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殺意のない敵

 こんにちは。


 僕は、漫画や物語などで、主人公から「君からは殺意を感じない」と言われるタイプの、敵キャラです。


 大抵はそのあと、ボスに殺されたりいつの間にかいなくなったりして、人知れず退場しちゃう運命の役柄です。


 でも、僕のようなキャラって、ほとんどの場合、強い能力や武器を持っていて、しかも見た目がいかつかったり、醜悪だったりするんです。スラッとしたイケメン、なんてのは滅多にありません。


 わかります。ギャップ萌え、とか言うんですよね。イケメンが凶悪で冷酷で性格悪くて、僕たちみたいな醜悪な見た目が良いやつとかいう。「オデ、ニンゲン、スキ」みたいな。


 わかります。わかりますよ。でもですね、僕のような役って、実は結構大変なんです。


 そう。これは貴方がた読者に対する、愚痴です。いつもそういう物語を読んでいるのでしょ。たまには僕たちの愚痴くらい読んでくれたって良いじゃないですか。


 僕たちみたいな賑やかしがいるから、物語も盛り上がるんですから。


 大体ですね。主人公サイドも、他の敵キャラも、読者の皆さんも、果ては作者の方まで、みんな僕たちの苦労なんてわかっちゃいないんです。


 敵として僕が登場します。熱血おバカさんな主人公は「きっきさまはだれだーてきかー」とか言いながらこちらに突進してくるんです。


 こんなもん、もう「殺してくれー」と言っているようなもんじゃないですか。やめてくださいよ。自殺願望でもあるんですか。もっとこう、立ち止まるか、ジリジリと間合いを詰めれば良いじゃないですか。突進て。イノシシかよ。


 んで、こちらは考えないといけないわけですよ。まさかそのままターゲットを能力や武器で撃ち抜くわけにもいかない。


 あ、ちなみに僕たちみたいな敵キャラは、大抵が中・長距離攻撃タイプになります。近接攻撃タイプはあんまりいませんね。そういうのは、もう殺意ありまくりか、そうでなくても暴力大好きって人ばっかりです。野蛮ですね。


 「殺意がない」は、ほとんどの場合「相手を傷付けない」に直結します。相手の半身をふっ飛ばして、「殺してないよ」は通じない世界なんです。だから、相手は五体満足でないといけないわけで。面倒くさいわけですよ。


 話が逸れましたが、まぁこちらはアホなイノシシみたいに突っ込んでくる主人公を撃ち抜くわけにもいかないんです。死んじゃうし。今思ったんですけど、「死んじゃうし」って「信者牛」にもなりますね。牛の信者。ウケる。


 なんの話でしたっけ? ああ、思い出した。だから、そこで考えるわけです。どこに攻撃するか? と。


 手前に撃つとしましょう。もしかしたら、こちらに向かってくる主人公がハッスルしてスピードを上げてくるかも知れない。そうすると、手前に撃った攻撃に直撃する可能性がある。


 では、左右どちらかになります。ですが、ここでも問題があるんです。例えば左側が崖や針の壁など、「その周辺に行ったら何らかのダメージが想像される」ものだったとします。


 ここで僕が右に攻撃をすると、主人公は左に避ける可能性が強いわけじゃないですか。そうすると、そこが崖なら落ちるし、針の壁なら刺さっちゃうと。まぁこういうわけですね。


 では左に撃てば良いか? これもそうとは言い切れない。右側に罠がないとは言い切れない。どうしようもないじゃないですか。そこで、主人公の頭上およそ50~90cmのところを狙って撃つわけです。


 相当ズレてますよね。わかっているんです。でも、そしたら主人公か、他の敵キャラ役に「へっ、どこを狙ってんだよォ!」って言われるわけですよ。なんですかこれ。イジメですか? イジメ、ダメ。絶対。


 まぁその後、僕以外の敵キャラを主人公はガッシボカッとやっつけて、僕は見逃されるわけです。「お前からは殺意を感じない」と。


 さらに問題は、その後です。


 ボスか上司に「なぜお前だけ、のこのこと帰ってきたのだ」と殺されるか、そのまま一生忘れ去られたように出てこなくなるかのどっちかなのです。ほとんどの場合。


 たまにラッキーな場合は、主人公の仲間になるのですが、途中で死にます。ほとんどの場合。体の良い感動要因ですよ。まったく。


 そもそもね、対抗勢力ってのは、殺したほうが楽なわけです。生け捕りってのは、そりゃあもう、大変な労力が必要なんです。なんたって、相手はこちらを殺しにかかってくるんですから。


 普通は「殺らなきゃ殺られる」と考えるべきなんです。でも、こちらは殺意を持てない。足止めか生け捕り、これが僕たちに課された任務であり、使命なのです。


 わかってもらえましたか、僕たちの苦悩が。


 わかってもらえたら、作者の方に、もうちょっと僕たちみたいな「殺意のない敵」のその後を、幸せにしてもらえるように、アンケートやファンレターを送ってください。


 そうしないと、主人公の手足をもいで「殺してないからいいよね」とか言う「殺意はないけど主人公サイドが傷付くのはむしろ興奮する」という輩が増えますよ。いやでしょ? そういうの。


 え? それはそれで良い? むしろ主人公が死ぬのも、ストーリーが面白くなるためなら問題ない?



 貴方がた読者のほうが、殺意高めじゃないですか。怖い。 

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― 新着の感想 ―
冷静かつ的確な分析をありがとうございます。そこまで深く物事を考察されている事に心から感心致します。今後バトルモノを執筆する際の備えになりました。
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