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理解できない言動

 わたくしは朝から寮の入り口に立っています。

 登園の為に談笑しながら寮を出る令嬢方を横目に、ただひたすら立っておりました。

 始業時間に間に合うか微妙な時間になってようやく、平民が降りてきました。


「げっ。朝から最悪」

「これ、作りましたの。あなたでも理解できるはずです。大いに役に立ててくださいまし。そしてわたくしの汚名を少しでも晴らすことに尽力してくださいませ」


 わたくしは一週間かけて作りました資料を平民に渡し、早足で教室に向かいます。


 予鈴がなり終わるタイミングでどうにか教室に滑り込むことができました。あの平民のせいで恥ずかしい思いをしたではありませんの。

 その当の平民は欠伸をしながら背を丸ませ、まだ眠そうに瞼を下ろし、始業時間のベルがなってから席につきました。

 後ろの列であればベルが鳴る前に座れたといいますのに、本当になぜあなたは最前列に座っていらっしゃるの⁉︎


「はぁ…………」


 今日も散々でしたわ。居眠り、落書き、手遊び、窓ばかりをぼーっと見る。以前はどんな授業の受け方をしていたか存じ上げませんが、いくらなんでも酷すぎますわ! わたくしの身体であからさまに授業を聞かないなんて!

 見ているだけ、いえ、見ていなくても気配が腹立たしくてしかたがありませんわ! わたくしの姿を悪用し、何も言われない事を逆手にとってあんな恥知らずな態度。いくらわたくしに腹立たせているからってあんまりですわ! わたくしはこの身体に何一つ傷をつけていませんのに、あの平民はわたくしの身体を貶してばっか。


 この身体では、この身分では表立って注意する事もできないなんて。

 これ以上わたくしの名を地に落とさない為に早く元に戻る方法を見つけなくては。


「やあ」


 極めて落ち着いた声音。人を警戒させぬ笑顔を浮かべ、殿下は自分の存在をアピールするかのように、軽く手を上げながらわたくしに近づいてきます。


「今日、後ろの席から見ていたのだけれど。なんだか苛立っているように思えてしまって。マチさんは馴染もうとして人一倍努力しているのが見受けられる。マチさんは賢く強かに見えるが、やはり日々ストレスは溜まっていくでしょう」


 側から見ても、わたくしが平民に怒りを募らせている時、その感情が出てしまっているのですね。人前で私情を出すのは御法度と何度も言い聞かせられていましたのに。もっと気を引き締めないといけませんね。


「よければ僕とお茶でもしませんか? 美味しいスイーツ──甘味やお茶を取り揃えています。多少は気を和らげる事ができると思いますよ」


 殿下からのお誘いに加え、平民になってからは一度も口にできなかったスイーツ。これほどまでに魅力的なお誘いはありませんが、わたくしは平民です。たとえ殿下がよくとも、席を共にするなどそんな無礼な事はできません。

 それに、なぜわたくしを誘うのか理解ができないのです。以前のわたくしの時は一度もお茶などした事もありませんでした。ですのに、大して関わりのない平民になった途端、なぜ誘うのですか。


「大変嬉しいお誘いではありますが、申し訳ありません。予定がある為遠慮させていただきます」

「そうですか、それは残念です。では、またの機会に」

「代わりに婚約者の方と友好を深めると良いと思います」

「彼女とはいつでもできますので。では、失礼します」


 殿下はお辞儀をし、踵を返して去っていきました。


「お茶なんて一度もしてくれませんでしたのに」

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