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25分の1の——シドウ  作者: シンサク


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2/11

第2話 天からの告知

 自分は死んだ。

 ともにいる4人も。

 それがシドウの出した結論だった。

 信じがたい結論ではあったが、不思議とそれが真実だと確信していた。

 何故だろうか。自分の体は、生前と何ら変わりないようなのに。立てるはずがなかっただろう足で立てているポニーテール女子のような異変はないのに。

 だが、かすかに違和感がある。この体が自分の身体であっても肉体でないような。

 霊体というのだろうか。幽体離脱という言葉があるから幽体でもいいのか。

 とにかく肉体ではない。肉の体ではない。

 魂とか霊魂とかそういったもので、今のシドウの体は構成されているのではないか。

 平たく言えば、シドウは——シドウたちは幽霊というやつになっているのではないか。

 幽霊は未練があって現世を彷徨うものを指すだろうから、この灰色に満ちた地が死後の世界なら厳密には違うのかもしれないが——

 幽霊。

 死者。

 死。

 事故死。

 若き空手家シドウマモルの最期は事故死か。

 どれだけ肉体を鍛えようとも、技を磨こうとも、大きな事故の前では無力だったということか。

 はかない命だった。

 いや人の命など皆はかないものなのかもしれない。

 受け入れるしかない。

 先立ってしまったことは、父と母に対して申しわけなく思うが。

 そんなことを考えていると。

 

 皆さま、こんにちは。

 

 無機質とも思える声の挨拶が、天から聞こえてきた。

 天を仰ぐ。灰色が広がるばかりで声の発生源らしきものは見当たらない。

 シドウ以外の4人も空を見上げている。

 無機的な声が、灰色の空のどこからともなくまた聞こえてきた。

 

 声はシドウたちに大切な知らせが三つあると告げた。

 

 たいへん残念なお知らせ。

 たいへん嬉しいお知らせ。

 少し残念なお知らせ。


 一つ目の残念なお知らせの内容はすぐに察せられた。

 

 ここにいる合わせて25名の中学生三年生は、残念ながら亡くなっている。

 

 淡々と予想通りの事実が告げられた。やはりシドウたちは死んでいた。

 それを告げるこの声の主は神仏の類か、天の使いか。

 しかし引っかかるのは25名という人数。この場以外にあと20人いることなる。

 死の事実を始めとした重大な通知をするなら、一箇所に集めればいい。なぜそうしなかった?

 天の言葉に帽子女子は強いショックを受けている。

 金髪男子は動揺している。

 茶髪男子は落ち着いた様子だった。観念しているようにも見える。シドウ同様すでに自分が死んでいるという結論を出して、諦めの境地に達していたのか。

 ポニーテール女子はさほど驚いている風ではなかった。茶髪男子よりも平然と死の事実を受け入れたようにも見える。

 足のことばかり気にしていたようでいて足のことばかり気にしていたからこそ、迅速に真実へと辿りつけていたのかもしれない。生涯立てないはずの自分が立っているという異変は、生涯が終わりでもしない限り、つまり死にでもしない限りはありえないと。

 

 ここにいる者たちには生き返るチャンスが与えられる。

 

 二つ目の天からの声曰くとても嬉しいお知らせに、シドウは内心驚く。

 茶髪男子も己の耳を疑っている様子だ。

 帽子女子は驚きと喜びが混じったような表情。

 金髪男子は驚きと喜びにプラスして困惑の表情といったところだ。

 ポニーテール女子は——

 声が聞こえる前は地を見つめて呆然としていたが、自分が死んだと聞かされ安堵の色さえ浮かべていたように見えたその顔は、生き返れるかもしれないと聞いて陰った。

 彼女の感情の変化を推し量るなら——

 彼女にとっては立って歩けるということが重要だった。立てていても、一歩踏み出そうとして、それが叶わぬことを恐れていた。

 しかし、死んだという事実を第三者——神か仏かそれらの使いかと思われる存在から知らされたことで、逆に安堵した。

 死んでいるなら、現世の肉体の枷から解き放たれていて不思議はない。

 自分は歩ける。そう考えた。

 普通なら忌避するはずの死というものが、歩けぬ彼女にとっては救いであったのか。

 それほどまでに歩行不可能という絶望は深かったのか。彼女の心を蝕んでいたのか。歩くこと、走ること、自由に移動することを渇望していたのか。

 彼女が突然の事故か何かで、二度と歩けない体になったなら、それも無理がないことなのかもしれない。

 歩けぬまま生きるより、死んで歩ける方が幸福かもしれないとみなすほどに、彼女は苦しんでいたのか。

 だからか。だからなのか。

 本来なら死者にとって願ってもないチャンスを与えられると聞かされて、彼女の顔は曇った。

 生き返られるかもしれない。

 しかし生き返っても、また歩けない、立つことさえ不可能な足に戻るだけではないか。

 本来ならば驚き、喜ぶか戸惑うか疑うか、あるいはそれらの複合的な感情を抱くであろう朗報に、彼女は他の者には理解しえない不安を抱いた。

 生き返ったところで、歩けないならばなんになる?

 そんな考えがよぎるほどに、生前の彼女は苦しんでいた。ここに来る前の彼女の目を思い出すと、そう思える。。

 想像の域を出ないが。

 ポニーテール女子のことは、彼女自身の問題だ。シドウがどうにかできることではない。

 彼女自身が何かしら話を聞いてほしいというのならば、聞くのもやぶさかではないが。

 それも3つ目の少し残念なお知らせ次第。その内容次第では、話を聞いてもらう聞いてやるどころではなくなる。

 3つ目の告知の内容は、2つ目の告知からの流れで薄々検討がつく。具体的なことまではわからないが、2つ目のチャンスという言葉から予想できる。

 生き返るには何か条件があるのだ。無条件で生き返ることができるわけではない。

 試練、テスト、そういったものがおそらく用意されている。それを突破しなくては生き返られない。生き返る資格を得られない。

 そして、その試練は相当の難関、狭き門なのだろう。

 一度失われた生命を蘇らすなど、自然の摂理に反することなのだから。奇跡に等しいものと考えれば、それ相応の難関が用意されていると覚悟しておくべきだ。

 実際聞いてみれば、3つ目の知らせはシドウの予測とずれていた。生き返りが狭き門であること自体は当たっていたが。

 

 生き返ることができるのは、この場にいる25人のうち、5人だけ。

 

 天からの声はそう告げた。

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