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2.お兄ちゃん

「きゅう……じゅ……ぐふっ」



 朝食?昼食?を食べた僕は、自室で腕立て伏せをした。10回できた。10回目は上がりきらなかったけど、10回できたことにする。

 半透明な板……いつまでもこれで呼ぶのもおかしな話か。アニメやゲームにちなんで、仮にステータスと呼ぶことにしようか。

 とりあえず僕は、ステータスについては様子見をすることにした。

 仮に幻覚の類だったとしても、僕の潜在意識の中にある僕自身の数値を見ることができるのだ。

 もしもこれが僕の努力によって伸びる数値だとすれば、現実ではなかったとしてもモチベーションに繋がる。だとすれば別に見えても問題はないし、なんならプラスの要素にすらなり得るだろう。


 努力はいつだって目に見えない結果の積み重ねで、苦行だ。努力の成果が発揮されるときが来るまでは、自分が成長している自覚を持つことも難しい。

 だけど、このステータスの数値が伸びていくとすれば、僕は努力が可視化されていることになる。

 それは、僕にとって極めて都合の良い幻覚だ。



「目標は筋力数値40ってところかな……」



 数値を1伸ばすのにどれくらい必要かわからないけど、とりあえずの目標である。

 筋力にばかり目が行っていたものの、他の項目についても考えておこう。


  ――――――

 姫宮 夜嗣

 15歳

 状態:正常

 筋力:35

 反応:65

 瞬発:50

 精神:60

 魅力:50

 特殊技能:

   【自己分析】

     あなたのことはあなた自身が最もよく知るべきだ。あなたはあなた自身の現在の能力を分析し確認することができる。

 ――――――



 このステータスの出し方がわかるように、各項目が何を表しているかも僕にはわかる。その数値が相対的にどのくらいかというのはわからないので、そこのところは少し不便な幻覚ではある。

 筋力はそのままの意味で力強さ。

 反応は反応速度で、まぁよく反射神経とか言われる曖昧なものだ。

 瞬発は走る速さとか、動きの機敏さとかそういう感じ。

 精神は落ち着きがあるかとか大人っぽいかとか。

 魅力は、容姿だとか他人からの第一印象につながるもの。


 さっきも考えていたように他人のステータスが見られる訳ではない為、僕のステータスが相対的にどのくらいの高さなのかはわからない。まぁ筋肉が人よりない自覚はほんのりあるし、フツメンだという自覚もあるので、50あたりが平均値なのだろう。

 もしこれで100が平均値とかいう衝撃の事実が明らかになったら、僕はとんだクソザコナメクジである。なんて、僕の幻覚なんだからそんなわけないけど。



「これでよし」



 今日時点のステータスを手帳に書いておく。一日ごとに書き出して、成長を実感するのだ。

 反応速度と精神については鍛え方がいまいち思いつかないので後回しでいいか。

 瞬発に関しては、とりあえず走り込みとかそういう足を動かすのが有効そうなので、今から走りに行こう。

 魅力については、また帰って来たら色々することにしよう。





「おや、兄上よ。どこへ行こうというのかね?」


「ああ、ちょっと運動がてら走ろうと思って」


「そうなのか!珍しいこともあるものだ!ワハハ!我も行くから3分間待つのだ!」



 そのセリフ、僕が待つ側なのか。別にいいけど。

 妹と並んで走ること自体は全く恥ずかしいとか思わないんだけど、おかしな言動をしている雪音をもしクラスメイトに見られたら恥ずかしい。確実に噂になる。

 入学して一ヶ月、やっと馴染んできたところなのにもし見つかったら……と背筋が凍る思いがしたものの、僕は妹が懐いてくれている事実にはやはり嬉しいと感じるので大人しく待つことにした。


 どんな魔法を使ったのか、40秒ほどで支度を済ませた雪音はすぐに玄関に現れた。

 1歳下の雪音は、現在中学三年生。通っている中学の指定のジャージを着ている。成長することを見越して大きめのサイズを買ってから結局成長しなかった雪音は、身長138センチとかなり小柄だ。

 ジャージに着られているような姿を見ると、思わず微笑んでしまう。



「兄上よ、何を考えているか一目瞭然だ。今に見ておれ?我はすぐにぼんきゅっぼんのないすばでーのセクシーダイナマイトになるからの!」


「それはちょっと……」



 妹にセクシーダイナマイトになられても兄は困ります。





 家の近所に公園があるのだが、雪音が言うにはその外周がランニングコースとしてよく使われているらしい。道路が整っていて歩道もそこそこ広く、信号待ちをすることもないからだとか。

 僕は今まで自主的に走ることなんてなかったのだが、雪音はたまに走っているらしいので慣れているみたいだ。今も軽快に僕の少し先を走っている。



「……兄上よ、それは些か体力が無さすぎるものと思われるぞ」


「いや、だって、はぁ、雪音走るの、速すぎて……うえっ、脇腹痛い」



 雪音は息一つ上がっていないが、僕は見ての通り満身創痍。雪音は走るのがとにかく速く、短距離走でもしているのかという速度で走り続けるのだ。

 最初は普通について走れたのだが、一つ目の角を曲がってもペースを落とさないことで不穏さを感じ取り、二つ目の角を曲がる頃には僕の脚は言うことを聞かなくなっていた。



「ワハハ!まぁ、我も兄上と走れるのが嬉しくての!最高にハイってやつだったのだ!ここからはペースを落とそう、安心するのだ」


「お手柔らかにお願いします……」



 そこからはちゃんとついていける程度の速度を維持しながら走ってくれる雪音。が、あくまでついていくのがやっとなので、色々と話しかけられても返事をする余裕がない。

 部活で走り込みをしている同校の諸氏には尊敬の念を抱く。そりゃこれだけ疲れることを毎朝してたら、授業中に寝るわけだ。


 しばし走っていると、前方から真っ白い巨大な犬を連れた女性が歩いて来るのが見えた。あれはグレートピレニーズかな?



「あ!コタロウだー!!」


「あちょっ」



 そのデカ犬を視認した瞬間に猛ダッシュで走り始める雪音に、さすがに着いていけず手を中空に彷徨わせる僕。コタロウって、あのデカ犬の名前か?


 コタロウだと思われるデカ犬の首に縋りつき、モフモフわしゃわしゃしている雪音に追いつくと、すかさず飼い主であろう女性に謝った。



「よーしよしよしコタロウコタロウコタロウそーれそーれそれそーれそー!ワシャワシャシャシャ」

 

「すみません、ウチの妹が……あれ」


「あれ?姫宮君だ」



 遠目に見るとデカい犬が目立ちすぎて気付かなかったが、コタロウの飼い主だと思った女性は、僕のクラスメイトの天津(あまつ)紗凪(さな)であった。

 なんか外でプライベートのクラスメイトに会うと緊張する……と、いうか。

 慣れない運動で汗ぐっしょり、息も絶え絶え、そして何よりおかしな行動と言動が目立つ妹と一緒にいる。これはヤバい。おかしな奴だと思われる。



「姫宮君って雪音ちゃんのお兄さんだったんだ」


「え、あ、うん。天津さん、僕の妹のこと知ってたんだ」


「よくこうやってうちのコタロウと遊んでくれる可愛い女の子だからね、でもお兄さんがいるのは知らなかったし、姫宮君に妹さんがいるのも知らなかったな」



 ってまだ1ヶ月だからそりゃそうか、だなんてとぼけて笑う天津さん。僕は多少人見知りする程度でちゃんと話せるくらいのコミュ力しかないが、僕の妹と天津さんはコミュ強だ。

 天津さんは白いワンピースのよく似合う清純で可愛い黒髪セミロングの女の子だ。クラスの男子人気もかなり高いのに、性格に嫌味が全くなく、女子にも好かれているであろうクラスの中心的存在。

 対して僕は貧弱一般生徒だという自覚がある。存在力が違いすぎて一緒に居ると消し飛びそうなので、挨拶もほどほどに立ち去りたい。



「雪音、そろそろ帰ろう」


「えー、お兄ちゃん。コタロウと遊んでったらだめ?」


「えっ」


「あはは、姫宮君。そこの公園でよく雪音ちゃんにはコタロウと遊んでもらってるんだ。よかったら今日も遊んでもらえないかな?」


「あ、うん、大丈夫……え?」



 雪音の突然の変わり身に、思わず天津さんの提案を飲んでしまった。

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