42.深まる謎
「みんな、知っていていつも通り接してくれていたの?」
「はい。だってお兄さん、雪音ちゃんを悲しませたくないですよね。だから、私たちのことを知ったとしても急に襲い掛かってくるわけがないって信じてました」
「そりゃあ……まぁ、そうだね」
「兄上……」
彼女らにとって、僕が敵対組織に入っていることはそこまで重要ではないらしい。
阿武堂さんには見透かされているらしい。そりゃあ昨日入ったばかりの組織のために、妹とその友達を手にかけるほど愛国心豊かじゃない。バレたら裏切り者として赤誠の社長とやらに処理されてしまうとしても、そう簡単に見切りをつけられるものではないのだ。
そもそも、僕自身が現状を上手に把握できていないのだ。僕の本当の敵は一体誰なんだ?
「なので、今日はそれ以上に重要なことを話したかったんです。本当は、雪音ちゃんの様子を見に来たらいつも通りに過ごそうと思っていたんですけど……」
「そうはいかない理由ができてしまったのよね」
「あ、そうなのだ。兄上、パイモンの奴と契約をしたのはわかったのだが、魔法じゃないとすれば朝のはなんだったのだ?」
「朝の?ああ、破壊の力がどうとか」
そうだった。最初帰ってきた時に、雪音とアレさんは僕が魔法を使ったものだと思って血相を変えていたはず。
そもそも血相を変える理由や、契約をしている方が覚醒より厄介だという話がなぜなのかも聞いていない。雪音たちの過去の話しかまだ聞いておらず、現状を聞けていないのだ。
「そうなのだ。一瞬ではあったが、あれは確かにこの家を、下手すれば町を吹き飛ばしかねない破壊の力だったのだ」
「そこまでかはわからないけど……多分これかな」
僕はズボンのポケットからビー玉サイズの球体を取り出す。シャワーをしてから制服は洗っているので、今の服装は当然私服である。
朝アルミパイプを圧縮した結果の産物で、【念動力】を用いたバリアで爆風を封じたものだ。確かに内側から感じる熱は凄まじいものだと思うけど、そんな国を滅ぼすようなものか?
「ふむ……これはなんなのだ?」
「ビー玉……にしてはガラスっぽくないですね。真っ黒ですし」
「ボクにはなんの変哲もないただの玉にしか見えない」
「羽生さんならわかるんじゃないかな?」
みんなが僕の周りに集まって、球体をしげしげと観察する。
正直雪音が感じた破壊の力というのが熱エネルギー的な何かなら、現在持っているこれからも破壊の力を感じてもおかしくはないのだが、【念動力】によるバリアはそういったのも封じ込めるのかな?
僕もこれに関しては爆発を抑えているだけで、そもそも何故爆発が起きているのかわからない。なんなの?これ。教えて羽生先生。
「……わからないわ」
おい、なんでもわかるんじゃないのか羽生先生。がっかりだよ羽生先生。他人のプライバシー守らないくせに。
契約相手もわかってなかったし。
「む?ブネでもわからぬということは……?どういうことなのだ?」
「いえ、確かにこれは、ベリアルの言う通り破壊の力を秘めているわ。でも、魔法でもなんでもないのよ」
「ブネ、どういうことですか?ちゃんと説明してください」
阿武堂さんの羽生さんに対する当たり方がちょっとだけキツい気がする。
「この球体の内部では、非常に大規模な爆発が起きているの。……極めて高密度に圧縮されたアルミニウムの原子が完全にイオン化して、超高温プラズマを発生させているのかしら。極めて高温……言葉で表すのもおかしなくらいの超高熱によって、高エネルギーガンマ線、光核反応も出ている?現代の化学兵器では……いや、そもそもニュートリノ放射が……」
「ま、ま、待つのだ。何を言っておるのか何もわからないのだ」
がっかりなんて言ってごめんなさい羽生先生。
でも僕も何言っているかわからないのでもっとわかりやすく教えてください。この球体の中でなにが起きているんですか。
「……まぁ、凄く簡単に言うと、この球体の中にすごく小さい太陽が入っているみたいなものね」
「うーむ?まぁよくわからぬが、どうやってその小さい太陽とやらを閉じ込めておるのだ?」
「それがわからないの。そもそも、引き起こされている爆発が物体の圧縮と言うプロセスを踏んでいることしかわからなくて、どうやって圧縮したのか、どうやって封じ込めているのかが一切わからない。ねぇ、あなたは何をしたの?」
ああ、そういうことか。
羽生さんは、アルミパイプの圧縮によってなぜ爆発が起きるのか、そのメカニズムがわかる。
だけど、それが【念動力】を使って行われていることを知ることができないのか。
他人の能力について知ることはできないのかな?
「実はこれ、僕が能力を使って偶然できた産物なんだよね。アルミパイプの処分に困ったから、ぎゅーって能力を使って圧縮したらこうなってさ、それで……」
「ちょ、ちょっと待って頂戴!」
説明をしようとした矢先、羽生さんに言葉を遮られる。なんだよ。
「あなたの能力って……時間停止だけじゃないのかしら?」
「む?兄上、パイモンと契約してそんな能力を手に入れたのか?」
「いや、ベリアル。違うのよ。時間停止は私が把握できている能力だから、この世界が源泉の異能力ってやつね」
「私の能力では、目の前の人が魔王と契約していること自体はわかっても、誰と契約したのか、それでどんな能力を手に入れたのかはわからない。同格の魔王のことはわからないの。だけど、パイモンの能力は神聖系だったじゃない?」
「あー、そうか、あやつ智天使の魔王か……って、待つのだ。兄上、自力で異能力を手に入れた上、更にパイモンとも契約したのか?」
まぁ、びっくりするよね。僕が一番最近の出来事にびっくりしているよ。色々起きすぎだってね。
「うん。時間を止められる異能力を手に入れたから組織に所属したんだ。そのあとに、契約って流れだね」
「あー。そこが繋がるわけなのだな。どんな人生なのだ……と、話の腰を折ってすまぬのだ。続けよ」
「ええ。そんなパイモンと契約して手に入れた能力で、これほどの圧縮はかけられるはずがない。でも、魔法で引き起こされた現象ではない。どいうことかわかるかしら?」
「だからそれがわからんって話をしていたのだ」
「今まで話聞いてました?」
「わからない。グリモワールのこと貶してたけどブネも大概話が下手くそ」
「そ、そこまで言わなくてもいいじゃない」
仲間内で羽生さんって割といじられキャラなのかな?
なんとなく、羽生さんの話が見えてきた。つまるところ、羽生さんが僕の能力の中で知っているのは覚醒異能力の【明滅する時の王】だけ。口ぶりからして、この世界が源泉の能力であれば何であっても知ることができるみたいだ。
同格である魔王のパイモンさんと契約することで手に入れた契約技能と、ガチャで手に入れた特殊技能や常時発動能力は知ることができないらしい。
ということは、あのガチャはこの世界由来ではないということになるのか?パイモンさんとも違う、また別の魔王が用意したとか……。
「ベリアルのお兄さんは、覚醒していないから元魔王ではない。パイモンと契約しているけどその能力でも実現できない。時を止める異能力でもない。お兄さん、一体何をしたの?」
羽生さんは、自分で話を遮っておきながら話を急かしてきた。
今まで他の魔王のこと以外で知ることができなかったことはないのだろう。その顔からは、真剣さよりも若干の恐怖心が感じられた。
「わかった。じゃあ、それを伝えるために今度は最近僕の身に起こった話からしていこうと思う」
話すことで、僕の肩の荷が少しでも下りるだろうか。
僕は雪音たちに、このゴールデンウィーク中に起こっていることを話し始めた。




