24.作ってワク×2
「じゃあまず、夜嗣君単体で何ができるか確認してみる」
「どうぞ」
二人きりだとなかなか話が進まなかったが、どうやら海琴さんに見られながらだとちゃんとやるらしい。
僕の背中に手が触れて5秒程度で、奏さんは僕から手を離した。
「できた」
「なんだこれです」
後ろで奏さんが完成を告げると、海琴さんは興味深そうに呟く。
僕も振り返ってみると、奏さんの手には懐中時計のようなものが握られていた。
「ふむ。【回帰する時の主の懐中時計】という道具だ。効果は……竜頭を押すことで5秒だけ世界の時間を巻き戻し、使用者の記憶のみを引き継ぐ、というものらしい」
「時間を戻すです!?そんなの、今までの戦術の常識を覆すです!」
二人の驚きの表情。そこにはほんの少しの悔恨が垣間見えた。
僕の時を止める力なんかよりもよっぽど規格外だ。例えば僕が時を止めれば、その間に周囲の人を助けられるかもしれない。だが、僕の意識よりも早く破壊が齎された場合。
死んだ人は、時を止めても戻ってこない。
だが、この道具があれば話が変わる。より強力な能力を持つ人がこの道具を使うことで、失うはずだった命をも救うことができる。
「使いどころも単純で、効果も強力。5秒なんて、上位の覚醒者にとっては多すぎるくらいだ」
「よつぐ、多分よつぐは今後魔物と戦うことはないです。こんな強力な道具の元になるのに、失うリスクなんて背負う必要がないです」
「つまり君の仕事場はこの部屋ということになる……かも……」
「それは楽しみですね!」
奏さんは自分で言って自滅した。恥ずかしいなら言わなければいいのに。
それにしても、僕としてはそれはありがたい。魔物の討伐に出向く必要がないなら、普通の生活を送りやすいからだ。あらかじめ道具を量産しておき、あとは補充要員になる。異能力を悪用さえしなければ、割と自由な生活が待っているのではないだろうか?
ここに連れてこられたときはどうなることやらと思ったが、思ったよりもいい結果に終わりそうでなによりだ。
「この分だと、二人の能力を合わせて創った道具に関しても期待ができるね」
「はやく、はやくつくるです!」
どうやっているのか、被っているフードのうさ耳がピンと立った状態で、全身から楽しみな様子を醸し出す海琴さん。こういう特殊能力を持ったアイテムを手に入れる展開って男のロマンのような感じがするけど、実際目の当たりにできるなら誰だってワクワクするよね。
「二人で向かい合わせになって、お互いの両手の平を重ねて」
「はい」
「こうです?」
奏さんの指示に従い、海琴さんと向かい合わせになって座り、両手の手のひらを向ける。
海琴さんは僕の手に自分の手を重ね合わせ、そのまま指を絡めてきた。
わぁ。おててちいさい。すべすべ。
「待ってみこちゃん、絡めなくていい。重ねるだけでいいから」
「あ、そうです?」
わざとか?
全く。奏さんにしても、海琴さんにしても、思春期男子の心をもてあそぶ人たちである。
準備はこれだけで完了なのか、奏さんは両手で僕と海琴さんの肩に手をのせる。2人の時は背中じゃなくて肩なんだ。
そう考えるのも束の間、僕と海琴さんの間に色とりどりの光の粒が集まっていき少し大きくなったところで弾ける。
光が弾けた場所には、目覚まし時計のようなものが置かれていた。時計と鐘を組み合わせたら目覚まし時計……ってことなのかな。
奏さんは新しく創られた道具を拾い上げ、観察する。
「夜嗣君、君の異能力は本当に面白い。実は今まで、みこちゃんと道具を創る中で、相性のいい異能力を持った相手はいなかったんだ」
「かなで、もったいぶらないで早く教えるです」
「ごめんごめん、つい嬉しくなっちゃって。これは【閉じる時空の王の目覚まし時計】。私の異能力で、能力を持った道具を創るときはね、通常等級が二段階下がるんだ。だけど、これは2人の等級がそのまま反映されている。それだけ、2人の異能力の相性が良いんだ」
「それでそれで、効果はどんなのです?」
「目覚ましのベルを鳴らすことで、使用者及び付近100m以内の覚醒者を、別の次元に飛ばす。もう一度ベルを鳴らすことで、飛ばされた覚醒者を全員元の次元に戻す。時計の針をロックすることで、使用者以外のすべての時間を1分間停止することができる……まぁ端的に言って、今までの道具の中でもかなりおかしな性能してるね」
「えっと、つまり鐘の効果が時間制限なしになって、使う人は時間停止の能力も手に入る、ってことですか?」
「やべぇです!こんなの、全員持ったら魔物にやられる人いなくなるです!よつぐ、お前すごいです!」
こんな道具、もしオンラインゲームとかにあったら修正必須のチートアイテムだ。
だけど、ここは現実。僕の覚醒した異能力がこんな形で誰かの役に立つのであれば、大いに使ってほしい。
その後、懐中時計と目覚まし時計を10個ずつほど作成したあとに、元の場所に帰らせてもらうことになった。
既にちょっと昼を過ぎているくらいなので、アレさんと雪音は待っているだろうな。なんて言い訳しようか悩んでしまい、少し気分が落ち込む。
久しぶりに会う友人と話し込んでいたから戻るのが遅くなった、ごめんなさい、その間の時給はカットしてください……よし、これで行こう。
アレさんも雪音も鋭いところがあるので嘘だとバレてしまうかもしれないけど、僕が話したくないスタンスを貫けばそこまで追求してこないはずだ。時給のカットは本当にそう。今全然関係ない会社の中にいるからね。
「あ、この道具作成とか、覚醒者としてこの組織に協力した時の報酬なんだけどさ」
「え、報酬あるんですか?」
びっくり。これが覚醒者の責任だとかなんとかでただ働きするものだと思ってた。
というか、お金とか貰っても出所を身内に説明できないし、額によっては税金のことも考えないといけない。断った方がいい気がする。
「あるよ。しかも赤誠コンポーネント株式会社名義だと、こういう報酬全部非課税なんだよね。社長が政府と話つけてるから」
「えっ」
「でもよつぐ、普通に家族居るなら、お金を大量に持つと不自然じゃないです?」
政府と話付けて非課税ってなに?
国家の闇みたいな話をさらっと聞いてしまったけど……いやでもそうか、覚醒者が集まるこの組織が魔物を討伐しないと、簡単に崩壊してしまう可能性もあるんだよな。
それならいい……のか?秘密結社ぽさが増していく……。
「たしかにそうかぁ……わかった。浅田とまた話しておくから、次に来た時にまた話そう。あ、お昼ご飯私たちと一緒に食べに行く?」
「うわ、またメス出し始めたです」
「ちがうんだけど!普通に誘っただけなんだけど!」
「すみません、バイトの途中で抜けてきちゃってるので、戻らないとです……また次にでもお願いします!」
綺麗なお姉さんたちとお昼ご飯。ぜひ行きたいものだが、今は先約がある。
「そうだよね、急だったもんね。じゃあこれ、私の連絡先」
「あ、ぼくのもあげるです」
「ありがとうございます」
メッセージアプリの連絡先交換用の画面をこちらに差し出してくる奏さんと海琴さん。
家族と幼馴染、あとアレさんくらいしか入っていなかった僕のメッセージアプリの連絡先に、突然女性を2人も追加してしまった。
「念のために言うけど、異能力のことについてはメッセージでは話さないようにね。待ち合わせとか、集会の日程とかそういうのを共有するためだから」
「むかえが必要な時はぼくに場所を言うです。暇だったら連れてってやるです」
たしかに、普通のメッセージアプリで異能力の話をしているのはリスクがある。
通知を見られて、厨二病に間違われるリスクが。
海琴さんの言い方だとちょっとタクシー代わりに使っているようで気が引けるが、数秒で西日本と東日本を行ったり来たりできるみたいなので、遠出したいときは遠慮なく相談したいかもしれない。
2人ともかなり気さくで、結構しっかりめに仲良くなれたと思う。
今日出会った人は、みんないい人だった。
ただひとり。桜御翁元親だけは、注意が必要かもしれないが。




