第10話 減少
関西弁女子が光となって消え去るのを見届けて、シドウは残心を解いた。
現世ならば殺人でしかない行為の後だが、思いのほか落ち着いている。
覚悟を決めて挑んだこととはいえ、もっと動揺するかと思っていたが。動悸が早くなっているのも汗をかいているのも、走った後だからと言える範疇だ。
光と化しての人体消失が、非現実感を強めてくれたおかげというのもあるかもしれない。
とはいえ、首をはねた後の関西弁女子の顔。自分に何が起きているのか理解できない驚愕で見開いた目。
首を一息にはねたとはいえ、束の間であっても激痛は感じただろうか。
苦痛を味わった時間がなるべく短かったことを願う。
シドウは天を仰いだ。
そして、目を細めた。
21。
関西弁女子と遭遇する少し前に確認した時は24だった。
会話と言えるのかも怪しいやりとりをして、ダルマさんが転んだと鬼ごっこを組み合わせたような追走劇の果てに関西弁女子を敗退に追い込んだ。その間の数分で他に2人が敗退したのか。
もしかすれば自分が関西弁女子に遭遇する直前には、残り人数のカウントは減っていたのかもしれない。彼女はそれを確認しており、逸れた仲間たちの中から敗退者が出たと考えたのではないか。
シドウを勧誘したのは、チームのメンバー全員が無事であることを半ば諦めていたからか?
だとしたら、少々厳しいことを言ってしまったかもしれない。
いや、本当にチームから敗退者が出たかわからない以上、新たな仲間を求めるのは尚早というもの。
結局は彼女も自分の浅慮を自覚したようであったし、今更どうのこうの言わない。
覚悟を決めた彼女の逃走と言う名の闘争は誰に恥じるものでもなかった。
堂々たる逃げっぷりだった。
移動を開始してそう間を置かずに、残り人数が20になっていることに気づいた。
ごく短い間隔で4人もの脱落者が出た。
偶然か?
必然だとすれば、関西弁女子の仲間たち。彼女1人がチームから逸れたわけではなく、残りのメンバーたちも散り散りになってしまっていたのだとしたら? 彼女のように1人でいるところを敵対者に遭遇してしまったか。
それともチーム間の抗争の結果か。
あれこれ考えても憶測の域を出ない。
この戦いの場全体で何が起きているのかを、残り人数のカウントだけから推測しようとするのが土台無理な話だ。
自分の知らぬ場所で何が起きたかばかりを気にしていても仕方がない。
気にすべきはまず自分の周辺だ。
シドウは気を張り詰めながら、廃墟の街を進む。
爆音が聞こえた。前に聞いたのと同じものだろう。
空のカウントを確認する。
19。
一度目に爆音が聞こえた時とは違い、今度は犠牲者が出たということ。
爆発が起きたのとほとんど同じタイミングで、たまたま別の場所で誰かが倒れた可能性まで考える必要はあるまい。
残り時間のカウントも確認する。
前に爆音が聞こえた時は確か——あれから一時間と少しが経過している。
もしや、爆破の能力は一度使うと一時間は使えなくなるのではないか。
最初の攻撃から一時間経過して、また爆破能力を使えるようになったから、そのあと見つけた者に対して攻撃を仕掛けた。
関西弁女子の動きを止める能力が再使用できるようになるまでが秒単位であろうことからすると、流石に一時間は長すぎるかもしれない。
ならば十分単位?
想定される爆発の大きさからすると、三十分程度は再使用出来ない条件であっても不思議はない。厳しい使用制限もなく高威力で広範囲の爆発を起こせたら、いくらなんでもその力を与えられた者が有利すぎる。
ならば、今しばらくは爆発能力を使えない。
極めて高い攻撃能力を持つ者を倒す機会である。
いや、全ては想像だ。爆破能力が当分の間、使えないと考える根拠は乏しい。
次に遭遇するのが爆破能力の持ち主で、それをすぐさま使用してくる可能性があるのは念頭に置いて置かなければ。
しばらくして残り人数が18になった。
着実に人数が減っていっている。シドウが遭遇し戦ったのは未だ1人にも関わらず。
別にこの先、誰とも戦わないまま5人までに残ろうとも規定ではなんの問題もない。
だが、シドウは漁夫の利で勝ち残ることなど望んではいない。
ろくに戦わず、生き返りが決まってしまうのは納得できない。
動けぬほどの重傷を負ったならば、話は違ってくるが。
戦える体のうちは、戦う。格闘技者の誇りをかけて。
戦いたい。
シンプルにそう思ってもいた。
この異常な状況における異常な戦いに昂りを覚えていた。
超能力を持った相手との戦いなんて、現世ではありえない体験だ。
それぞれに異なる超能力を持った相手に、自分の鍛えた肉体と技そして足刀の組み合わせがどこまで通じるのか。試したい。確かめたい。
これではまるで戦闘狂だな、と理性では呆れないでもなかったが、本能は戦いを求めている。
未知の力を持つ者同士だからというのが、シドウを駆り立てるのではなかろう。
実戦において、自分の力と技がどこまで通じるのかを知りたいという気持ち。
実戦といっても、あまりにも特異な条件ではあるのだか。
互いに生き返るために、己の命を取り戻すために戦う。文字通りの生死をかけた真剣勝負の場であることが重要なのだろう。
とは言っても、もしこれが生前のことであったら。生き返りたければ戦えではなくて、死にたくなければ戦えというものであったら。シドウも乗らなかっただろうが
シドウは歩く。戦う相手を求めて。
人の動く気配を感じた。
右側、斜め上方向。そちらを向く。
何かがシドウに向かって飛んできた。




