15.非日常も続けば日常
その後は他愛もない会話をしながら帰った。色々と阿武堂さんから話しかけられたが、今の僕には右から左に通り抜けていくだけだった。
桜御翁元親という青年は明らかに何かしらの能力を使っていた。そうじゃなければ、他人の夢で話しかけるなんて到底できるとは思えない。
そして、なにかしらの能力を持っていそうな彼を知っているのに、知らないふりをする阿武堂さん。その阿武堂さんが僕に対して口を滑らせた、覚醒したのかという話。
手品と言えば慌てたり、設定と言えばそれに乗っかったり……いろいろと疑わしい部分はあるのだが、異世界の魔王だとか勇者の子だとか、僕の持つ能力と関係のなさそうなことまで言っていたのでいよいよわからない。
……今は考えても仕方がないか。近いうちに会おうだなんていわれてしまったのだから、座して待てば良い。
もしこの日常が異能バトルの世界になっても生き残れるように、僕は僕で能力を鍛えればいいだけの話だ。
そんな未来が来ないことを切に願う。家族や友人が戦いに巻き込まれて……なんてこと、僕には耐えられそうにない。
「ああああああああ!!!!お、おぬしら、何をしておるんじゃあああああ!!!!」
「あれ、雪音じゃん。おかえり」
後ろから聞き覚えのあるけたたましい声が響いたので振り返ると、雪音が一人で立っていた。
アレさんと出かけていると聞いていたが、丁度解散して帰っているところだったのかな?
メッセージの返信はなかったけど。まだ見てないのか?
「ありゃ、バレちゃいました」
「ありゃぁんバレちゃいましたぁんテヘペロ、じゃないのだ!!とりあえず離れよ!!」
「雪音、いきなり引っ張ると危ないよ」
朝それで喧嘩になってたじゃないか。
今も馬鹿にするように人の言ったことを誇張して真似していたし、雪音って少し社会性が足りないのかもしれない。というかなんで誇張の仕方がちょっとオネェっぽいんだ?
まぁ、まだ中学生だし、これから痛い思いをして成長していくのかな。歳の近い僕が言うのもおかしい気がするけど。
「まったく、油断も隙もない兄上だの……すぐに我の同胞をかどわかして……」
「待て待て待て待て、人聞きが悪すぎる。かどわかしてるわけじゃないからな。妹の友人と一緒に帰っているだけだからな」
「お兄さん、私を誘拐しちゃうんですか……?」
「しないから。なんで急に二人して僕を陥れようとしてるの?」
気付いたら僕が悪者にされかけてた。警察に聞かれたら洒落にならないのでやめてください。
「それにしても二人はいつの間に知り合っていたのじゃ?希愛、学校ではそんな話したことないであろう」
「あ、たまたま偶然今日出会ったんだよ。ほら、あの、雪音のおじいちゃんの山で」
「ほう?……ふむ。兄上よ、我はちょっと希愛と話すでの、先に帰っておるのだ」
「あ、うん。わかった。気を付けて帰るんだよ。またね、阿武堂さん」
急にのけ者にされてお兄ちゃんカナシイ!
というのは冗談として、雪音も何やら真剣な顔で何事か考えたように見えた。
阿武堂さんと同じで、雪音も俺に何か隠し事をしているのだろうか。だとすれば、ティナも?
あの時怒ったティナのプレッシャーは本物だった。
雪音たちの話すあの設定。今考えると、誰が話す時でも【虚偽感知】が反応していない。
もしかして、全部本当のことなんじゃ……なんて。
今朝雪音が僕に「鼻毛が出ている」と言った時と同じように、すぐ嘘とわかるようなことだから反応しなかったのだろう。ちなみに鼻毛は本当に出ていない。一応鏡で確認した。
今日一日でいろんなことが起きすぎて、正直疲れた。
筋トレは軽めにして今日は早めに休もう。
寝る前に雪音からメッセージが届いて、内容は「なわけ」だった。
翌朝。また変な夢でも見るかと身構えながら寝ていたけど、キュウリでできたロケットに乗って宇宙に行く本当にただ変なだけの夢を見た。意味が分からん。
今日はゴールデンウィーク4日目にして、一旦の連休の区切り。
大人たちは有給休暇というものを使って連休をひとまとめにしてしまうらしいが、公立高校に通う僕にはまだ少し先の話である。
明日から三日登校日が続く。学校に行けば昨日みたいに【念動力】の練習なんてできたものではないが、僕は学生。学校に通うことが仕事みたいなものだ。
宿題は初日どころか配られたその日に終わらせてある。実は勉強好きなんだよね。
もはや4日目ともなると、ガチャガチャを見て安心感がわいてくる。こんな非日常も続けば日常になってくるもので、今後ともよろしくと念じながら、いつも通り500円玉を挿入した。
慣れた手つきでガチャを回し、カプセルを手に取る。今日のカプセルの色は赤色だ。
【自己分析】や【念動力】と同じように、能動的に使うタイプの能力が手に入るのだろう。
――――――
【悪魔召喚】
超常たる存在は、いとも容易くあなたを窮地から救うだろう。だが忘れることなかれ。彼らが人ならざる存在であることを。
異世界より悪魔を召喚し、契約を結び願いを叶える。
召喚した悪魔により対価は異なる。
――――――
……あー。
絶対に使っちゃダメだ。封印しておこう。
ゲームの世界とかなら、高レアリティの強力な能力なのかもしれない。だが、現実にどう影響を及ぼすかわからない能力は危険すぎて使えたものではない。
能力を手に入れた段階で、その能力の使い方自体はわかる。【自己分析】や【念動力】もそうだったし、【悪魔召喚】に関してもどうすれば発動するかはわかる。だが、その後どんな現象が起こるかがわからないのだ。
使い方がわかるからうっかり発動しちゃった!なんて事故は起こらないだろうが、一応気をつけるようにしよう。
ちなみに、願い事を考えながら【悪魔召喚】と言葉に出せば発動する。考えるだけで発動する【自己分析】や【念動力】と同じタイプじゃなくてよかったと思うべきか。
そういえば、昨日の夜にステータスをメモするのを忘れていた。そう変わるものでもないし、朝ガチャを回した後が一番覚えてそうだから、朝に習慣つける方がいいのかな?
そう考えながら【自己分析】を発動した。
――――――
姫宮 夜嗣
15歳
状態:正常
筋力:37
反応:66
瞬発:51
精神:122
魅力:57
覚醒異能力:
【明滅する時の王】▽
常時発動能力:
【虚偽感知】▽
特殊技能:
【自己分析】▽
【念動力:レベル4】▽
【悪魔召喚】▽
――――――
おっと?
先ほど手に入れたばかりの【悪魔召喚】の他に、明らかに目を引く部分が二か所ある。
まず精神の値。昨日の朝から2倍近く上昇している。
考えられる要因とすれば、【念動力】の練習を頑張っていたことくらいで……他にも色々と昨日は精神的に疲れたけど、そんな簡単に上がるのか?今後も【念動力】の練習は続けるので、これから先どのような上昇を見せるかが楽しみである。
まぁ、ステータスに関しては高すぎて困るということはないだろう。
もうひとつ。覚醒異能力とは?いつの間に手に入れたのかがわからない。
少なくとも、夕方に【念動力】のレベルを確認したときにはなかったものだ。
しかし、覚醒か。ここでもこの単語が出てくるとは。確実にこの単語がなにかしらのキーワードとなっているのは間違いない。阿武堂さんが覚醒どうこう言っていたのは【念動力】のレベルを確認した直後くらいで、その時になかったとすると……桜御翁元親とやらが接触してくるタイミングで手に入れたのだろうか。
逆三角の部分に意識を向け、詳細を確認する。
――――――
【明滅する時の王】
任意で時間を停止することができる。
任意で時間を動かすことができる。
時間の流れに関わらず動くことができる。
キーワード:なし
――――――
時間を停止……時間停止!?
大抵の作品で最強格に入る能力だが、こんな能力が簡単に手に入ったことにも疑問を覚える。
僕は自分で言うのもなんだが、しっかりとした倫理観を持っていると思う。だから、能力を悪用して私利私欲を満たすために他人を害することはないと断言できる。
だが、他人はそうだとは限らない。現状に不満を持つただの人間が、ある日突然強力な能力を手に入れたら。
僕の他にも、こういった強力な能力を持っている人間は存在しているはずだ。
少なくとも、桜御翁元親は能力者だ。僕は相手を知らないのに、僕の夢の中に勝手に侵入してきた。
君の夢だから安心して、なんて言っていたが、今考えるとこのセリフも意味が分からない。夢の中で彼に殺されたら、現実の僕はどうなってしまうのだろうか?
それに、彼は「こちら側の世界」と言った。それはつまり、能力者が集まるコミュニティは存在するということを示している。
彼がひとりで勝手にそう言っているだけの可能性もないわけでなかろうが、その線は薄いとみていいだろう。
僕の知らないところで、僕を巻き込んで世界が動いていく。
そんな予感に不安を覚えながら、とりあえずステータスのメモを取った。
――――――
筋力:37 1up
反応:65 1up
瞬発:51
精神:122 59up
魅力:57 2up
【念動力:レベル4】
37×122×4
18056g
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