第19話 合力
頭が冴え渡る。こんなにも頭が回ることなど模試の時にはなかった。
数が三倍に増えた腕を合わせて一つの物を持つのに使えば、腕力が三倍になるようなもの。腕二本で扱える武器の三倍の重量の武器でも使用できる。腕二本の時の三倍の力で武器を振るえる。
しかし、たとえ腕力が実質三倍になろうとも足腰の筋力はどうだ? 巨大薙刀を振り回す負担に耐えられるものなのか?
疑問の答えはすぐに閃く。
腕が四本増えれば、それだけ体重も増える。
稽古に励んだ後でもなければ、シドウも腕の重さを普段感じることはない。
だからといって突然四本も腕が増えれば相当な負荷を感じるはずではないか。特に肩。
おかっぱの女子が大太刀を自在に振り回していたこともあって、増えた四本分の腕の重量のことなど気にしていなかった。当然のことのように捉えていた。
しかし、大太刀と六本腕ではそのあたりのからくりが違っていたのだろう。
大太刀は、持ち主が実際の重さの影響を不可思議な力によって受けない。
一方で六本腕は、増えた腕の重さの影響を受けないくらいに筋力に変化がもたらされる。
肩の力は六本の腕を何の問題もなく振り回せるほどに。
足腰もそれ相応に。少なくとも増えた四本の腕の分の重量をつゆとも感じぬほどに。
全体的な筋力の強化が巨大薙刀を振るうこととを可能にする。
振るえるにしても、おかっぱ女子の大太刀のように自由自在とはいかないだろうが。
戦闘に使えるほどに巨大薙刀を扱えるにしても、また別の疑問が生じる。
巨大薙刀自体は背の低い女子の能力で出したもの。しかし、あの小学生並みに小柄な体格で使える武器ではない。なぜ自分では使えないものを出せるのか?
大太刀の例からすると、出した本人には楽々振るえるというのはありえるのだが、それは違うだろう。
背の低い女子は六本腕の男子に届けるために髪の長い女子と瞬間移動してきた。自分ではあれを扱えないから。
シドウに向けて巨大薙刀を出現させることで攻撃をしてきたが、あれはとっさの行動だろう。シドウの攻撃の届く範囲内に、髪の長い女子が誤って瞬間移動してしまったがために、そのままでは攻撃されると判断してのこと。大した機転であるが、それは置いといて。
先ほど六本腕の男子が投げ捨てたメリケンサックと薙刀は見た感じでは同じ材質だ。
そして、どちらもどこか歪というか武骨さを感じる。なんというか、粘土をこねくり回して無理矢理その形状に整えたような印象を受けるのだ。
材質と印象の二つの要素から、メリケンサックも背の低い女子が出したものと推測できる。
背の低い女子の能力は、複数種類の武器を出せるというものなのではないか?
頭の中で思い描いた武器を出すことができるといったものなら、形の歪さにも一応説明がつく。頭の中でのイメージが不鮮明だから、出現する武器の形が洗練されたものにならないのだと。
メリケンサックが六本の腕に合わせたかのように六つあったのも説明できる。合わせたようにではなくズバリ合わせたのだ。味方の腕を六本にする能力に合わせてメリケンサックを六つ出した。
おそらく武器を出せる数には制限があるのだろう。
あるいは量。武器を形作る金属の質量の合計が決まっている。
なので六本腕の男子に武器を集中させる策を取った。戦力の一点集中。
女子2人のうち1人は瞬間移動の能力。もう1人は武器を出せはするが非力。その武器も六本腕の男子に全て回すものとしているなら、どちらも戦闘能力は有していない。
残る背の高い男子もまた、戦闘向けの能力を有していないのではないか。
ならば、どんな能力を持っているのか?
それは防御能力ではないか。
4人という人数に思い当たるものがある。ポニーテール女子が出会ったという4人組。それが彼らだったのでは?
話によれば、その4人組は爆破能力の持ち主を倒したそうだ。
強大な威力を誇っていたと思われる爆破能力。それに襲われてどう危機を回避し、能力の持ち主を撃破したのか。
二度目の爆音の後、すぐさま残り人数が1人減った。あれは爆破能力の持ち主自身の敗退によるものだったのではないか。
背の高い男子の能力が相手の攻撃を防御するものなら、彼が爆発を防ぐ一方で六本腕の男子が襲撃者を攻撃するかしたのではないか。
防御能力という予想は外れているかもしれないが。彼が戦闘に加わろうとしないのは、戦闘能力を持たない女子2人の護衛役の任に就いているからだろう。
髪の長い女子と六本腕の男子が瞬間移動で敵の元へ向かった時は背の低い女子のそばにつき、その後髪の長い女子が戻ってきたら2人とも守る。そういう役割。
色々と腑に落ちた。
推測がどこまで的を射ているかはわからないが、シドウの中では納得がいった。
目の前の対戦者は六本腕の男子1人だが、実際はチームとしてそれぞれの役割を果たし力を合わせているわけだ。六本腕の男子が戦い、他は基本的にはサポート役。
なかなかどうして、お互いを信頼とまでは行かずとも信用し合っているチームなのではないか。
感心している場合ではない。今は目の前の六本腕の男子と彼が手にしている巨大な薙刀に集中すべきだ。
六本の腕によって振るわれる、超重量の武器。その対処法を考えろ。
刃は鋭く研ぎ澄まされているとは到底言えないが、力任せに振り抜くだけで切れ味など関係なく暴風のごとき凄まじい威力を発揮するはず。
しかし巨大さと重量ゆえに攻撃を外した後の隙はでかくなる。
六本ある腕を一つの重量武器を持つのに用いているがため、手数という利点は自ら封じてしまっている。
一撃目さえ躱せれば、その隙に一発叩き込める。決定打となる一発を。
巨大薙刀の一振りをかわせるか否か。勝敗はそこにかかっている。
定石にのっとるならば、だ。
「シドウマモルという」
シドウは名乗った。




