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完璧である為に

 常に完璧であろうと努力してきました。完璧でなければ誰にも認められないので。

 当然です。公爵家の令嬢、王子の婚約者。次期王妃となり、国を支える立場の人間になるのですから。完璧となる環境は整えらているのですから、あとは自分の力でわたくしは人として完璧な貴族にならなければなりません。


 物心がつく前から、何かと失敗すると教育係から強い叱責が飛んできました。涙を流せば感情を見せるなと強く言われます。弱音を吐きますと私情を挟むなと。

 子どもであろうと容赦はありませんし、偶に見る両親に至っては完全に放任で見向きもされませんでした。おそらくわたくしが赤子の頃も心配どころか笑みをかけた事もないのでしょう。それほどまでに、貴族として完璧でない人間には興味がないのでしょう。

 そんな事を愚痴る相手などいません。愚痴った瞬間、わたくしは完璧から遠ざかるのですから。できることが増えても認められるどころか褒められることなんてありません。できて当然のことですから。

 そんな日々がどうしようもなく苦しかったです。


 そんな時殿下と初めて顔を合わせました。人に緊張感を与えぬ穏やかな笑顔を浮かべ、かける言葉は自然と警戒心を解かせ、疑いようのない無害な人間を演じている完璧な貴族。

 殿下はただ慈悲に富んだ人ではなく、決してわたくしの隣には立たずに一歩前に進む事で、自身の立場をさりげなく誇示する姿勢も忘れていませんでした。

 わたくしがなるべき貴族の姿が明らかになったことで、挫けそうな心が修復された気持ちになりました。


 リコに可愛げがないと罵られようと、わたくしは殿下を見習い、常に笑みを絶やさないようにいたしました。

 学園では友人と呼ぶ存在もできました。実態といたしましては、わたくしの身分を見て媚びてきた存在でしたが、人望がないというのも貴族としては致命的ですので、偽りであってもわたくしは友人の存在を受け入れました。


 完璧を保つ日々を送っていましたが、わたくしは彼女の存在を見てしまったのです。

 行儀のなっていないその姿は学園では特段異質に映りました。

 特にその頃は何も思いませんでした。ただ、だらしのない姿である以上周囲から悪く言われるでしょうし、ここでは少々生きづらいでしょうと感じたくらいでした。


 そんな彼女が殿下やリコ、他の男性方と親しくしているのが目に入りました。

 いえ、親しくしている分には問題はありません。ただ、彼女は対等な存在として接されていました。殿下方は貴族で、彼女は平民。決して対等であってはいけない存在がです。殿下もその事は理解されているはずです。それなのに、殿下は彼女が横に並ぶ事を許しているのです。

 公爵令嬢であるわたくしですら横に並べず、常に後ろにいるのですから、彼女もそうするべきです。わたくしは正しさのもと、彼女の誤りを正そうと提言いたしました。


「マチさんとおっしゃいましたね。わたくし、公爵家令嬢のスティア・フォールドと申します。初対面で申し訳ないのですが、殿下方との距離感を少し考えていただけますか? 殿下とあなたでは身分が離れすぎています。平民のあなたは知らないかもしれませんが、身分の高い殿下を立てるべく、あなたは一歩引いて歩く事が貴族社会では常識となっています。学園にいる以上はあなたにも合わせていただきたいのです」

「え、でも、学園では身分は関係ないって……」

「建前というものです。生徒の緊張感を少しでも和らげる為のものです。それに、教師が教師として動きやすい為でもあります。身分では教師が生徒より低い立場であっても、学園では生徒と教師では教師が上になります。教鞭を取る際、身分が上の者に教える立場になることに抵抗感をなくす為の配慮です。全て真に受けない事です。貴族というのはそういうものです」

「でも私、何も知らなくて」

「それはあなた自身で学んでください。学園はそのような場です。では、わたくしはこれで失礼します」


 そう忠告しましたのに、彼女の行動が変わる事はありませんでした。ですから何度も注意いたしました。思えば、わたくしの物言いは徐々にキツくなっていたような気がします。

 なぜわたくししか注意しないのか、殿下方は許しているのか。正しいはずのわたくしがまるで悪者になっているかのようで焦ってしまったのでしょう。そして、わたくしは最終的に彼女への態度を咎められ、婚約破棄されてしまいました。人生をかけて完璧な貴族になりましたのに、殿下が選んだのは完璧から程遠い、魔法が特別なだけの平民でした。

 それがどうにも許せませんでした。わたくしの人生全てを否定されたかのようで。それと、もしかしたらわたくしは彼女を少々羨ましく思ったのかもしれません。できなくても守ってくれる存在がいる事に。わたくしは完璧であっても、守ってくれる存在はわたくし自身だけでしたから。


 結局、平民さえ現れなければわたくし正しいままでしたし、完璧な貴族でありましたし、死ぬこともありませんでした。

 わたくしの人生、過去も未来も壊した平民をわたくしは一生許す事はないでしょう。

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