第18話 手数
帽子を被った少女の姿が脳裏に浮かぶ。
シドウはとっさに斜め後ろに飛んでいた。
深く考えてそうしたわけではない。直感的な動きだった。
その行動に理屈をつけるならば、帽子の女子が手のひらから放ってきた光る球。それを使う時と同様の動作だったから、何かが飛んでくるイメージが頭をよぎった。
どんな攻撃を繰り出してくるのかはわからないが、ここは斜め後ろに飛ぶべきだと瞬時に判断した。
直感は正しかったと言えよう。
背の低い女子が腕を伸ばしきった次の瞬間、彼女の手のひらの先に何か黒くて長いものが現れた。
真後ろに飛び退いていたらどうなっていたことか。手のひらから飛び出したとか伸びたというふうには見えなかったが、事実としてその黒くて長い物質は寸前までシドウが立っていた場所を突き抜ける形で存在していた。
正体のわからない物体を警戒してシドウは女子2人からさらに距離を置く。
黒い物体は地面へと落下していき、硬いコンクリートの地面に激突して騒音を奏でる。
「シンキロウさん!!」
背の低い女子が叫んだ。
「おう!」
六本腕の男子が黒い物体に向けて駆け出す。
女子2人はそれを確認するよりも早く、振り返り走り出そうとしていた。
髪の長い女子の方はまた「お兄ちゃん!!」と叫んでいた。同時に背の低い女子も何か叫んでいたが、髪の長い女子の絶叫にかき消されて「——さん!!」としか聞き取れなかった。
女子2人が駆けていく方向に人影が見えた。
女子2人に向かって駆け寄っているようだ。影が大きくなっていく。
身長、足の速さともに中学三年生としては並外れている。
4人目もいたか!?
もしや、あいつが「お兄ちゃん」で、「——さん」か?
髪の長い女子とは双子? 年子? いや、「お兄ちゃん」と呼んでいるだけの幼なじみとか?
実の妹を矢面に立たせて、自分は離れたところに潜んでいたわけではないと思いたい。
六本腕の男子が黒い物体の落ちているところでしゃがみ込み、手を伸ばす。
メリケンサックは邪魔になるからだろう、駆けながら外して放り捨てていた。
外したメリケンサックをそのままシドウに向かって投げるという手もありはしただろう。先ほどまでの戦闘中に思いついていても武器を投げるのは最後の手段として取っておくべきであるし、今はシドウに破れかぶれの投擲を試みるよりも新たな武器を確保することが優先ということなのだろう。
武器。そう、背の低い女子が出したのは武器だった。
距離をとったことで、背の低い女子が出した瞬間には見えなかった全容もすでに確認できている。
槍のようなもの。槍のように柄の長い武器。
一般的にイメージされるであろう槍とはかけ離れた形状をしており、槍とは到底呼べない。
片刃かつ大きな刃を有している。
強いていうなら薙刀と呼ぶのが妥当そうではある。
薙刀もあそこまで大きく幅広な刃のものはないだろうが。
昔の中国の武器にああいう形状のものがあったように思う。名前が出てこないが。
やはり、薙刀と呼称しておくのが適当か。
大太刀ならぬ大薙刀。
巨大薙刀と言ってもいい。
ただ刃の部分だけが馬鹿でかいというわけでもない。
通常、槍や薙刀などの柄の長い武器は刀身と柄が別々の作りになっているはず。
別に長柄武器だけではなくて刀剣だって同じだろうが、それはとにかくとして。
背の低い女子が出現させた巨大薙刀は、刀身と柄が一体となっているようにしか見えない。一つの金属の塊で造られているようだ。
普通の長柄武器ならば柄は木製だろう。
刀身だけではなく長い柄までが金属製だと、柄が木製のものと比べ物にならないほど重量が増すはず。
あの薙刀の材質が鉄なのか未知の金属なのか何なのかはわからない。
鉄ではなかったとしても鉄と同程度の比重の金属なのだとしたら、どれほどの重量になるものなのか。
あの巨大薙刀が見た目よりも軽いということは、地面に落下激突したときの衝突音からしてない。並大抵の重さではないだろう。
果たしてあんなものを持ち上げることができるのか。
持ち上げるくらいはできるのかもしれないが、武器として振り回せるのか。
六本腕男子は格闘に関しては素人に毛が生えた程度ではあるが、肉体的にはかなり鍛え込んでいるようだ。筋トレが趣味なのだろうかと思うくらいには。
しかし、だからといって。
少年は六本の手で巨大薙刀の柄を掴んだ。
そうか!
六本の腕を相手にして攻撃の手数の多さに気を取られていた。腕の数が三倍になっていることで攻撃の手数も三倍になっていることにばかり頭がいっていた。
だが、六本腕の強みはそれだけではなかったのだ。使いようによっては攻撃の手数以外も三倍にできる。
六本ある腕を同時に使って一つの物体に力を加えれば——
少年の六本ある腕全ての筋肉に力が込められるのが見てわかる。
巨大薙刀を持ち上げた。
持ち上げて、構えた。
六本腕男子が不敵に笑う。どうだというような、自慢げにも得意げに見える笑みだった。
合点がいった。
シドウの頭の中にあったバラバラのパズルのピースが次々と組み上がっていくかのようだった。




