第14話 真剣
一松人形を想起させるおかっぱ頭の女子。抜き身の長大な刀を手にしている。
刀というよりは太刀か? 刀身が大きく反っている。
大太刀。
茶髪男子のロープ同様、能力で出したもの。それゆえ鞘が見当たらないのだろう。
問題は何の変哲も無い刀剣なのかどうかということ。
いや、あれが何の変哲も無いものであるわけがない。
刀剣は重いものだ。一般的な刀で一キロ以上はあるのだったか。
刃渡り一メートル近くありそうな大太刀となると2キロは軽く超えるだろうか?
なのに対峙するおかっぱ頭の女子は、人形のような無表情のまま正眼の構えで保持している。
彼女がその腕の細さに見合わぬ怪力の持ち主でない限り、順当に考えると見た目よりもはるかに軽いことになる。
見るからに切れ味鋭そうな大太刀を軽々と振り回されたら脅威だ。
脅威ではあるのだが、一方で心踊るものがある。
剣道の有段者である母に、竹刀で稽古をつけてもらったことがある。
しかし、真剣を相手に勝負したことはない。
文字通りの真剣勝負。
面白い。
自分が真剣相手にどこまで渡り合えるのか試せる機会など、生きている間に訪れるものではない。無論、死んでよかったなどというつもりは毛頭ないが。
構えを見るに只者ではない。
剣道、いや剣術をやっていたのではないか? それも腕に覚えがあると胸を張れるくらいの習熟度には達している。
本来、相当な力量差がなければ素手で真剣を持つ相手に勝てるものではない。
だが、自分も完全に素手というわけではない。足刀という能力がある。
空手と足刀の組み合わせで、どこまで大太刀と渡り合えるか。
やってやれないことはないはず。
「ここは引いてくれない?」
大太刀を構えたまま、おかっぱの女子が口を開いた。
「できれば、まだ戦いたくない」
無表情のまま、抑揚に乏しい喋り方でそう言った。
まだ?
このおかっぱ女子もポニーテール女子と似たような考えのもとに動いているのか? 生き返るものを選別するつもりか。
違うだろう。ポニーテール女子のようなことを考えても実行する者はそうはいない。
シドウのことを知っているのかは知らないが、単純に一対一での戦いを避けたいのか。
関西弁女子の顔が頭に浮かぶ。仲間だった者と逸れたか、 それとも皆失って新たな仲間を探そうとしているか。
仲間を求めているのなら、シドウに声をかけないのはおかしいか?
雰囲気でダメだと判断したのかもしれない。
その上での「できれば」か。
「俺には戦わない理由がない」
短くそう告げた。
シドウにしてみれば、1人でいる者を逃して他の誰かと合流させる機会を作るメリットなどないのだ。
ジリジリとにじりよる。
おかっぱ女子はジリジリと退がりつつ言った。
「人を探している」
言い方からすると、まだ見ぬ仲間を求めているわけではなく、特定の誰かを探しているようだ。
それも個人、1人のようなニュアンスを感じさせる。
他に仲間はいたがやられたか、最初から2人行動だったか。
「その人の無事を確認するまでは不要な戦いはしたくない」
やはり、探しているのは特定個人1人のようだ。
だからと言ってどうだというわけではない。
むざむざ行かせる理由がないことに変わらない、
そもそもの話——
「お前を見逃しても、お前の探し人に俺が先に出会ったら、倒してしまうかもしれないのだぞ」
シドウとしては、至極当たり前の可能性を口にしただけのつもりだった。
しかし、それまで無表情だったおかっぱ女子は、思いがけぬほど目を見開きハッとした表情を浮かべた。
いや、その可能性をこれっぽっちも考えていなかったのか?
元々頭が回る方ではないのか。それともこんな状況だから、冷静な判断力を失っているのか。探し人を見つけるのをとにかく第一に考えるあまり、視野狭窄に陥っていたのかもしれない。
「それはそう」
元の無表情に戻ったおかっぱ女子が言った。
「あなたは危険」
きっぱりと言った。
あたかも危険人物であるかのように言い切られる発言をしただろうか。
いや、自分の探し人を敗退に追いやりかねない相手を危険視するのは、それだけ相手の身を案じていることの表れなのだろう。シドウのことを知っているなら、実力の評価もあっての断定なのかもしれない。
おかっぱ女子の雰囲気が変わる。覚悟を持って戦いに臨む者が醸し出す雰囲気だ。
「愛のために、ここで消えて」
おかっぱ女子は言った。
少々面食らう発言ではあったが、動揺が顔に出るほどのことではなかった。
愛か。
ということは、探し人はおかっぱ女子の恋人?
まあ、中学三年生ともなれば、付き合っている者くらいいてもおかしくはない。この戦いに参加している者たちの中に、以前からの知り合い同士や恋人同士の者たちがいても。
む?
探しているのが仲間ではなくて恋人なら、最初に目覚めた地点が異なっていることもありうるのか。
もしそうだったならば、この女子はずっと1人で恋人を探し回っていたのかもしれない。
フットワークを軽くするため。
恋人と合流しやすくするため。
もし自分が5人組を作ってしまえば、恋人と再開した際、チームに恋人を率いれることができなくなる。チームを裏切って恋人を取る選択を迫られるかもしれない。
だから1人を選んだ。
まあ、そういう可能性が浮かびはしたものの実際はどうだかわらかないが。聞く気もない。
だが本当に恋人と合流しやすいようにと、危険を侵してでも再会まで単独行動でいることを選んだなら大したものだと思う。恋人への愛情は本物だ。
敬服する。
だからといって、容赦も手加減もする気はない。
シドウは間合いを詰めるため地を蹴った。




