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4.ガチャガチャ

「これはやっぱり幻覚じゃないんだよな……」


 

 ガチャガチャの機械をペタペタと触り、幻覚ではないことを確かめる。

 昨日一日過ごしてみて、ガチャガチャのせいでおかしくなるどころか、むしろ今までよりも充実した一日を過ごせたような気がする。

 故に僕は、このガチャガチャに対してネガティブな感情を捨てた。きっと、これは回せば僕の心の持ちようを変えてくれるものなのだ。


 相変わらず一回500円は高い。もし今後もこのガチャガチャが毎日回せるようなら、貯めていたお年玉が無くなる前にアルバイトでも探さなければ。

 財布の中から500円玉を取り出して入れる。このガチャガチャ、硬貨を入れる穴が一つしかないので、多分500円玉専用なのだろう。

 財布の中から500円玉が消えてしまったので、調達しなければ。


 ハンドルを捻り、赤いカプセルを取り出す。瞬きをするまでもなく忽然と姿を消すガチャガチャの機械だったが、今日は身構えていたので驚かない。

 不思議ではあるけど、別にもう驚くことはないだろう。急に爆発とかしたら話は別だけど。

 昨日と同じようにカプセルを開けて、中の紙を取り出す。今日のはこう書かれていた。



 ――――――

 【念動力:レベル1】

 あなた次第で、あなたは怠惰な人間にも悪人にも英雄にもなれるだろう。

 手を触れずに念じるだけであらゆるものを動かすことができる。

 動かすことができる物体の大きさに制限はない。

 動かすことができる物体の数に制限はない。

 限界出力は筋力×精神×能力レベル[g]で算出される。

 熟達すればレベルが上昇する。

 ――――――



「……は?」



 またも紙とカプセルは消失する。が、僕が今驚いたのは、紙に書かれていた内容だ。

 え、何?異能バトルでも始まるんです?というツッコミが頭の中でリフレインするくらい、非現実的な能力。さすがにこれは嘘だろう……という気持ちと、昨日引いたものは少なくとも僕には見えたという点があり、信じたい気持ちで揺れている。

 が、すぐに僕は信じることとなる。



 

 持っていた財布を、念じるだけで浮かすことができたのだ。



 

 エセ超能力者の手品なんて目じゃない、本物の超能力。冷や汗が垂れる。口の中が乾く。だが、そんなことも気にならないくらい僕は高揚していた。

 本物の超能力者。非現実の予感。僕は、何かとんでもないことに巻き込まれていくのでは?

 厨二病の時期はとっくに過ぎていたと思ったが、まさか本物の能力者になれるとは……。


 

 雪音あたりが知ったらめちゃくちゃ羨ましがりそうだな、なんて思ったけど、ふと思いとどまる。

 

 これ、超能力持っているのが周りにバレたら面倒では?


 世の中には、宝くじに当たると親戚が増えるという言葉がある。

 それと同じように、もし超能力を持っていることが広まれば、羨ましがる人、便利に扱おうとする人が沸いてくるだろうし、下手すれば攫って使い方を教えろだなんていう犯罪に巻き込まれる可能性がある。


 熟達して使いこなしていれば攫われるなんてことは避けられるかもしれないが、僕の家族が襲われる可能性だってある。

 それに、念動力がなくても日常生活は送れる。そう考えると、急に冷静になってきた。



「……はぁ、まぁ、練習して悪いことはないか」



 【自己分析】の時みたいに、すぐに使い方はわかった。だけど、自由自在に無意識レベルで使うにはかなり慣れが必要だと思うので、他人に見つからないように練習しよう。


 そうだ、今日のステータスをメモしておこう。


 ――――――

 姫宮 夜嗣

 15歳

 状態:正常

 筋力:36

 反応:65

 瞬発:51

 精神:61

 魅力:50

 特殊技能:

   【自己分析】▽

   【念動力:レベル1】▽

 ――――――


 昨日のステータスのメモと見比べると、筋力と瞬発と精神が1ずつ伸びている。

 昨日は【自己分析】の下にそのまま説明文が書いてあったが、【念動力:レベル1】が追加されたことにより小さくなっているようだ。

 逆三角の部分に意識を向けると、説明文がきちんと出てきたので、なんの能力なのかわからなくなるような心配はしなくてもよさそうだ。


 【念動力:レベル1】の説明文通りなら、今の僕は36×61×1で、えーっと……大体2.2kgくらいまで念じるだけで動かせることになるのか。絶妙に便利な重量だな。


 このまま念動力を検証したい欲もあるけど、今日は垢抜けのために色々買いに行ったり、500円玉を調達したりする予定だ。もし時間が余ったら、人のこなさそうな場所で実験してみよう。






 



「兄上よ、見るが良い、この我の姿を」


「おおー、さすがだ。なぜか似合ってる」


「ワハハ!そうであろうそうであろう!」



 試着室の中で腰に手を当て、豪快に笑う雪音。軍服みたいなコスプレ衣装もどきを着ているのに、とても似合っている。

 雪音も知り合いがいなければ外でもこの態度なのに、昨日のはいったい何だったんだろう。

 

 買い物に行きたいと父に伝えると、じゃあみんなでショッピングモールにでも行こうという話になり、車を出してくれた。

 県で最大級のショッピングモールで、とりあえず県民は休みの日にウィンドウショッピングするならここに来る。ゴールデンウィークの2日目なだけあって、非常に人が多いのだが、僕の家族の周りにはあまり人が寄りつかないので快適だ。理由は簡単。



「ねぇ、あれ芸能人かな……」

「えー、絶対そうだよ!やばー、目の保養になるー」

「同い年くらいかなー、ねぇ、声かけなよ!」

「むりむりむりむり!高嶺の花すぎるって!」



 そう、僕の両親と妹が絶世の美男美女だからだ。

 そこいらでこちらを見ながら話す声が聞こえてくる。そうだろうそうだろう、僕の家族は凄いんだ。そしてそこの女の子、声をかけるのはやめておくんだね。

 君が声をかけようとしているのは子持ちの40歳手前の既婚者なのだから……。



 と、いけない。つい雪音のファッションショーを楽しむモードに入っていたが、僕は僕の色々を買わなければ。

 ワックスとかグリースとかバームとか、色々と種類があってどれを買えば良いのかもわからない。化粧水とかって男でも使うものなのかな……?保湿は大事だろうだけど、種類多過ぎない?どれがいいんだ……。



「夜嗣。お前の髪質ならこのワックスとこのグリースを1対1で混ぜて使うと良いぞ。艶が出るし動きも出しやすい。帰ったらセットの手本を見せてやるから。化粧水と保湿クリームは俺が使ってるのを使えば良い。色々試してたどり着いたやつだから多分夜嗣にも合うはずだからな。あとこれからの時期日焼け止めもちゃんと塗っとけ。これがおすすめ。あとは――」


 やばい。父さんが今までで一番頼れる存在になっている。イケメンも努力しているんだな……。

 ぽいぽいとカゴの中に様々な美容用品が突っ込まれていく。その一つ一つの値段が学生には簡単に手が出せないような高いものばかりで、やはり垢抜けには金がかかるんだなぁと感じた。

 アルバイト、始めよう。それからお金は返そう。




 レジのお姉さんが父さんに見惚れて連絡先を渡してくる一幕もあったが、無事に買い物は終わった。

 父さんはとにかく母さん一筋なので、結婚してるのでごめんなさいときちんと告げている。仕事が終わればまっすぐ帰って来るし、たまにするイタズラとか子供っぽいところがなければ完璧な父親だ。


 服に関しても父さんが選んだのを買ってもらった。もうこういう美容系のことは全て父さんに聞いたら良さそうだ。

 母さんは母さんで、僕の服これが良いんじゃない?と持ってきたのがほぼスーツにしか見えないどフォーマルな服だったので、断っておいた。


「スーツってかっこいいのにぃ」


 などと呟いたのを僕は聞き逃さなかった。

 だから父さんがホストみたいなスーツっぽい格好をしているのかな?なんでもいいけど、息子にフェチをぶつけないで欲しいものだ。

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