43.妙案
若干の時間をかけて、今度こそ僕の身に起きたことを話した。
ゴールデンウィーク初日、起きたらガチャがあったこと。
最初手に入れた能力で自分のステータスが可視化できるから、自分磨きの一環で運動を始める気になったこと。
【念動力】を手に入れて、訓練している時に阿武堂さんと出会ったこと。阿武堂さんはそれを見て魔王として覚醒したのかと思ったとのこと。
あの時傅いていたのが少し疑問だったけど、未だ見つかっていない転生したはずの魔王は、ルシファーと呼ばれるいわば魔王の中の頂点的存在だけらしい。勇者の子で魔王の頂点であれば、従わなければ殺されるとまで思ったようだ。
どんだけ傍若無人な魔王だったんだ。というか、僕じゃないならまだ見つかってないそいつは野放しってことになるけど大丈夫か?
また、【虚偽感知】で嘘がわかることも、【悪魔召喚】で雪音たちが元々居た世界とこちらをつなげられることも話した。まだ使っていないけど、【全知天啓】を持っていることも。
僕の手に入れた能力のことも、赤誠の中での現時点の立ち位置、できることすべて話した。
羽生さんの能力は、思ったほど全知ではないらしい。知ろうとしたことを知れるというのは、無条件になんでも知識が入ってくるんじゃなくて、調べたいものの答えを正確に知ることができるというだけだという。
なので、「雪音の兄が今何をしているのか」や、「雪音の兄は能力を持っているか」ということを知りたいときに知ることはできるが、常にストーキングしているわけではない。
その一環で、僕に覚醒異能力があること、僕が敵対組織に入ったことはわかったが、この世界にパイモンさんがやって来るとは思ってもいないので、パイモンさんが別次元に来たことには気づけなかった。また、目の前に来た時「僕が魔王と契約している」ということはわかっても、同格である他の魔王の能力を知ることができない以上、誰と契約しているかもわからなかったそうだ。
羽生さんの持つこの能力に1日1回の回数制限をつけたのが、僕の【全知天啓】という認識で合っているのかな?知りたいことがあれば羽生さんに聞けばいいということになりそうなので、若干【全知天啓】の価値が下がったような気もする。
「兄上、ちょっと濃すぎるのだ。今日び速攻でエタって更新止まるライトノベルでもそんな風呂敷の広げ方はしないのだ」
「いやいや、実体験だから。エタってなに?」
僕も常々思っていることをズバッと切り捨てる雪音。もはや何を言っているかわからなくなっている。
最初は非日常に心躍りそうだったけど、慣れる前に次から次へと非日常が舞い込んでしまい、もう僕にもどんなテンションでいればいいのかがわからないのだ。叫んだらいいのか?叫んでいいですか?アアアー!
どうでもいいけど最近のポ○モン、タイプが多すぎて覚えられない。
「パイモンと契約して得た精神力が【念動力】に作用して、こんなことになっているのね」
「うーん……兄上、一旦それは安易に解放しないようにしておいてほしいのだ」
「大丈夫、さすがにそれが危ないってことはわかっているから」
羽生さんは、爆発を抑え込んだ球体をじっと眺めながら呟いた。
言われなくてもこんなところで解放してたまるか。
部屋が吹き飛んでみんな死んでしまうかもしれないだろ。流石に【念動力】でみんなを守るけどさ。
「危ないなんて次元の話じゃないのだけれど……どれだけ被害を低く見積もっても、私の計算上この県はまるごと焦土と化すわよ」
「兄上、絶対に解放しちゃだめなのだ」
「わかってるって。でも結局寝たまま維持はできないだろうし、解放しないとなんだよね……やっぱりパイモンさんを呼ぼうかな」
県がまるごと焦土になるって何?アルミパイプ圧縮しただけでそんなことになるの?
僕が想定していたよりもはるかに大きい被害予想に、思わずパイモンさんを頼りそうになる。というか、現時点で頼れるのが【悪魔召喚】しかないのだ。
寝ながらでも【念動力】を維持できる自信はまだない。
「え、お兄さん。パイモンってこっちから呼べるんですか?」
「え?呼べると思うけど……呼ぶ?」
僕の呟きに、阿武堂さんが驚いたような顔で見てきた。
【悪魔召喚】でパイモンさんを指定できそうなことは感覚的に理解できている。呼ばれる側にも都合があるだろうから、素直に出てくるとは限らないけど。というか、パイモンさんって智天使の魔王なんだよな?
悪魔じゃないのに【悪魔召喚】で召喚できるのか。ちょっと面白いな。
そういえば【悪魔召喚】について、力の源泉が異世界であることを仄めかしていたような。やっぱり、あのガチャで手に入る能力は魔王の持つ能力が手に入るのだろうか?【全知天啓】も羽生さんの持つ能力に似ているし。
だとすれば、羽生さんが僕の能力について知ることができないのも、同じ魔王級の能力だからということで多少は納得がいく。どこから調達しているのかという疑問は出てくるけども。
「んー……仲良かったですし、会いたいですけど……ねぇ」
「ぬぅ、言いたいことはわかるぞ、アムドゥスキアスよ」
「ボクも同じ気持ち」
「まぁ、私たちはね、そうよね」
「……?」
どうにも要領を得ない。4人は何かしらの共通認識を持っているみたいだが、僕にはわからなかった。
「あの、お兄さん。多分、パイモンは私たちを転生した元魔王として認識できるとは思うんです」
「うん」
「なんですけど……多分、異世界に連れて帰ろうとする気がするんですよね」
ああ、まぁ確かに。転生した盟友を探しているって言ってたし、そうかもしれない。
雪音が連れていかれると、僕はこっちの世界で一人ぼっちになるのだ。それが雪音の幸せなら止めることはできないが……僕はさみしい。
「いや、それはないよ」
「え?グリモワール、どういう意味ですか?」
随分と静かになってしまったアレさんが急に喋ったかと思えば、阿武堂さんの言うことをピシャリと否定した。
阿武堂さんの当然の疑問に、アレさんは続けて答える。
「4人とも、ヨルが急にいなくなった理由を考えたかな?」
「「「「……あ」」」」
みんなはすぐ気付いたようだが、何の話なのだろうか。
僕の記憶では急にいなくなった訳ではないので意識していなかったが、父さんは元々近くにいたのかな。いや、多分話の流れ的にそうなんだと思う。
「少年はピンと来ていないようだね。ワタシの見立てでは、パイモンが今存在している『底の世界』は、遠からず滅ぶ」
「どういうことですか?」
「ヨルはね、取る手段は倫理的に壊れているんだけど、家族に対する愛情は人一倍あるんだ。そんな彼が、大切な息子が魔王にかどわかされて契約させられていると考えたら何をするかな」
父さんは、愛した人を人質にとられたから人類を滅ぼした。今の状況も、見方によってはパイモンさんに僕が人質に取られたと言えるかもしれない。僕がそう思っていなくても、もっと平和的に解決できると思っていても、父さんが同じことを考えるとは限らない。
容易に現実を改変するような能力を持っているのだ。僕とパイモンさんが契約したことだって、当然のように気付いているのだろう。そしてそれに気付いた父さんが取りそうな行動……。
「魔王の殲滅……ですか?」
「そう。『底の世界』に存在する魔王と、その配下……まぁ魔物やら悪魔やら天使やらいろいろいるけど、多分まるごと滅ぼすだろうね。今は『底の世界』で魔王を倒す準備をしているみたいだけど、既に現地の魔王にその姿を補足されているようだ」
「父さんは、異世界にも自由に行けるんですね」
「現実改変の能力を使えば、いつでもほしい能力を手に入れられる。君が想像できるようなことは何でもできると思った方がいいよ」
今の父さんの動向を正確に把握しているアレさんに疑問を持ちかけたが、羽生さんの言葉を思い出してあまり深く考えないことにした。
しかし、父さんの能力が本当に全能なら、どうして僕の現実を改変してから異世界に行ったのだろう。パイモンさんとの契約をなかったことにすることも、僕の能力を消して日常に戻すことも、この世界にいながら魔王を滅ぼすのも全て容易にできるはずだ。
きっと、何か条件があるはず。それを知ったところでどうにかなる話でもないけど。
「まぁ、そういうわけだから、友達想いのパイモンが『底の世界』に君たちを連れ戻すことはないさ」
「うーん、それならいっそさっさと殲滅してもらった方がありがたいかもしれないですね」
「え?」
ショッキングなことを言い出す阿武堂さんに、思わず聞き返してしまった。
「『底の世界』で『勇者』に殺された魔王って、グリモワールの力によってこの世界に転生しているんです。だから、いっそあっちで全滅してくれたら、この世界で全員一緒に暮らせるかもなって」
「ワタシはおすすめしないけどね」
「え?どうしてですか?」
そういえば、確かに異世界の元魔王達ってこっちに転生してるもんな。むしろ、殺戮は救済……?しかし、転生するのは魔王だけなのだから、配下たちはただ殺されるだけということになる。それは少しかわいそうだ……。
「まず第一に、君たちがこの世界に転生してきた時よりも、敵対組織である赤誠の規模が大きくなっている。下手をすれば、転生した直後の赤ん坊の時に魔王の魂が宿っていることがバレて殺される可能性があるんだ。この世界に転生した状態の不完全な魔王の魂を宿した肉体が殺されたら、魔王としての自我は完全に消滅する。それは避けたい」
「あ……」
「次に、守るべき数が多くなりすぎる。現時点でも相当な数元魔王がいるのに、単純に2倍近くなったらワタシも困る。情報が流れないようにするにも限度があるし、全員が自衛できるほど能力が残っている確証も持てない」
「……」
デメリットを述べるアレさんに、阿武堂さんは沈黙する。
別次元で出現する魔物の位置を正確に補足できるのだ。魔王の魂が赤ん坊に宿るのを察知できてもおかしくはない。リスキルされたら流石にどうしようもないという訳だ。
普通なら倫理的に考えて、魔王を宿しているからって赤子を殺すわけがないと思うが、政府と繋がっている裏組織なら何をするかわからない。
「それに、転生した魔王を探すのは本当に、本当に大変で……ワタシにできるのは魂をこの世界の輪廻に乗せるだけだから、どこに行ったのかわからないんだ……」
「いっそお兄さんの能力使って、向こうから全員そのまま連れてくるとか」
「……!バエル」
ティナの結構な暴論を聞いたアレさんは、ハッとした顔をする。
流石に魔王をそのまま全員連れてきたら、赤誠が黙ってないと思うんだけど。殲滅しに行ってるであろう父さんもどうするの?『底の世界』で起こるはずだった戦いがこの世界で起こるだけじゃない?
そんな僕の考えも知らずに、アレさんはどこかで聞いたことがあるフレーズを口走ったのだった。
「それは”アリ”だ」
ねぇよ。




