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25分の1の——シドウ  作者: シンサク


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第16話 打算

 六本腕の男子は考えなしに戦いに割り込んできたわけではないだろう。

 シドウとおかっぱ女子の戦いの行方を見届け、消耗した勝者を狙う手もあったはずだ。

 それをしなかったのはシドウの方が優勢かつ、このままでは無傷の勝利を収めそうに見えたからだろう。

 決着後よりも、勝負の真っ最中に奇襲を仕掛けた方が倒せる確率が高いと判断した。おそらくシドウのことを知っていて今が好機と捉えた。

 現れてから迷わずシドウの方に飛びかかってきたのは、おかっぱ女子よりも優先して倒すべき厄介な相手とみなしていた証拠。

 あわよくば、おかっぱ女子に恩を売って仲間に引き込もうという打算的な考えもあったのでは?

 たとえ奇襲に失敗しても——

 六本腕の男子がおかっぱ女子に目配せした。

 おかっぱ女子はそれに頷きを返した。

 ——あとで仲間にできるかはさておき、シドウに苦戦していた様子のおかっぱ女子と一時共闘できる可能性は高いと読んでいたのだろう。

 読み通りになったわけだ。六本腕男子の目配せは共闘の申し出を意味するに違いない。おかっぱ女子はそれを受けた。

 1対1対1が1対2に変わった。

 人数的にシドウが不利。

 戦力的にもシドウが不利。ただでさえおかっぱ女子はシドウとほぼ互角の力量だったのに、腕が六本ある男子が加わったのだから。

 瞬間移動能力の女子は数に入れなくていいだろう。あの逃げっぷりからして、相棒の六本腕男子の手助けに来るとは考えにくい。

 2人相手。1人は大太刀を手にし、もう1人は手数が文字通り常人の三倍。

 傍目には到底シドウに勝ち目がある状況には見えないだろう、

 しかし、大太刀を装備した女子と六本の腕を持つ男子という組み合わせがいい方向に左右するとは限らない。

 うまく連携が取れなければ、女子の大太刀が六本腕の男子を傷つけてしまう事態だって起こりうる。

 腕が六本に増えれば、他者の攻撃が当たる範囲も増える。味方の武器であろうとも長い刃物を振り回されれば当たらない保証はない。

 六本腕の攻撃の方が女子に当たらないという保証もない。普通ならばありえない角度で拳が来ることもあるだろうし。それはシドウが注意するべきことでもあるのだが。

 同士討ちにならずともそれを気にしてうまく力を合わせられなければ、そこに隙は生まれる。

 勝機はある。

 逃げを打つ手もある。

 だが、実際に戦ってみる前に敵前逃亡する気にはなれない。

 逃げるとしたら、2人が予想を超えて息のあった連携を取ってきた時だ。そうなった時は逃げる前にやられてしまうかもしれないが、それは承知の上。

 六本腕の男子がシドウに飛びかかってくる。同時におかっぱ女子が襲いかかって——は来なかった。おかっぱ女子の手から大太刀が消えた。

 そして、おかっぱ女子はシドウに背を向けて走り出した。

 逃げた!?

 六本腕の男子はそちらに一瞬気を取られたようだが、飛び出した勢いを止めることもできず、そのままシドウに殴りかかってくる。

 六本の腕を駆使した連続攻撃。

 シドウはそれをいなす。

 一旦互いに距離をとった。

 睨み合い。

 おかっぱ女子が逃げ出すとは。

 少し考えてみれば意外なことでもなんでもない。

 彼女の最優先事項は恋人と思われる誰かを探し出し、無事を確認することなのだ。

 目の前の戦いを回避できても、シドウが先に自分の探している相手に遭遇してしまえば敗退させられてしまう可能性があることに指摘されて気づき、その危険性を排除するために戦うことを決意はした。

 かといって、ここで自分がやられてしまったら元も子もない。恋人との再会が叶わなくなる。

 形成不利と判断した時点で逃走を考えていたとしてもおかしくない。

 そこに六本腕の男子が現れた。

 六本腕の男子がシドウを引きつけてくれれば逃げるチャンスだ。恋人を探すための時間稼ぎにもなってくれるかもしれない。共闘したところで、シドウを倒した後に六本腕男子が襲いかかってくる可能性もある。

 無理に戦闘続行するよりも逃げるが吉。

 おかっぱ女子は自分にとっての優先順位を間違えなかった。シドウを倒すことは最優先ではなかった。それだけのこと。

 共闘を期待していた六本腕の男子としては、計算違いもいいところかもしれないが——見たところ割り切っているようだ。先ほどの様子からしておかっぱ女子が逃げ出す可能性は頭になかったようだが、さほど気にしている風ではない。

 突然現れた怪しげというか、面妖な六本腕の自分を信用しないのも当然だと思ったのか。共闘するふりをしてからの逃走もこのバトルロイヤル形式の戦いでは一つの作戦、責めるほどのことでもないと考えたのか。

 そういう割り切りっぷりは、シドウは嫌いではない。

 六本腕の男子を騙すような真似をしたおかっぱ女子のことも嫌いではない。

 彼女にとっては思い人との合流が何よりも優先すべきだったということ。思い人に危害が及ぶ可能性を排除するために、一度はシドウと戦うことを選んだ点も評価している。

 まあ、それはそれ。今はおかっぱ女子のことを気にしても仕方がない。

 気にすべきなのは眼前の敵。

 気になるのはその六つある拳。


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