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転落人生

 憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い。

 あの女のせいで、あの平民さえいなければ、わたくしはこんなところで死ぬはずなんてなかったのに…………⁉︎


◇◆◇◆◇


 わたくしは才色兼備の令嬢として育てられた。周囲の手本となるような所作、どこに出しても恥ずかしくない公爵令嬢という身分と美しく輝く金髪とルビーのような貴賓さを持つ真っ赤な瞳の完璧な容姿。何より、次期国王の婚約者という将来までも約束された完璧な存在。それがわたくし、スティア・フォールド──でしたのに。

 わたくしの全てはたった一人の下品で愚かな平民の手によって壊されてしまった。


 その平民の名はマチ。家名すらない、本来であれば関わることなど一生ない、取るに足らない存在でしたのに、聖女の祈りという、どんな怪我も病も治せ、さらには豊かな自然をもたらす特別な魔法を使える事により、特待生として学園に入学された。


 最初こそ平民故に学もマナーも身についておらず、哀れに思えた存在でしたのに、殿下を筆頭に上級貴族の方々は特異な彼女に構うようになっていきました。

 それがどうにも納得いきませんでしたの。学園では身分の差を気にせず交流するという表向きの理由はありましても、貴族社会のルールを優先し、そう易々と殿下方に交流を図ることは暗黙の了解でなさらなかったのに、何も知らない平民の彼女が抜け駆けのようにそのルールを破っているのが許せませんでした。


 なのでわたくし、彼女に提言いたしましたの。平民の分際で殿下方に近づかないようにと。

 公爵令嬢であるわたくしですら躊躇しているのですから、平民も立場を弁えるのがマナーというもの。

 ですが彼女は聞き入れませんでした。弱々しい表情を浮かべながらも、その言葉は反抗心を隠しきれていません。

 ですからわたくしは、何度も何度も平民に身の程を分らせようとしてきました。


 そして学園卒業と共に行われるパーティー。思えば、わたくしの人生が終わったのはあの日でした。

 殿下は平民を守るように肩に手を添え、わたくしを睨み、指を真っ直ぐ指し、怒気を含ませた声で会場中に響き渡る声で告げられました。


「スティア・フォールド! 君はこの長い学園生活で、右も左も分からぬマチに対し、悪逆非道な行為を繰り返してきた! 人を思いやれぬ人間に、民を思いやれるとは思えない! 君は次期王妃に相応しくない! よって、今ここに、婚約破棄することを宣言する!」


 その時見た平民の忌々しい表情。喜びも怒りもない、ただただ無に徹したその表情にわたくしは怒りを抱いた。抱くだけで、何もできませんでした。

 わたくしが何をしようと、何を言おうとこの場では悪者になってしまう。何より、私情を表に出すことは貴族としてあるまじき行為。これ以上道化になってはいけないと必死で気持ちを抑え、務めて冷静に会場を後にしました。


 それからしばらくして、わたくしは国を出ていくことになりました。家名を穢した。これ以上穢さない為にもわたくしは家を、国を離れなければならなければならなくなった。

 立場は弱くなるものの、隣国の知り合いの家でまた一からやり直そうとした矢先、馬車が崖から転落し、馬車と岩に押しつぶされたわたくしは、しばしの後意識が途絶え、死んだしまった。


◇◆◇◆◇


 ──あれ、わたくし、死んだはずでは?


 ゆっくりと目を開くと、見知らぬ巨人の男女が私を見下ろしていた。

 二人はわたくしを見て笑顔を浮かべ、まるで赤子をあやすように振る舞っている。なんとも無礼で失礼な方々。


 近づいてくる顔を押しのけようと手を突き出して、わたくしは思わず静止してしまった。


 ──わたくしの手じゃない⁉︎


 厳密には、とても齢十六の少女の手とは思えない、小さくて丸い手をしていた。

 上手く出せない声、自由の効かない体。

 こんなこと、あるはずない。死んだはずなのに、赤ん坊になっているなんて……⁉︎

設定、展開、畳み方全て決まっております為、その点はご安心してお読みいただけると思います。

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