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再会

 完治したお母様に編み物を教わっている時でした。わたくしの魔法を感知した国が、わたくしに入学の手紙を届けにきました。


「凄いなマーちゃん! 特待生での入学だって! マーちゃんは昔から天才だったものな!」

「お貴族様ばかりの場所で大丈夫かしら。マーちゃんは不安じゃない?」


 わたくしは手紙を封筒にしまい、二人に向き直ります。


「大丈夫ですよお母様。問題ありません。貴族の方々とも上手くやっていきます」


 これはまたとない、人生でたった一度の機会。わたくしが貴族に返り咲く機会です。

 国がこの手紙を渡した理由はわたくしの魔法でしょうけれど、こんな魔法に頼る日々なんて勘弁ですわ。わたくしはわたくしの実力で貴族の地位を取り戻してみせます!

 それがどんなに愚かな道であろうと、愚者の姿であろうと、必ず失ってしまった人生を取り戻してみせますわ!


◇◆◇◆◇


 そうして一年が過ぎ、わたくしはお父様とお母様に見送られながら学園へと出向きました。


「懐かしいですわね」


 前世の時と何一つ変わらない学園。心なしか顔触れも変わっていないように感じますわ。


 校門をくぐり、校舎を目指して歩いていますと、わたくしは思わず息を呑んでしまいました。

 まるで一級美術品かのような美しい造形。その真っ赤な瞳は全てを見通しているかのように知的で、その美しい金色の長髪はその容姿の風格を際立たせています。

 間違うはずありません。偶然なんてもっとありえません。あれは、前世のわたくし、スティア・フォールドの姿です!

 わたくしは柄にもなくその存在に向かって走り、腕を掴んで思わず口走りました。


「その姿! わたくしの、わたくしの存在を返してくださいまし!」


 そう言い切った後、わたくしは焦りました。

 何も事情を知らない方にいきなり返せなどと叫ぶおかしな人間に成り果ててしまったのですから。


「いえ、その、申し訳──」

「スティア……」


 顔を上げると、彼女の顔は段々と血の気が引いていってました。


「その、姿……それに、今の言葉……あなた、スティアなの……」

「ええ、今はこのような姿をしておりますが、わたくしは正真正銘、スティア・フォールドですわ」


 彼女はさらに気分の悪そうな表情をしました。わたくしはどんな表情をしていても美しいのですねと自覚させられるのと同時に、わたくしの姿でそのような表情を見せないでいただきたいという気持ちに挟まれます。


「そんな、嘘でしょ……。よりにもよって、最悪……。ただでさえこんな姿になってショックだったのに、どうしてあなたが私になっているの⁉︎」


 彼女のその言葉でわたくしも一気に気分が悪くなりました。

 彼女がわたくしを見て自分の姿であると主張するという事は、今わたくしの姿に入っているのは、わたくしの人生を壊した平民。

 この姿は愚かな平民にそっくりな容姿というわけではなく、愚かな平民そのもの。


 その事実を受け止めるには、わたくしには荷が重すぎました。体が、いえ、魂がこの身体に対して強く拒絶反応を示しています。


「返しなさい! 今すぐわたくしの容姿を、わたくしの人生を返してくださいまし!」

「そっちこそ、私を返して! どうして私がこんな目に!」

「それはこっちのセリフですわ! そもそもわたくしはともかくあなたがわたくしの姿を拒絶する意味が分かりませんわ!」


 彼女は悲壮な表情から一変して、怒りを滲ませた表情に変化しました。


「はぁ〜〜〜? こんな憎くて憎くて仕方ない女の姿になったあげく、碌でもない貴族生活強いられたんだよこっちは! そもそも、前世で私に何したか忘れたわけ⁉︎ 死んで記憶もパーになっちゃったの⁉︎」

「なんって事おっしゃいますの⁉︎ そもそもわたくしが親切心で教えてあげた事に反発した挙句、わたくしの人生を壊したのはあなたでしょう! 何被害者面しているんですの⁉︎」

「私何にも言ってないもん! 殿下にも他の人達にも何にも言ってないもん! 別の人が告げ口したか殿下達が見ていたんでしょう⁉︎」

「元はと言えば、あなたがそうですか。と立場を考えて交流を控えていればよろしかった事でしょう⁉︎」

「そんな事知らないもん! 私平民なんだよ! 勝手なんか分からないよ! だったらあなたが色々と教えてくれれば良かったじゃん! そうもしないでぐちぐち文句だけ言って、嫌がらせもして、そんなんだったら相手してくれる殿下達に頼っちゃうでしょう!」

「立場を弁えなさいと申していますのに、わたくしがあなたの相手をしては本末転倒じゃない!」


 お互い段々と声が大きくなっていったせいか、いつの間にか注目の的になっていました。


 わたくし達の争いを鎮める為、朗らかな笑みを浮かべられた黒髪に紫色の目を持つ長身の男性が間に入られました。


「元気なことは良いことです。珍しいですね、スティア。あなたが声を荒げるなんて。日頃静かなあなたからは想像し難い。あなたは特待生の方ですね。たしか、名はマチとおっしゃいましたかね。お会いできて光栄です」

「私は最悪です。こんな人に会うなんて」


 小さく吐き捨てるように仰る彼女に対して、思わず握る拳に力が入りました。あなたがわたくしの姿でなければ、柄にもなくこの拳を飛ばしていたでしょう。


「まずは校舎に向かいましょう。よろしければ案内いたしますよ」


 殿下の厚意を断るのは大変失礼な事と承知しておりますが、この女から一分でも一秒でも離れたい気持ちを無碍にする事はできませんでした。


「ご厚意は大変嬉しいのですが、遠慮させていただきます。失礼致します」


 わたくしは早足でその場を去っていきます。

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