第12話 対面
シドウは歩を進めながら、茶髪男子の火傷とアザについて考える。
あんなものは最初の場で顔を合わせた時にはなかった。
つまり何者かと交戦した際に負ったもの。
火傷は炎を出す能力の持ち主がいるということだとして。
アザはどのような攻撃で付けられたのだろうか。
どういう可能性があるか考えを巡らせているうちに、18から16に残り人数カウントが減っていた。
シドウが次に遭遇したのは、これまた見知った顔だった。見知った顔たちだった。
最初の場にいた2人。帽子を被った少女と金髪に染めた少年。
有言実行。出会ったからには容赦なく仕掛ける。
結果——逃げられた。
2人を完全に見失ったと判断した後、足を止めて何が起こったか振り返る。
帽子女子が手のひらから光る球をシドウに向けて発射。
よもや例の爆破能力か? と緊張し、光球を避けた後も爆発に備えてしまった。
しかし爆発は起きなかった。
シドウが光球に気を取られている隙に、金髪男子が帽子女子を抱きかかえて走り出した。
並大抵の逃げ足ではなかった。
あれは足の回転数が生み出す速さではない。跳ねるような動きで、一歩一歩の歩幅が尋常ではなく大きかった。
跳躍力が強化された結果、走力も引き上げられたのではないかと推測する。
ふと、もっと単純に走ることに特化した能力の持ち主が別にいるのではないかという考えが頭に浮かぶ。
いるとしたら——
などと考えていたら、答えの方からやってきた。
擬音で表せばダダダダという音が近づいてくる。
シドウは直ちに身構える。
地響きを思わせる音と共に駆けてきたのは、生前は車椅子に乗っていたポニーテールの女子であった。
「キミか」
臨戦態勢のシドウに、ポニーテール女子はそっけないとも取れる言い方をした。
現世では車椅子だったにも関わらず、この灰色の世界において彼女が二本の足で地面を踏みしめられていたのは能力の恩恵だったらしい。
歩けなかった少女に与えられたのは、猛スピードで走れる能力。
いや、単に速く走れるというものではなく、脚力を超人的なものへと増強する能力と捉えるべきか。
世界記録でさえ比較にならない、人間の限界をはるかに超えた足の速さだった。
あれだけの速度を出せる脚力で蹴りを放てば、シドウの蹴りをはるかに凌ぐ威力となる。
それこそ一撃必殺。シドウが【足刀】による頚部への一撃で成し得たことを、大雑把に頭部を狙うだけで可能とするとかもしれない。
格闘技未経験者だろう少女に、対戦者の頭部を狙って蹴りを放つ真似ができるかは疑問だが。
頭部でなくとも強烈な蹴りを喰らえば、大ダメージに変わりない。 まともに受ければ骨くらいへし折られる。
油断は一切できない。
だが相手は格闘に関してはズブの素人。動きを先読みすれば回避は可能なはず。
こちらから仕掛けるか?
それとも向こうが仕掛けてきてからのカウンターか?
先の先を取るか、後の先を取るか。
いや、シドウから間合いを詰めようとしても、あのスピードなら向こうは簡単に距離を取れる。
ここは待ちの構えか。
「待って欲しい。キミはやる気のようだが、ワタシは今はまだキミと戦う気はない」
ポニーテール女子はそう告げた。
「今は? いずれは戦うつもりならば、今戦えばいいだろう」
シドウは言った。
どういうつもりだろうか? 戦うならシドウが弱ったところをと考えているわけではないと思うが。
「俺は、誰とでも戦うつもりでいる」
そう言ったものの、多勢に無勢ならば無理に仕掛けるつもりもないが。相手が1人なら戦いを避ける理由はない。
とはいえ、相手は超人的な足を持っている。向こうに戦う気がなければ戦闘が成立しない。簡単に逃げられてしまう。
帽子女子のように遠距離攻撃ができたり、関西弁女子のように相手の動きを止められるならばともかく。シドウの【足刀】では、ポニーテール女子に逃げに回られたら打つ手がない。
向こうにやる気になってもらうしかない。
そのためにはどうすればいいか。
挑発か。相手を怒らせてやる気にさせる。
ダメだな。そういうのは得意ではない。
ならば——
「お前が今は戦う気がないと言うのなら仕方がない。なら、すぐさまこの場を立ちさればいいだろう」
いずれは戦う気があるなら、無理にここで戦おうとすることもないと判断した。
「お前が行かないならば、俺の方が行かせてもらう」
言ってすぐ背を向けようとした。
普通ならば自殺行為だろうが、シドウに隙ができたからと前言撤回して背後から急襲するような人間ではあるまい。
「待ってくれ。少しだけ話しをしてくれないか?」
「俺は話す気はない」
答えている時点で話しているも同じだが。
本来、シドウは誰とも正面切って会話する気はなかった。何も話さず、ただ戦う。誰とも組まずに1人で戦うと決めたのだから、他者と話すことなどないのだ。
実際はポニーテール女子だけではなく、関西弁女子に対しても口を開いてしまったが。
「走り回っているんだが、なかなか人に会わない」
シドウは完全に背を向け歩き出す。
ポニーテール女子は構わず話し続ける。
「一応、4人組に一度出会ったが」
4人組。興味がないではないが。
しかし、あのスピードで走り回って、1組とシドウ1人にしか出くわしていないのか。よほど勘が悪いのか。
「キミは誰かと会ったか? 誰かと戦ったのか? 誰か倒したのか?」
「1人」
シドウは振り向き言った。
「1人倒した。女子だった」
ポニーテール女子の顔がわずがに険しいものとなった。
女子を手にかけたと言えば、彼女の逆鱗に触れて戦闘する気になるかもしれないと思ったのだが。顔を険しくしたのは、ほんのわずかな間だけだった。
「キミが悪辣な真似をするようには思えない」
性別など関係ない戦いなのだから女子を攻撃したこと自体は仕方がないという風だ。
泣き叫ぶ相手を不必要にいたぶるような真似でもしたならば話は違うと暗に言っているようにも思える。実際、そういう考えなのだろう。
「他にも遭遇して戦闘になった者はいたが、逃げられてしまった」
別にそこまで言う必要もなかったかもしれないが話してしまった。
「そうか」
そう言って口を閉じたポニーテール女子は、少し考える様子を見せてからまた口を開いた。
「キミも聞いたろう、あの爆音。その能力の持ち主は、先に言った4人組が倒したそうだ」
自分の質問に答えてもらった返礼のつもりの情報提供だろう。
爆発能力の持ち主を倒した4人について詳しく話さないのはフェアじゃないと考えたからか。彼女は今のところ、シドウと4人組のどちらにも肩入れするつもりがないということ。
すでに脱落した人物についてなら話しても構わないと考えた。大爆発を引き起こす能力の持ち主がすでにいないというのは、それなりに有益な情報と判断して。
確かに、とてつもない爆破の脅威が去っていたというのは悪くない知らせではあるが。その情報の信憑性はどれほどか。
彼女が嘘をついているようには見えない。しかし爆発能力の持ち主を倒したという4人組の話の方が本当かどうか。
まあいい。
シドウはポニーテール女子に背を向けると、今度こそ振り返ることなく歩き出した。
ポニーテール女子がシドウとは反対方向に走り出す音が聞こえた。
音は遠ざかり、聞こえなくなった。




