘争。
そういう話になるはず。
そういえば生き返られるのは5人で、ここにいるのも5人。
25人が5人ずつ、五組に振り分けられているのだとしたら。
団体戦、チーム対抗戦をやらされるのか。
あるいは、その場にいる5人で争って、各グループ勝ち残った1名ずつが権利獲得となるのか。
後者であれば——
シドウは、臨戦態勢に入る。
空手の構えをとったわけではない。精神的な面で、いつでも戦いに移れる状態に入ったのだ。
争うにしても天からの話が終わってからだろうが、粗忽者がいきなりしかけてこないとも限らない。身構える必要はある。
どうやら、この中にそんな軽率な者はいないようだが。想像通り5人五組に分けられているならば、他はどうなっているか。あと20人もいれば、パニックに陥って、とんでもないことをやらかす者がいてもおかしくはない。
天からの声は語る。なぜ、シドウたち25人に生還のチャンスが与えられるのか?
本来、あの事故で死亡するのは25人のうち20人のはずだった。
しかし、25人ともが命を落としてしまった。
だから、余分に落命することになってしまった5人分、生還の権利が用意される。死ぬはずでなかった人数の5人は生き返ることができる。
それならば、死ぬはずではなかった5人を生き返らせるのが筋ではないのかと考えたが、どうも死ぬ20人が誰だったかは未定——不定であったらしい。
25人中20人は死亡する。5人は生存する。それは定めらたことだった。
しかし、誰が死んで誰が生きるのかは不確定だった。
ランダム。
25分の5の確率で生き残ることができる。できたはずだった。
なんともコメントに困る話である。
運命とは、人の生死というものは、そんな曖昧なものなのか。
いや、運命が全て予め定められていて変えられないよりは救いのある話に思えなくもない。
事故が起きる、大勢が死ぬという、大きな運命の流れは変えられなくても、そこから生還するチャンスは誰しも与えられているということなのだろうか?
結局は、皆死んでしまったのだが。
あんな大事故では、チャンスも何も生き延びるために出来ることなどありそうもないし。
ただの運任せ。
25分の5の確率で当たりが出るルーレット。
諸行無常と言うのか。
兎にも角にも、誰が生き残るかは不定だったがゆえに、25人全員にチャンスが等しく与えられることになった。5人までが生き返ることができるチャンスを。
なぜ、自分たちに普通ありえない機会が与えられるのかはわかった。
問題は、生還の権利を手にする5人を決める方法だ。
単純な格闘、戦闘、殴り合いということはないと思うが。
天からの声が公平性を重んじるならば、暴力、戦闘力、格闘能力で生還者が決まるようなルールではないはずだが。
やはり、チーム間での競い合いにでもなるのか?
天の声は、25人のうち5人誰が生き返るかは自分たちで自由に決めるよう言った。
それは全く予想外の言葉だった。
自由に? 聞き違いではないのか?
自由ということはなんでもあり。ルール無用。バーリトード。すなわち、暴力の行使も許されるということ。シドウにとっては有利と言える。有利すぎるとも。
シドウは空手を学んでいる中学生の中で一番強い。
大言壮語ではない。ただの事実だ。
世の中に、大会に決して出ない、まだ見ぬ中学生空手家がいるのならば、話は別だが。
シドウマモルは、自他共に認める中学生最強だ。それもダントツの。
高校生の実力者と対戦して勝ったこともある。
シドウに勝てる高校生の方が少ないと言っても過言ではない。
それほどにシドウは強い。
だから、素手の暴力による争いとなれば、絶対的に有利になる。
有利と言うより、負けることはまずありえない。
ピリッとしたものを感じた。場の空気が変わった。気温が下がったようにさえ感じる。
ポニーテール女子と茶髪男子だ。
金髪男子は相変わらず、困り顔。
帽子女子は自由の意味を理解しているようで、空を気にしつつもオロオロと周りの顔色を伺っている。
特にシドウを警戒しているように感じられる。全国大会で優勝したことがあり、メディアで取り上げられたシドウの顔を知っているのだろう。
天の声は、ここにいる25人それぞれに異なる超能力、すなわち異能力を差し上げたと言い出した。
またも予想外の言葉だった。
超能力? 異能力? 予想のしようがない。
各自の能力に関する情報は、この場で意識を取り戻す前に記憶の中に入れたと天の声は続けた。
本当の話なら自分に与えられた能力はなんなのか? とシドウは考えた。
すると、一つのワードが想起された。
【足刀】
それこそシドウに与えられた能力の名称。




